• Two Weeks Notice

多くのオペレーティングシステムには、さまざまな通知用の領域がデスクトップ上にある。たとえば、Androidは、画面上部のステータスバーに、通知アイコンが表示され、これをドラッグして「通知ドロアー」(バージョンにより呼び名が異なる)に、通知履歴が表示される。Chromebookは、デスクトップ下部のシェルフの右側に日時の表示があり、その横に通知数を表わす数字アイコンが表示され、時刻部分をクリック/タップすると、通知が表示される。Androidとは少し異なるが、アプリケーションが同じなので通知メッセージの構造などは同じである。

WindowsのトーストメッセージやAndroid、Chromebookの通知は、タップすることで該当のアプリケーションに対して、通知に関連する機能を起動できる。たとえば、SNSアプリでは、通知の原因となったメッセージを表示するという具合だ。

Windowsの場合、デスクトップ右下にトースト通知が行なわれ、アクションセンターで通知履歴を見ることができる。しかし、Windowsには、もう1つの通知領域である「システムトレイ」(System Tray)がタスクバーの右端にある(写真01)。ここには、アプリケーションやWindowsが表示する「通知アイコン」がならぶ。

  • 写真01: Windows 11 Ver.22H2のシステムトレイ(写真1枚目)。この部分は、縦横16ドットのアイコンが使われていて、タスクバーアイコン(写真左下)よりも小さなアイコンが並ぶ。今年3月のアップデートで久々に改良が行なわれ非表示の通知アイコンを並べるアルゴリズムが改良された。Windows 10(写真2枚目)では、可能な限り縦横に同じ数を並べようとしていた

システムトレイはAndroidのステータスバーのアイコンに似ているが、アプリケーションの一部であり、クリックなどの操作を行なうことで、起動しているアプリケーションのプロセスに対してイベントを発生させることができる。

システムトレイはWindows 95でタスクバーが作られたときに同時に設置された。当時の名称が「通知領域」(Notification Area)である。現在のWindows 11 Ver.22H2では、設定の「個人設定 ⇒ タスクバー」で、この部分を明確に「システムトレイ」と表現しているため、これが現在の正式名称であると推測される。というのも、この部分の表記は、これまで何回も変わり、MicrosoftのドキュメントやWindowsでも複数の表記が使われていた。Windows 11 Ver.21H2では、タスクバーコーナーという表記になっていた。

システムトレイになったのは、Windows 11 Ver.22H2からである。このため、インターネット検索すると、「通知領域」が正式名称であるとした記述がまだ残っている。そもそも混乱したのはマイクロソフトが用語を統一せず、公開文書で複数の表記を使っていたからである。

ここにあるアイコンが「通知アイコン」(Notify Icon)である。当初は、Windowsの機能やアプリが通知を行なう場所として作られたが、Windows 8で通知トーストやアクションセンター(通知センター)が搭載されたことで、基本的には、主たる通知場所としての意味を失った。しかし、いまでも残っているのは互換性が理由だが、もう1つ理由がある。

それは、ふだんはウィンドウもタスクバーアイコンも「常駐型アプリ」を制御するための場所としての使い方だ。一般に、どのオペレーティングシステムでも、アイコンやウィンドウを表示しないアプリケーション(プロセス)をユーザーがGUI操作することは難しい。

Windowsでは、この通知アイコンは常駐型アプリを制御するためのGUI機能としてWindows 95以来ずっと使われてきた。現在でもOneDriveやスマートフォン連携といったWindows 11の標準ソフトウェアでも利用されている。

常駐型アプリは、Linux/Unixのデーモン(バックグラウンドで動作するプログラム)やWindowsのサービスとは違うものだ。ふだんはアイコンもウィンドウも表示しないが、ホットキーや通知アイコンの操作を介して、ユーザー操作を受け付ける「普通」のアプリケーションである。

常駐型アプリはWindows固有の文化とも言えるかもしれない。その源流は、MS-DOS時代のTSR(Terminate and stay resident)プログラムにまで遡る。TSRは、GUIを持たずシングルプロセスのMS-DOSで一時的に簡単なツールプログラムを実行させる仕組みとして作られた。

Unixには、ジョブコントロールがあったので、実行中のプログラムを一時停止させて、別のプログラムを起動して、また戻ることができたが、MS-DOSにはそういう仕組みがなかった。これを無理矢理実現したのがTSRプログラムで、MS-DOS Ver.1.xのAPI、INT 27hの名前から取られたものだ。

Windowsになって、マルチタスク、GUIを搭載したが、ふだんはウィンドウもアイコンも出さない「常駐型アプリ」という考え方は残った。それを現在でも支えているのがシステムトレイなのである。

タイトルの元ネタは、映画「Two Weeks Notice」(邦題 トゥー・ウィークス・ノーティス。2002年)である。わかりにくいタイトルだが、退職届(辞表)のことである。主演は、「ノッティングヒルの恋人」(Notting Hill。1999)で映画スター(ジュリア・ロバーツ)に翻弄される役のヒュー・グラント。今回は女性弁護士(サンドラ・ブロック)を振り回す側。この2つの映画、無関係に作られたものだが、なぜか対になっているように見える。