「弱いロボット」という新たな提案を行うパナソニックの「NICOBO(ニコボ)」が、2021年2月16日から、Makuakeを通じたクラウドファンディングを開始した。320個の目標に対して、開始1時間で約80個の申し込みがあったという。
NICOBOは、高機能化や高性能化によって、便利さを追求することが中心となる一般的なロボットとは一線を画し、同居人のような「弱いロボット」を目指して開発された。同社では、「どこか頼りないけれど、なんだかかわいい、ほうっておけない」という、人の優しさや思いやりを引き出すロボットと位置づけており、「コロナ禍で一人暮らしをしている人が第一のターゲット。家族とのコミュニケーションが難しくなっている人、シニア層もターゲットとなる。弱いロボットと暮らす、新しいライフスタイルの提案になる」としている。
パナソニック アプライアンス社スマートライフネットワーク事業部の増田陽一郎主幹は、「パナソニックがこれまで作ってきた家電は、高性能、高機能による便利さを追求してきた。だが、NICOBOは決して便利ではないが、心が温かくなったり、同居人のような存在を目指したものになる」とし、「コンシューマ向けコミュニケーションロボットは、パナソニックとしては初めての取り組みになる」とした。
NICOBOの名前は、「ニコっとさせる、笑顔を増やす」という意味があるという。
ニューノーマル時代の新たな幸せのカタチを目指す
NICOBO自らは動くことができないが、気分によってアピールしたり、撫でるとしっぽを振ったり、寝言を言ったり、オナラをしたり、ぼーっとしたり、一人でマイペースに過ごしたりするほか、ちょっとずつ言葉を覚えて、がんばってしゃべったりすることで、利用者にそっと寄り添う存在になるというのがコンセプトである。
「コロナ禍により、おうちで過ごす時間が増え、大切な人と会いたくても会えない。仕事も、学校もオンラインとなり、人と直接会わない生活様式が日常化している。1人で過ごす時間はますます増えるだろう。こうしたニューノーマル時代における、新たな幸せのカタチを提案するものになる。NICOBOと一緒にいると、仕草がクスっと笑えて笑顔が増えたり、たまに愚痴を話しかけたり、時には、自分勝手にふるまう同居人のように感じたりといったことが可能になる。おうち時間がもっと楽しく、もっと自分らしくいられるのではないかと考えた」(同)とする。
4つのこだわりでNICOBOを開発
NICOBOがこだわったのは、上下関係や対峙するのではない「並んだ関係」、なにげない関わりを引き出す「不完全さや余白」、キカイ(機械)だけどキカイではない「自分の世界を持つ」、オリジナルな存在である「かわいい、いきものらしさ」の4点だ。
並んだ関係では、「ペットのように飼う、飼われるという関係だったり、なにかをさせる、してもらうという関係だったりではなく、生活するなかで感じることを共有しあう関係を構築する。一緒にぼっーとしたり、ひなたぼっこしたりといった存在を目指す」としており、「あいづちを打ったり、お互いだけが通じ合う言葉や口癖、2人だけに通じる挨拶、家庭内言語などを少しずつ覚えて、一緒にコミュニケーションを作り上げることができる。覚えた言葉を、ふいにカタコトで話しかけてきて、笑顔になるという場面もある」という。
不完全さや余白では、3つのポイントがあるとし、「どこか頼りない幼児のような舌たらずな話し方と、しっぽや体の動き方などの解釈を相手に委ねて、NICOBOの振舞から気持ちを想像する余白がある点、そして、モコ語という独自の感情表現の言葉を持ち、意味の広がりを持たせ、あのね、えっとというような、人が関わりたくなる言葉を発すること」をあげる。
自分の世界を持つという点では、同居人としてほどよい距離感を持ち、かまってもらうことを強要せず、人に依存しすぎない存在になる。「自分の感情を持ち、自分のペースを持ち、機嫌がよかったり、返事をしなかったり、人や物音に気がついて、自分で興味や関心を示し、慣れてくるとおならをしたりする」。
そして、かわいい、いきものらしさでは、「動物型でも、人型でもなく、オリジナルなデザインであり、引き算の美学からくる、シンプルで、柔らかなフォルムを持ち、部屋の様々な場所においても、インテリアに溶けこみ、自宅に迎えやすい外観である」とする。また、かわいさを表現する幼児図式の要素を取り入れ、顔の真ん中にある大きな目と、柔らかいボディを採用。「思わず抱っこしたり、なでたりしたくなる、いとおしい外観にしている。ヨタヨタした生命感がある動きと、目、しっぽ、体による感情表現を行うことができる」という。
