「Intuos4」のケーブルをなんとかしたい

ペンタブレットで悩ましいのがケーブルの取り回しだ。「Intuos」シリーズは「Intuos3」までは本体にケーブルが固定されていたが、「Intuos4」からは着脱可能となった。おかげで本体側のコネクタのみをはずして、不要な時は本体を片付けておくことができるようになった。ケーブルは汎用のminiBタイプUSBなので、デジカメやカードリーダーなどたまにしか接続しない他の周辺機器とケーブルを共有できる。おかげでパソコンに接続するケーブルはずいぶんと減らすことができるようになった。とはいえ、机上のケーブルというのはやはりわずらわしいものだ。Intuos4のコネクタは本体サイドにあるため、コネクタが横方向に出っぱり、ケーブルも真横に出ている。これがしばしば、マウス操作の邪魔になる。特に付属のケーブルはやや太めのもので、太さもテンションもあるので机上でそれなりに存在感がある。邪魔にならないようにケーブルを短めにすると今度はタブレット本体の移動ができなくなる。

そこで筆者が実際に行ってきたふたつの工夫を紹介しよう。まずはケーブルを本体の上方向に逃がす方法。ケーブルをくるりと輪にして、結束リボンなどでしばる。これでケーブルは本体の上方向に延びてくれる。横方向への出っぱりも最小限で、手元を広く使うことができる。これでもまだ邪魔だという場合は、市販のリボン状のUSBケーブルを試してみよう。付属のケーブルと比べ、リボン状のケーブルはテンションが弱く、クネクネと自在に曲がってくれる。重量も軽いのでタブレット本体を動かしてもひっぱられることがない。筆者の環境では問題なく使えているが、もちろん、メーカー動作保証はないので自己責任で試してみて欲しい。

「左は純正ケーブルを90度廻して結束バンドで留めたもの。これだけでずいぶんすっきりする。右は市販のフラットタイプのUSBケーブルに取り替えた場合。ソフトなので取り回しが楽になる

「Iintuos4 Wireless」の登場

さて、このようなケーブルとの闘いに終止符を打つ製品が今年登場した。Intuos4 Wireless」だ。その名の通り、完全にワイヤレスで動作するIntuos4だ。

左画像が有線版、中央画像がワイヤレス版。一見してほとんど見分けがつかない。右画像のように、ワイヤレス版には持ち運びを考えて「Bamboo」同様のペンフォルダを装着できる

実はワコムからは2005年に、「FAVO」(現在の「Bamboo」にあたる、ペンタブレットエントリーモデル)のBluetooth版が出ていたのだが、すでに生産終了となりこの数年は入手が困難な状況が続いていた。Intuos4 WirelessはこのFAVOのワイヤレス版に続く、待望の製品なのだ。ワイヤレス版はぱっと見ただけでは、有線版のIntuos4 Mediumサイズと見分けがつかない。サイズも厚みも有線版とほぼ同じ(ごくわずか小さく薄く、軽くなっている)。描画エリアはほんの少し、小さくなっているが、わずかな違いなので使ってみて違和感を感じるものではない。分解能や筆圧感知、各種ファンクションなどペンタブレットとしての性能は有線版となんら変わりがないが読み取り速度だけはパソコン側がBluetooth 2.1+EDR規格でないと遅くなる。もっともそれが問題になるケースはほとんどないだろう。

ワイヤレスにはBluetoothを採用。最近のパソコンの多くはBluetoothを最初から内蔵しているので、すぐに利用が可能だ。Bluetoothのメリットは複数の対応機器を扱える点。ワイヤレスマウスだとひとつのマウスに対してひとつのUSBコネクタを占有してしまうが、Bluetoothならマウス、キーボード、ペンタブレットと複数の周辺機器をワイヤレスで接続することができる。特にUSBポートの少ないノートパソコンでの利用に効果的だ。

接続にはまず、ドライバをインストールする。Intuos4のドライバとは若干異なるものなので、すでにIntuos4を使っていた環境でも再インストールが必要だ。Bluetooth製品はまず最初にペアリングという、機器の登録作業が必要。マニュアルに沿って、OSのBluetooth設定で登録させる。あとはドライバがIntuos4を認識し、通常のIntuos4同様に使うことができる。

OSのBluetooth設定画面でIntuos4が認識されている様子。また、メニューバー(Mac)、タスクバー(Win)ではコネクションの状態と電池残量が確認できる

