ソニーが2月3日に発表した2020年度第3四半期(2020年4~12月)連結業績は、環境変化か激しいコロナ禍においても、同社の強い経営体質を示すものとなった。

  • 過去最高「1兆円利益」を叩き出したソニー、コロナ禍に絶好調なその内訳

    ソニー 副社長兼CFOの十時裕樹氏。業績の大幅な上方修正を発表

2020年度第3四半期(2020年4~12月)の売上高は前年同期比4.1%増の6兆7,789億円、営業利益が11.8%増の9,053億円、調整後営業利益は16.5%増の9,073億円、税引前利益が36.5%増の1兆968億円、当期純利益が87.0%増の1兆647億円と、増収増益。利益は2桁の成長を遂げている。

その力強さをさらに感じたのは、2020年10月に続いて2回目となった通期連結業績見通しの上方修正だ。

売上高では前回公表値に比べて3,000億円増の8兆8,000億円、営業利益では2,400億円増の9,400億円、当期純利益が2,850億円増の86.4%増の1兆850億円。年度末を来月に控えた最終コーナーに入ったところで、大幅な上方修正をしてみせた。

2020年10月の上方修正も、売上高で2,000億円増、営業利益で800億円増、当期純利益で2,900億円増という大幅なものだったが、今回もこれと同等規模の上方修正を発表。通期では2年ぶりの過去最高益を目指す。そして、最終利益では、同社初の1兆円突破という見通しだ。これは、エレクトロニクス業界では初めてのことだ。

  • ソニー、2020年度第3四半期(2020年4~12月)の連結業績

  • 2020年度の通期見通し。昨年10月時点の見通しから更に上方修正した

巣ごもり消費とPS5で稼ぎまくったゲーム部門

好調な業績を牽引しているのは、ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)である。

売上高は第3四半期累計で前年同期比29.3%増の1兆9,960億円、営業利益は60.9%増の3,092億円。ソニーには6つの事業カテゴリーがあるが、このG&NSだけで売上高の3割、営業利益では3分の1以上を占めている。ちなみに、パナソニックが発表した2020年度第3四半期累計業績では、営業利益が2,268億円。ソニーのG&NSだけで、これを超えているというわけだ。

  • 稼ぎ頭となっているゲーム&ネットワークサービス(G&NS)部門

ここで特筆できるのが、PS5を発売したタイミングで、大幅な営業利益を稼ぎ出したことである。

実は、プレイステーションの事業はハードウェアで稼ぐのではなく、ソフトウェアなどによって稼ぎ出す長期的なビジネスサイクルを持っている。とくに、自ら半導体まで開発、製造していた時期は、収益を得るまでに多くの時間を費やしていた。2000年3月に発売したPS2では、利益の収穫期に入ったのは発売から2年後。PS3も利益を出すのに4年かかったといわれる。

2013年11月に発売したPS4は、CPU戦略を転換し、コスト構造を大きく見直したことが大きなポイントだったが、発売後1カ月半で、本体が420万台、ソフトウェアで970万本を販売したものの、2013年度第3四半期のゲーム部門の営業利益は180億円に留まっていた。

今回のPS5も、「単体では逆ザヤ。ハードウェアの戦略的価格設定による損失計上はあった」(ソニー 副社長兼CFOの十時裕樹氏)とするものの、「ペリフェラルやコントローラを含めたハードウェア全体では損益に与える影響はニュートラルである」という点が、過去のプレイステーションとは異なる。

十時CFO自らが「ハードウェアの世代交代期である2020年度に過去最高水準の利益を見込めている」(同)とあえて言及する状況は、まさにプレイステーションのビジネス構造が、大きく転換していることの証だ。それが、今回の好調な業績に強く反映されている。

今回発表した第3四半期(10~12月)におけるG&NSの売上高は前年同期比40%増の8,832億円、営業利益は64.5%増の802億円となった。売上成長よりも、利益成長の方が高い結果となっている。

その理由を十時CFOは、「ネットワークサービスの増加によって、ゲーム事業の収益構造は大きく変化している点にある。ゲームソフトウェアやネットワークサービスの増収により大幅な増益になった」と語る。

同社によると、PS5ユーザーのプレイステーションプラス(PS Plus)への加入率は、12月末時点で87%と極めて高い水準となっている。PS Plusコレクションなど、顧客ベースを拡大するための施策が機能しているという。また、PS5発売にあわせて歴代最多のラインアップを用意したソフトウェアの販売も好調であり、自社タイトルの『Marvel's Spider-Man: Miles Morales』は、12月末までに約410万本の実売を記録した。そして、12月のプレイステーションユーザーの総ゲームプレイ時間は前年同月比約30%増と大幅に伸長している。