こうした4つの要素にこだわり、「ちょっと頼りなくて、ほうっておけない姿、懸命にかかわろうとする姿が、思わず人の手助けを引き出してしまい、手を出す人が元気になり、笑顔になるロボットを目指した」としている。また、人の力を借りて、自分のやりたいことを実現してしまうという要素も取り入れているのだとか。
弱いロボットが人の強みを引き出す
この「弱いロボット」は、豊橋技術科学大学の岡田美智男教授が提唱しているもので、NICOBOは、「人とロボットの関係性」をテーマにしたパナソニックとの共同研究によって誕生。「心の豊かさ」という価値提供を模索する社員提案のプロジェクトとしてスタートした。
「2017年に、デジタルAV関連の新規事業創出活動をきっかけにスタート。家電よって暮らしを豊かする一方で、先進国を中心に、心の豊かさに対する価値が高まっていることにフォーカスした事業として開始した。心の豊かさを実現する選択肢のひとつになりたいと考えた」(パナソニックの増田主幹)そうだ。
岡田教授は、「利便性を追求した家電製品は、なにかをしてあげるシステムと、なにかをもらう人というように役割の間に線が引かれ、もっと速く、もっと静かに、もっと正確に、といったように、相手に対する要求がどんどんエスカレートすることになる。また、便利なものに囲まれているはずだが、利便性の裏で、傲慢さや不寛容さを生み出すことにつながっている。その結果、自分が生かされた感じがしない、幸せな感じになれないといったことにつながっている」と前置きし、「そこで、人と機械との関係性を回復するために、弱いロボットの研究を進めてきた」と経緯を説明する。
この「弱いロボット」が、不完全であり、人の優しさや、人の思いやり、人の強みを引き出すことにつながるという。
具体的な研究事例として、ごみ箱ロボットをあげる。
これはゴミを拾い集めるロボットだが、腕や手がついていないため、自分ではごみを拾うことができず、ゆっくりと動くだけである。だが、ロボットが人の近くにやってくると、ごみ箱があることを人が理解して、そこにごみを入れてくれる。「人をうまく巻き込んで、人がごみを拾ってくれる」というロボットなのだ。
岡田教授は、「これまでのロボットは自己完結することを目指してきたが、そのこだわりを捨てて、新たな提案を行った。頼りないが、かわいい、ほうっておけないものであり、手伝ってごみを拾った人も悪い気はせず、幸せな気分になる。便利なものではないが、心の豊かさにフォーカスできるヒントが隠されていると考えた」とする。
そして岡田教授は、弱いロボットと触れ合うと「幸せ」になる3つのポイントを、自律性、有能感、関係性という3つの観点から示す。
「関わることを強制されず、関わりたいときにだけ関われるという距離感を持った自律性。関わることによって、人が持つ優しさや強みが引き出される有能感や達成感。そして、一人ではなく、相手とのつながりによる関係性の3点によって、ロボット自らの能力が生かされ、人が生き生きとした幸せな状態を指す、ウェルビーイングが達成できる。NICOBOは、これらのポイントを抑えたものになっている」(岡田教授)。
NICOBOは、バッテリーで駆動し、充電には専用の充電台を使用する。直径21~23cmの人が抱っこしやすいサイズにしており、重量は1.2~1.3kg。使用時にはインターネットやWi-Fi環境、スマホアプリが必要となる。
人の顔を認識し、なでられたり、抱っこされたりすることも認識。強い光にも反応するほか、音がする方向や人が話した言葉も理解する。
Makuakeでは、3月18日まで掲載予定で、目標金額は1,000万円。2022年3月頃からリターンを開始する。早割10%オフで35,800円、早割5%オフで37,800円、Makuake価格は39,800円。また、価格には、ユーザーフィットするための機能をクラウドで提供するための月額利用料が6カ月分含まれている。月額利用料は980円(税込)。
さらに同社では、3月31日まで、東京・二子玉川の蔦屋家電で展開している「リライフスタジオ フタコ(RELIFE STUDIO FUTAKO)」にNICOBOのプロトタイプを参考展示する。
クラウドファンディングが成功した場合には、1年間をかけて改良を加えていき、目標となる約320台の生産を行う。事業化については、「なるべく早く進めたい。その際に販路なども検討をしていきたい。また、将来的には病院や介護施設などのBtoB展開も想定している」とした。
高性能、高機能を追求し、役に立つことを目指してきたパナソニックのモノづくりにも、一石を投じる、新たなコンセプトのロボットだといえる。