第4回となる今回は、O2OやFintechの中で一つの大きな流れとなりそうな、チャットボットについて紹介したいと思います。

チャットボットとは?

チャットとは、インターネットを利用したリアルタイムのコミュニケーションです。チャットボットの「ボット」はロボットが語源で、人間が行うコミュニケーションを自動で行ってくれるプログラム(もしくはそれを含むシステム全体のこと)を指します。予め登録しておいたパターンをもとに回答するものや、機械学習をもとにするものがあります。今年になって、FacebookメッセンジャーやLINEがボットを作成・運用できるサービスを開始したことで、注目が集まっているサービスです。

例えば、シンガポールのDBS銀行が「AI(人工知能)チャットボット」を採用し、Facebookメッセンジャー上で、口座管理や入出金の決済ができるサービスを年内に開始すると発表しました。ユーザーが慣れ親しでいるメッセンジャーアプリの中でサービスを提供することにより、ユーザーと直接コミュニケーションを取ることができる一歩進んだサービスとなりそうです。

DBS銀行のチャットボット(同社ウェブサイトから引用)

チャットボットのメリット・デメリット

チャットボットに期待を寄せる理由の一つは、その使いやすさにあります。普段から使い慣れているチャットのタイムラインに、自分の好きな言葉でポストすれば回答が返ってくる仕組みで、対話だけですべてが完結します。通常の問い合わせフォームのように、ログイン登録をする必要もなく、複雑なインターフェースを経由する必要もありません。また、既にチャットにログインし、個人の情報と紐づいているため、改めて情報を入力する手間が省け、必要に応じて決済や配送情報とも連携できます。

一方、現在デメリットとして考えられているのは、その精度です。チャットボットに問い合わせをしても思うような回答が得られない、という経験をした人も多いと思いますが、これはまだ技術的には開発途上にあるためと言えます。機械学習型のチャットボットの場合、ユーザーからの問い合わせ内容などデータが蓄積されていくことによって、今後、適切な回答ができるように学習されていくと思われます。

O2OやFintech領域でのチャットボットのビジネス用途

O2OやFintechのビジネス領域では、次のような用途で利用されています。

1. 問い合わせ対応

サービス・商品に対する問い合わせについて、スタッフによる対応ではなく、AI(人工知能)を活用することで、コストダウンに活用されています。

三菱東京UFJ銀行は、LINEのアカウントにIBM社のWatson(人工知能技術のAPI)を利用し、ユーザーの問い合わせに対して、同社ウェブサイトのFAQを回答するサービスの提供を開始しています。

三菱東京UFJ銀行のLINE

アスクルでは、同社が運営するECサイト「LOHACO(ロハコ)」で、AI(人工知能)チャットボットの「マナミさん」が、2016年3月の全問い合わせ対応の3分の1をカバーしたというニュースが出ています。

「LOHACO(ロハコ)」

2. アラート

ニュースや天気予報の配信など、毎日決まった時間に天気やニュースを送ったり、緊急速報を送ったりする活用方法もあります。自分で興味のある記事をチャットで聞くと、該当記事を探して紹介してくれるサービスもあります。

3. 検索・予約・購入

対話型のコマースと呼ばれている分野で、ユーザーとの対話を通じて問い合わせ対応をしたり、商品の購入を誘導したりするサービスです。例えば、インターネット上でフラワーギフトサービスを展開する「1-800-Flowers.com」では、Facebookメッセンジャー上で、一定のシナリオに沿って問い合わせ対応や商品購入を促します。また、eコマースベンチャーの「Spring」も同様に、メッセンジャー上でアパレル商品の販売を始めています。メッセンジャーで何を探しているのか答えていくと、それに適した商品が紹介されていくというプロセスですが、店頭で店員さんと話しながら買い物をする感覚に近いのではないかと思います。

1-800 Flowers.com

航空会社の KLMオランダ航空では、予約したフライト情報をFacebookメッセンジャー上で受け取ることができます。チェックインの情報をメッセンジャーでアラートしてくれたり、フライト情報がアップデートされれば、メッセンジャーでお知らせしてくれたりします。チャットを通じた問い合わせも可能で、ボーディングパスを表示することも可能です。

KLMオランダ航空・メッセンジャー(画像はKLMオランダ航空より引用)

今後チャットボットで広がりが出てくるのは、こうしたeコマースや予約型のサービスと考えられます。会話を通じて一つ一つ、希望商品を具体化させたり、オプションを選ばせたりすることができるので、高額商品の割に説明が静的であったり、複雑な商材・サービスであるがゆえにeコマースでは売りづらかったものが、チャットボットのアドバイスを経由して販売するようなサービスが増えるのではないかと考えています。

今後のチャットボットのインパクト

チャットボットの導入によって一番大きく変わるのは、そのサービスのユーザーインタフェースです。チャット上での対話を通じてやり取りを進めていくというスタイルは、今までのサイトやアプリとは異なった動線で、商品やサービスを使ってもらったり、購入してもらう流れになります。

チャットそのものが一対一のやりとりになっているため、クライアントとユーザーのやりとりもone to oneコミュニケーションを前提としたアプローチで進める必要があります。チャット上のユーザーIDをベースに、AIやリコメンデーションエンジンを活用しながら、よりその人にあった商品・サービスを提供する必要が出てきます。また、クライアント側からプッシュでメッセージを送る場合でも、そのユーザーがカスタマージャーニーのどの接点にいるのかを判断することで、「新規ユーザーに対してのセールの告知」なのか「購入したユーザーのアフターフォロー」なのか見誤らないことが重要になってくると考えます。 著者略歴

渡辺智也
株式会社アイリッジ セールス&マーケティンググループ シニアマネージャー。慶應義塾大学卒業後、楽天株式会社に入社。オークション事業で営業、マーケティング、経営企画、トラベル事業にて事業開発を担当。2013年9月に当社に入社。大手企業を中心として多数O2Oアプリのコンサルティングやマーケティング支援を行う。University of MichiganでMBAを取得。