  • 自社タイトルの『Marvel's Spider-Man: Miles Morales』が大ヒットを記録

こうしたネットワークサービスやソフトウェアといった本体以外での収益確保が、PS5のビジネスを支えている。

そして、PS Plusは、継続的な収益の確保にも貢献する。PS4でも、PS Plusは差別化のひとつとなっていたが、初動値とはいえ、PS5では貢その献度が大きく異なる。ソニーが目指してきたリカーリング型ビジネスによる新たな収益構造が、PS5によって確立されたといえるだろう。

「ユーザーエンゲージメントの強化を戦略の柱に据え、ネットワークサービスの魅力をさらに高める施策に注力する」と十時CFOはコメント。G&NSの通期見通しは、10月公表値に比べて、売上高は300億円増の2兆6,300億円、営業利益は400億円増の3,400億円に上方修正し、強気の姿勢をみせている。

PS5は品不足がネック、増産の見通しは?

PS5は、12月末までに、累計450万台を販売し、2021年3月までに、累計760万台以上の出荷を目指している。また、2021年度は、PS4が導入2年目に達成した年間1,480万台以上の出荷を目指している。

  • PlayStation 5の品薄、解消の見通しはあるのか

だが、需要には追いついていない状況であり、品不足によって、店頭では依然として争奪戦が繰り広げられている。

十時CFOは、「ここまでは計画通りに進捗しているが、お客様からの強い需要には十分に応えられていない状況である。この事実は真摯に受け止めている。PS5を待っているお客様に、1台でも多く生産し、届けられるように全力で取り組んでいく」とする。

しかし、「世界的な半導体不足の影響があり、これ以上、生産のキャパシティをあげるのが難しい。ベストを尽くして、当初予定を超える出荷を目指したい」としており、増産計画には言及はしなかった。

本体が逆ザヤとすれば、短期的には、無理をして増産をする必要がないともいえるが、リカーリングビジネスの土壌を作り上げる製品へと進化しているだけに、PS5本体の早期普及は、将来の安定的な収益確保に重要な意味を持つことになる。

YOASOBIに鬼滅も業績牽引、エレキ事業も復調へ

一方で、今年2回目の修正が、すべてのカテゴリーの営業利益を上方修正したように、成長要因はPS5だけに留まらない。

音楽では、10月公表値に比べて、売上高は500億円増の9,000億円、営業利益は280億円増の1,800億円に上方修正。「ストリーミングの売上げが引き続き高い成長となっていること、海外ではDoja Cat、日本ではYOASOBI、NiziUなど、注力している新たなアーティストの発掘、育成の成果が出ている。また、アニメ事業を含む映像メディアプラットフォームの増収が貢献しており、アニプレックスが制作、配給に関わる『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、1月31日までで興行収入が368億円となり、日本の映画市場歴代1位。グループ所属アーティストであるLiSAが歌う主題歌も大ヒットとなり、音楽分野を横断した形で成功を収めている」とする。

  • 鬼滅のヒットなど、アニメ映像事業は絶好調だった

エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)は、10月公表値に比べて、売上高は200億円増の1兆8,900億円、営業利益では、今回のなかで最も大きな修正額となる580億円増の1,250億円に修正した。

十時CFOは、「ホームAV商品に対する巣ごもり需要の継続に加えて、デジタルカメラなどの需要回復も見られた」とし、「テレビ事業では、価格維持と高付加価値モデルへの販売シフト、オペレーション費用の削減により、高い収益性を確保できた。デジタルカメラもミラーレスを中心に、年末商戦の需要が強い。市場が想定よりも速く回復している」とする。

  • エレキも通期上方修正で、復調へ向かう見通し

ファーウェイ向けの出荷が2020年9月以降停止し、影響を受けていたイメージング&センシング・ソリューション(I&SS)も、11月下旬以降、一部出荷を再開。さらに、「別の大手顧客からの受注状況が、2020年10月時点の見通し前提を大幅に上回っている」という追い風もあり、通期見通しを大幅に上方修正。10月公表値に比べて、売上高は500億円増の1兆100億円、営業利益は550億円増の1,360億円に修正している。

