パナソニックが、カーボベルデ共和国に顔認証ゲートを含む「出入国管理ソリューション」を納入したと発表した。海外で、パナソニックの顔認証ゲートが採用されるのは今回が初めてとなる。新型コロナウイルスの影響で海外渡航が制限されるなか、アフターコロナの時代を見据えて、着々と環境整備が進められているといえよう。
パナソニックの顔認証ゲートは、国内では、羽田空港第3ターミナル(国際線)のほか、成田国際空港、中部国際空港、関西国際空港、福岡空港国際線、新千歳空港、那覇空港に導入。200台以上が稼働しており、パスポートを置いて、顔認証を行い、照合すると、ゲートの扉が開いて通過できるようになる。平均で15秒という短時間で認証するのが特徴だ。
パナソニックが持つ世界最高水準の顔認証技術を採用しており、顔認証エンジンには、複数のディープラーニング構造を融合した特徴量抽出技術と、撮影環境に合わせて類似度計算を行う手法とを組み合わせた独自のアルゴリズムを開発。これにより、旅行者が年齢による経年変化をしたり、化粧による変化、表情の変化、バスポート写真の画質の変化などにも対応することが可能であり、素早く、厳格に認証することができる。
効率的で安全な出入国管理、観光競争力にも貢献する顔認証技術
今回、カーボベルデで採用された出入国管理ソリューションでは、パナソニックの完全子会社であるZetes Industries S.A.(ゼテス・インダストリーズ)のソリューションを採用。オンラインを通じて、旅行者向けビザの申請が行えたり、空港セキュリティ料金を徴収したりできる電子渡航システムを運用。これと連動する形で顔認証ゲートを活用。旅行者およびカーボベルデの出入国管理関係当局は、より速く、より安全な国境通過の恩恵を受けることができるとしている。出入国管理ソリューションの導入にあわせて、ゼテスは、カーボベルデ共和国に新オフィスを開設したことも発表している。
カーボベルデは、アフリカ大陸の西側に位置し、複数の島々で構成されている。面積は、4,033平方メートルで、滋賀県ほどの大きさだ。人口は54万4,000人。バナナやサトウキビなどの農業、マグロやロブスターなどの漁業が主要産業だ。
パナソニックによると、2020年12月19日に、カーボベルデのサル島にあるアミルカル・カブラル国際空港で行われた同国内務省主催の発表会で、出席したユリス・コレイア・エ・シルバ首相が挨拶。「世界に存在するなかで、ベストプラクティスといえる最も高度なセキュリティを装備した出入国管理ソリューションによって、私たちの空港と国境は、近代化することができる。新型コロナウイルス対策においても、eゲート(顔認証ゲート)に到着した時点で、最適な国境セキュリティ管理ができる。制御手順の簡素化と、セキュリティコントロールおよび交通の円滑化というバランスをとった管理を可能にし、待ち時間の短縮、効率化、乗客の満足度の向上を実現できる」と述べたという。
発表会には、内務大臣のパウロ・ロシャ氏のほか、カーボベルデ警察関係者、ゼテス・インダストリーズの関係者、地元報道機関などが参加した。
カーボベルデでは、新型コロナウイルス感染拡大前までは旅行者の数が増加傾向にあり、2019年実績は280万人に達していたという。
「旅行者が増加しているカーボベルデでは、効率的に身元確認保証が行われるとともに、旅行者がスムーズに出入国できる体験ができること、そして、安全で、自動化されたソリューションが求められており、ゼテスでは、このようなニーズにマッチした高い信頼性と、柔軟な実行性のあるソリューションを提案し、落札に至った」(パナソニック)とする。
ゼテス・インダストリーズは、ベルギー・ブリュッセルに本社を置く企業で、サプライチェーンの最適化ソリューションや、個人識別ソリューションで実績を持つ。とくに、PeopleID事業部門では、各種公的文書の発行や民主的選挙の運営において、国民を正確に把握することができるソリューションを政府機関に提供。各国政府や国際機構のための機密性の高いプロジェクトにおいて、15年以上の経験を持つ。
2017年にパナソニックの完全子会社となり、欧州や中東、アフリカの22カ国に拠点を持ち、1,300人以上の従業員を擁している。
今回の出入国管理ソリューションでは、ゼテスが持つノウハウを活用して開発。11台のパナソニック製の顔認証ゲートを納入し、パナソニックの顔認証技術などと組み合わせてている。パナソニックの顔認証ゲートは、日本国内向けのものと外観は同一だが、ガーボベルテ向けにカスタマイズした仕様となっている。
第1フェーズとして、同国を訪れる旅行者が事前申請するための「電子渡航システム」を2019年1月から稼働。旅行者用ビザの申請と、空港のセキュリティ料金の支払いを、オンラインで完了できるようにした。「まずは、電子渡航システムの開発に重点的に取り組み、3カ間で運用を可能にした。カーボベルデを訪問したい旅行者は、専用のウェブサイトからオンラインで申請を行い、各種料金を支払うことになる。到着時には出入国管理プロセスを容易にするための申請番号が発行される。旅行者は領事館を何度も訪問する必要がなくなる」という。
第2フェーズでは、首都であるプライア市(サンティアゴ島)、サル島、ボアビスタ島、サンビセンテ島にあるカーボベルデ国内の4つの国際空港に、パナソニックの顔認証ゲートを導入し、今回、新たに稼働させたという。
そして、2021年の完了を予定している第3フェーズでは、監視リストおよび事前旅客情報を統合した出国管理ソリューションを実現する予定であり、これが完成すると、国境管理に費やされる旅行者1人あたりの平均時間が、現在の約1分30秒から、約30秒に短縮。最終的には、約12秒にまで短縮できるという。
カーボベルデのパウロ・ロチャ内務大臣は、「私たちの技術パートナーであるゼテスは、トップクラスの技術ソリューションを提供し、このプロジェクトを完全な形で実行している。達成された結果に非常に満足し、誇りに思っている。安全とセキュリティの提供、安心と信頼の創出は、国と観光地にとって最も重要な無形資産であり、競争力とともに、私たちが確保するべき差別化要因のひとつになる」と述べている。