最初およびスリープから復帰時、Bluetoothが再接続する際に3~5秒待たされるが、その後は有線版となんら変わりなく、ファンクションキーやタッチホイールも快適に動作する。反応はごく自然で遅延などの違和感はほとんど感じなかった(筆者の動作環境では『Adobe Flash』のみ描画時の遅延が気になったが、『PhotoShop』等ほかのアプリケーションでは感じられなかった)。Intuos4はUSBから電源を得ているので、普段は電源を気にしていないが、ワイヤレス版では当然充電作業が必要となる。充電はminiUSBのBタイプコネクタを使うのだが、このUSBケーブルで充電中は無線機能は自動でオフとなり有線タブレットとして動作するため、電池切れの時でも即座に有線に切り替えられるのは大きな安心感だ。バッテリーは最大18時間持つ。ただ、ワイヤレス版は有線版と違い、USBコネクタが本体の中心に1カ所のみ。純正のケーブルだとマウス操作時にかなり邪魔になる位置だ。先に紹介したようなケーブルの加工、換装が効果的なので試してみて欲しい。

USBコネクタ周辺。通常のIntuos4と異なり、センターに1カ箇所のみ。両側は電源スイッチとペアリングのためのリセットスイッチ

部屋からIntuos4を持ち出してみよう

実際にワイヤレス版を使ってみると、いかにケーブルが邪魔だったのかが、実感できる。まず、ワイヤレス版ならば自由な姿勢で描くことができる。ひざの上で描いたり、画板のように立てて描くことも自由。ケーブルのせいで机の上の物をひっくり返してしまうというような心配もない。しばらく使用しなければ自動的にスタンバイ状態になるため、使わない時はすぐに片付けられる。片付ける手軽さは最初に紹介したように通常のIntuos4でも変わらないが、逆に使いたい時、ファンクションキーなどを押すことですぐにスリープから復帰してくれるので、有線版の接続の手間よりずっと快適だ。

しかしワイヤレスの真価は、パソコンの前から開放されるという部分にある。たとえば居間の大型TVにノートパソコンを接続して大画面で描く。ワイヤレスだから画面の近くでも、離れていても構わない。部屋のレイアウトにあわせてソファでリラックスしながら描いてもいい。大型デジタルTVとIntuos4 Wirelessを組み合わせれば、まったく新しいデジタルペイント体験ができる。

居間にIntuos4を持ちだそう。地デジ化のおかげで急速に普及しているデジタルTVのほとんどはパソコンを接続可能。解像度はTVの性能次第だが大型画面に描けるのは快感だ。ソファでも卓袱台でも自由自在。家族みんなでのお絵かきも楽しい

プレゼンテーション時にもワイヤレス版は威力を発揮する。筆者はイラストレーターという仕事上、プレゼン中にタブレットで絵を描く場合が多いのだが、プレゼンの演台というのはおおむねとても狭い。ノートパソコンを置くともう、タブレットを置くスペースがない場合がほとんどだ。ワイヤレスであれば、狭い演台の上でケーブルのとりまわしに頭を悩ませる必要はない。タブレットを持って舞台の上を歩き回ることもできるし、客席側にまわって、スクリーンを見ながらペンタブレットで描くことができる。なにも絵でなくても、プレゼンに手書きで要点を書き込むなどすれば、印象的なプレゼンにすることができる。Windowsのアプリケーション「スクリーンペン」や、Macのdeアプリケーション「sktastic」などを使えば、キーノートやPowerPointといったプレゼンツールにペンで自由に書き込みができる。ホワイトボードなら「ここ、大事ですよ!」という箇所に赤で丸をつけたりするが、それをプレゼンアプリ上でできるわけだ。キッチリ作り込んだプレゼンに手書きのライブ感をプラスすることで強烈な印象を与えることができるだろう。

ワイヤレスのペンタブレットならプレゼンもスマートに。アプリケーションに関係なく画面上に直接描画できるツールを使えば、プレゼン時にIntuos4 Wirelessで加筆できる

ワイヤレス版は会議でも威力を発揮しそうだ。中人数での会議時には、プロジェクタを見ながらデザインを詰めていったり、ペンタブレットを渡すだけで、他のメンバーに画面に追記してもらうこともできるだろう。従来ならいちいち席を替わらなければならなかったところが、ペンタブレットを渡すだけで済む。たかがケーブル、されどケーブル。たった1本の細いUSBケーブルから開放されただけで、ペンタブレットの利用場面は飛躍的に拡がる。様々な可能性を秘めたIntuos4 Wireless、ぜひ一度は体験してみて欲しい。

llustration:まつむらまきお