「中国の特定大手顧客(ファーウェイ)向けのモバイルイメージセンサーの出荷数量は、長期的に見ても、元の規模に戻るとは考えていない。むしろ、様々な顧客に届けることにより、環境変化による影響を軽減する措置を講じていきたい」と、この経験をもとに体質強化に取り組む姿勢をみせる。そして、「2021年度に向けて事業機会の最大化と投資効率の最適化の観点から、第4四半期には既存設備の稼働率を引き上げ、一定レベルの在庫を積み増す。また、2020年度以降に、モバイルセンサー事業の収益性を回復し、再度、成長軌道に乗せるため、高付加価値の拡販に向けた商品開発、営業活動を進めていく」とも語る。

イメージセンサーのウェハー投入枚数は、第2四半期末時点では月産11万枚を想定していたが、第3四半期は11万7,000枚を生産。第4四半期には月産12万7,000枚を予定している。2021年4月に稼働を予定している長崎県諫早市のイメージセンサーの新たな生産棟も計画に変更はない。

また、金融では、10月公表値に比べて、売上高は1,400億円増の1兆6,000億円、営業利益は150億円増の1,700億円に修正。「AIやクラウドコンピューティングなどのテクノロジーを最大限に活用し、新たな金融商品やサービスの開発にも取り組んでいく」と事業拡大に意欲をみせる。

唯一の懸念となった映画事業、意外に大きく影響?

唯一、懸念材料に指摘されるのが映画である。

通期見通しは、10月公表値に比べて、売上高は100億円減の7,500億円、営業利益は240億円増の720億円に修正した。今回の修正で、映画の売上高だけが下方修正となっている。

  • 映画事業が、コロナ禍の悪影響を最も受けた事業になってしまっている

ソニーにおいて、コロナのマイナス影響を最も受けている事業であり、第3四半期の増益も、映画製作におけるマーケティング費用の大幅減というマイナス要素の裏返しだ。

実際、世界規模で新型コロナウイルスの感染が再拡大したことに伴い、劇場閉鎖による公開延期が続いており、ソニーでも、「ゴーストバスターズ/アフターライフ」、「シンデレラ」、「モービウス」の公開延期を決定している。

同社が懸念しているのは、公開延期による興行収入のマイナスではなく、これらの作品を起点にして展開されるホームエンタテインメントやテレビ向けライセンスの減収などへの影響だ。これは、2021年度以降に響くことになる。

いまや映画ビジネスは、興行だけでなく、メディアネットワークへの展開や、IPを活用したゲームの制作、続編への展開などが、重要な収益要素となっており、これも広い意味でリカーリングビジネスといえる。その起点となる映画の公開延期は、マイナス要素となって来年度以降、ジワリと効くことになりそうだ。

だが、ここでもソニーは積極的な対策を打っている。そのひとつが、2020年12月に発表したアニメ専門配信サービスを提供する「Crunchyroll(クランチロール)」や、2021年1月に発表したインディーズ向け音楽制作および配信プラットフォーム事業を行う「AWAL(エイウォール)」、グローバルな音楽著作隣接権管理事業である「Kobalt Neighbouring Rights」の買収だ。

とくに、Crunchyrollは、全世界200以上の国と地域で、9,000万人の登録ユーザー、300万人以上の有料会員を持つサービスで、ソニーが得意とする日本のアニメを世界に発信する土台になる。「日本のアニメに対する関心が世界中で急速に高まっており、過去5年間で1.5倍の市場成長を見せている。ゲームユーザーとアニメユーザーは親和性が高い。クロスセルの機会も見込める。コンテンツとDTC(Direct to Consumer)配信を持つソニーは、アニメを注力領域と位置づけ、良質な日本のアニメコンテンツを幅広く、世界中のファンに届けていく」とする。

ここでも、収益の安定性に寄与するリカーリングビジネスの基盤づくりに着手しているといえるわけだ。

市場環境が不透明でも、強いソニーは続きそう

2021年度は、世界の市場環境がどう変化するのかが見通しにくいのが実情だ。経済活動の再開もどこまで回復するのかも意見が分かれるところだ。だが、今回のソニーの2020年度通期見通しの上方修正を見てみると、これまで触れてきたように、市場環境の影響を受けにくいリカーリングビジネスが下支えしていることがわかる。

リカーリングビジネスは、前任の平井一夫社長が注力分野のひとつとして取り組み、吉田憲一郎社長も、2018年4月の社長就任直後から、「利益成長よりも、リカーリング比率を高めることで、利益の質を改善することを目指したい」と述べてきた。その成果が着実に表れているといえるだろう。

そして、この地盤は環境変化に強い。そうしてみると、ソニーの好調ぶりは、もうしばらく続きそうである。