日本国外で初採用、事業拡大に向け、さらなる展望
パナソニックにとっては、今回が顔認証ゲートの海外展開の第1弾となる。
ゼテス・インダストリーのアラン・ヴィルツCEOは、「今回のパナソニックの顔認証ゲートの初納入に大変満足している。ここには、日本の7つの主要国際空港に採用されている高精度の顔認証技術が活用されている。パナソニックは、信頼性の高い技術の提供において、その卓越性が認められている。世界中の空港における顔認証ゲートの展開可能性を確信している」と述べている。
パナソニックの顔認証ゲートは、国内空港の出帰国手続きの際に、日本人旅行者全体の約8割が利用しており、100年にわたり製造業で培ってきたノウハウと、家電のDNAを生かした直感的なUIを採用。直感的に利用できる工夫が施されているのが特徴だ。
パナソニックでは、「誰もが、説明なしで自然と、直感的に操作できるパスポートリーダーを実現している」と胸を張る。
カーボベルデへの納入においても、こうしたパナソニックが追求する使い勝手が高く評価されたようだ。
パナソニックでは、顔認証ゲートなどで活用している「顔認証ソリューション」と、各種センサーやデバイスを活用した「センシングソリューション」、セキュリティカメラをはじめとする「高性能エッジデバイス」を統合した新事業として「現場センシングソリューション」を、2020年7月からスタートしている。また、同ビジネスを推進するために、日本国内で事業を展開しているパナソニック システムソリューションズ ジャパン(PSSJ)に、スマートセンシング事業センターを新設した。
パナソニックでは、現在、3部門合計で約400億円の現場センシングソリューションの売上げ規模を、2025年度には1,000億円の売上げに拡大させる考えを示しており、そのうち、顔認証を含むソリューション事業で575億円の売上げ規模を目指している。
そして、コロナ禍は、「現場センシングソリューション」の事業拡大には追い風となっているようだ。
パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長は、「新型コロナウイルス感染症の拡大により、課題はより複雑になっている。ソーシャルディスタンスを維持して、密を回避し、社員や顧客の安全を確保することが最優先であり、その上でビジネスを止めないことが求められている」と前置きし、「リモートで何かを行うニーズや、非接触のニーズが高まっている。顔認証ソリューションなどが果たす役割が大きくなっている。パナソニックが強みを持つ画像認識技術を統合的に活用することで、直面している喫緊の課題を解決できる。パナソニックは、コロナ禍おいても、必要とされる企業であり続けたい」と述べている。
顔認証技術の拡大に向けては、アプリケーション提供プラットフォームを構築。現場課題を解決する自社アプリとパートナー企業へのAPI提供によって、幅広いニーズへの対応と、事業拡大を加速する体制を整えている。
すでに、パートナー連携の第1弾として、一般診療所向けの医事コンピュータで国内トップシェアを持つPHCと連携。医療機関・薬局向け「顔認証付きカードリーダー(マイナンバーカード対応)」により、2021年3月から開始予定の「オンライン資格確認」における医療機関や薬局などの受付時の本人確認で顔認証を利用できるようにすると発表した。
さらに、顔認証エンジンをクラウドサービスとして提供。受付や決算手段、来場スタンプ、なりすまし防止、欠席・点呼管理など、利用シーンにあわせた顔認証アプリケーションを用意し、コロナ禍において、非接触で、安心、快適、確実な本人認証が求められるユースケースに対応することができるようにした。ここでは、第1弾として、需要が多い「点呼・勤怠」向けアプリケーションから提供を開始している。
また、2020年12月からスタートした「顔認証クラウドサービスパートナープログラム」では、「顔認証に対するニーズが高まるなか、顔認証をすぐに導入したい、自社サービスに組み合わせたい、あるいは初期開発コストや導入コストを抑えたい、開発期間を短縮したいといった企業の要望にも応えることができる」と位置づける。
これまでの顔認証技術の提供は、顧客ごとにカスタマイズしたシステムやソューションのほか、モジュールやプロダクトによるパッケージでの提供に留まっていたが、顔認証クラウドサービスパートナープログラムを通じて顔認証を広く利用してもらったり、組み込みやすい形で、ソフトウェアサービスや機能提供を行なうことができるようになる。
これは、SaaSプラットフォームを通じて提供するパナソニックの顔認証サービスを再販および販売連携する「セールスパートナー」、顔認証SaaSプラットフォームを自社サービスとセットでソリューション展開する「ソリューションパートナー」、顔認証APIやSaaSプラットフォームを自社サービスに組み込み商品を開発する「テクノロジーパートナー」で構成。現時点で約10社が参加している。パナソニックでは、パートナープログラムを通じた顔認証クラウドサービスで販売規模100億円以上を目指す考えだ。
また、オフィスで利用することなどを想定したパナソニックの顔認証・入退セキュリティ&オフィス可視化システム「KPAS」では、顔検出率や顔認証率を大幅に向上させている。マスクで顔が隠れている場合でも、顔検出率は従来比で3.1倍、顔認証率は2.2倍向上させたほか、パナソニックの統合型セキュリティシステム「eX-SG」と連携。柔軟な入退室管理ができるようにしている。
このように、パナソニックは、顔認証ソリューションを軸にした現場センシングソリューションを加速する姿勢を示している。コロナ禍によって、注目を集めている顔認証技術が、2021年にはさらに注目を集めることになりそうだ。