これまで5回の連載の中で、O2O×FinTechの最新動向を見てきました。第3回でご紹介したポイントサービスのアプリ化や第4回でご紹介したAIを活用したチャットボットなど、テクノロジーを活用した各種サービスの進化は、いずれもお客さまとのコミュニケーションを深化させることで、顧客満足度を高め、事業成長につなげようという各事業者の思いの表れと言えます。最終回となる今回は、O2OとFinTechをかけ合わせ、顧客利便性向上を目指した事例をご紹介します。

「手のひらで完結する決済」というコンセプト

現金のみを取り扱っているバスに乗車し、降車時に料金を支払う際、小銭がなくて慌ててしまうという経験は誰しも心当たりがあると思います。そんなバス乗車時の現金支払いの煩雑さを取り除き、手軽に「手のひらで完結する決済」を目指したのが「BUS PAY」です。クレジットカード情報をアプリに事前に登録することで、お財布もクレジットカードも取り出すことなく、バスの予約から決済、乗車までのプロセスをアプリで完結させる業界初のサービスとして市場導入され、新聞やウェブメディアなどが取り上げたことで話題となりました。

手のひらで完結する決済を目指した「BUS PAY」

予約、決済そして乗車までがスマートフォンのアプリで完結

現在、既に導入されている事例として、高速バスと路線バスがあります。高速バスの場合は、アプリで空席確認・予約をしてキャッシュレスで支払い、乗車します。路線バスの場合は事前にポイントを購入し、そのポイントを乗車券に交換することで乗車が実現します。いずれの場合もバス停に近づくと、利用者の位置情報を検知し、アプリにプッシュ通知が届きます。利用者はその通知でアプリ起動の手間を省くことができ、乗車券画面を運転手に提示すれば乗車できるという仕組みです。これらアプリの裏側では、バス会社の予約システムなどと連携しています。

乗車までがアプリで実現するのは業界初の取り組み

「BUS PAY」利用動画


政府も後押しするキャッシュレス化・ビッグデータ活用の波

政府は2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催等を踏まえ、訪日外国人観光客の利便性向上に向けたキャッシュレス化の取り組みを進めています。

さらに、2016年6月に閣議決定された「2016日本再興戦略」では、決済に伴って得られるビッグデータ活用のための環境整備が盛り込まれました。

目指すのはキャッシュレス経済圏の構築

「BUS PAY」は今後、Beaconによる位置情報の検知やプッシュ通知機能をさらに深化させ、人々が移動する動線上に位置する商業施設などと連携し、利用者にとって有用な情報を提供できるようにすることを目指しています。例えば、バス乗降エリアの周辺情報、スタンプ・クーポン情報などです。人の移動とそれに伴う購買行動をより簡単に手軽にすることで、キャッシュレスな経済圏の構築を実現することが狙いです。利用者の位置情報や購買情報などのビッグデータを活用すれば、利用者一人ひとりのニーズにあった、最適な情報提供を行うことも可能になりますし、事業者を含めた地域全体の経済活性化にもつながります。また、アプリで予約・カード決済ができるという特性を活かし、引き続き増加が見込まれる訪日外国人向けサービスの拡充も実施していく予定です。

結びに

関西国際空港が、免税店での決済に中国の電子商取引最大手のアリババ集団のスマートフォン決済サービス「支付宝(アリペイ)」を導入すると発表しました。アジアを中心とした訪日外国人が増加の一途をたどる中、店頭での支払い手段を増やし、商業収入の拡大につなげるのが狙いのようです。このような決済のボーダレス化の流れは、今後ますます加速すると思います。この変化の著しい時代に事業を成長させるためには、時代のニーズを捉え、追求し続けることが大切です。当社はこれからも、変わりゆく時代の変化を捉えながら、クライアント企業様の事業拡大と成長のお手伝いをしてまいります。

著者略歴

渡辺智也
株式会社アイリッジ セールス&マーケティンググループ シニアマネージャー。慶應義塾大学卒業後、楽天株式会社に入社。オークション事業で営業、マーケティング、経営企画、トラベル事業にて事業開発を担当。2013年9月に当社に入社。大手企業を中心として多数O2Oアプリのコンサルティングやマーケティング支援を行う。University of MichiganでMBAを取得。