日本HPは、印刷事業者向けの商業デジタル印刷機であるHP Indigoデジタル印刷機およびHP PageWideデジタル輪転機の新製品を発表した。
米国では、すでに3月10日(現地時間)に発表しており、湿式電子写真方式の「Indigo」と、サーマルインクジェット方式の「PageWide」のいずれの製品も強化も図った格好だ。
このなかには、HP Indigoデジタル印刷機において、第5世代の「シリーズ 5」および第6世代「シリーズ 6」の新製品も含まれており、印刷業界におけるアナログ機からデジタル機への移行を加速する姿勢を強調した。
第5・第6世代のHP Indigoデジタル印刷機、特徴は?
第6世代の新製品は、同社独自のLEPxアーキテクチャーを搭載したラベル生産向け「HP Indigo V12デジタル印刷機」だ。最大12色に対応するとともに、6色印刷時には最大毎分120mの印刷速度を実現。アナログ機の速度に匹敵するという。また、自動化された新しいカラーマッチングテクノロジーである「Spot Master」により、業界最速の色合わせ時間を実現できるのに加えて、インラインプライマーを使用することで、12ミクロンのフィルムから、450ミクロンの板紙まで対応。デジタルラベル印刷では、業界最大の用紙範囲をサポートする。
第6世代で採用した「LEPxアーキテクチャー」は、LEPのシングルエンジンの代わりに、6つのイメージングエンジンが、同時にインラインで動作。絵柄のタイプ、インキの量、特色の有無にかかわらず一定の速度で印刷ができるほか、1600dpiの印刷解像度を実現。その場でインキを変更し、任意の色の組み合わせができる点も特徴だ。「常識を覆す高速化を実現しており、大量印刷でも利益を生み出すことのできるスピードと効率を提供する。印刷業界の破壊と創造を推進する製品になる」(日本HP 常務執行役員 デジタルプレス事業本部長の岡戸伸樹氏)としたほか、「高速化の秘密は、LEPプロセスを、インライン構造とした点にある。ブランケットベルト1回転で6色の印刷が可能になる。LEDプリントヘッドや感光ドラムの採用など、新たな技術を採用することで、最大で4倍以上の高速化を実現した」(日本HP デジタルプレス事業本部 ソリューションアーキテクトの土田泰弘氏)と述べた。なお、同製品は2022年に発売する予定だ。
また、第5世代製品としては、初となる商業印刷向けB2対応機「HP Indigo 100Kデジタル印刷機」を投入。毎時6000枚の印刷を実現するとともに、オフセット印刷事業者向けに最適化した機能を搭載。B2両面印刷換算で月100万枚以上の印刷にも対応できる。「第5世代に相応しい製品」(日本HP 常務執行役員 デジタルプレス事業本部長の岡戸伸樹氏)と位置づける。
一般的なオフセット機構に見られるようなグリッパー搬送設計(gripper-to-gripper)によって、正確な見当精度を実現できるほか、カラーオートメーション、キャリブレーション、ジョブとメディア間の高速切り替えなど、デジタル機能を強化。デジタルオフセット機構と操作性を維持したまま、より高い生産性を実現でき、小ロットのデジタル印刷の利益率を高めることができるという。2020年6月以降に販売する予定だ。
Indigoシリーズは、毎分7mの印刷が可能なカット紙に対応した第1号製品を発売して以降、第2世代では輪転機に対応し、印刷スピードを毎分14mに倍速化。第3世代では、印刷スピードを高めることで生産性を70%向上させた。また、第4世代では、毎分31mと高速化させるとともに、B2やB1の用紙にも対応。印刷できるサイズを拡張した。そして、第5世代では、現像やイメージングといったプロセス速度を30%高速化。最新の第6世代では、「LEPxアーキテクチャー」を新たに採用することで、プロセススピードを損なうことなく、印刷速度を向上。従来機種に比べて、4~5倍の印刷速度を実現できるという。
また同社では、商業印刷向けのB2対応「HP Indigo 15Kデジタル印刷機」も発表した。1000台以上の販売実績を持つ「HP Indigo 10000」のプラットフォームをベースに開発した製品で、高精細印刷とFMスクリーンによる品質向上に加えて、オプション機能により、最高600ミクロンの厚紙(24ポイント)にも対応するなど、メディアの汎用性を高めた。新たなインクであるHP Indigoエレクトロインキプレミアムホワイトと、インビジブルイエローに対応。高精細FMストカスティックスクリーンにより、ハーフトーンのテキストを、より鮮明に印刷することができる。
そのほか、SRA3+対応の「HP Indigo 7Kデジタル印刷機」、「HP Indigo 7ecoデジタル印刷機」のほか、ラベル・パッケージ向けの「HP Indigo 6Kデジタル印刷機」、「HP Indigo 8Kデジタル印刷機」、「HP Indigo 25Kデジタル印刷機」、紙器や特殊アプ リケーション用途向けの「HP Indigo 35Kデジタル印刷機」、B1対応の「HP Indigo 90K デジタル印刷機」も発売する。
なお、「HP Indigo 100K デジタル印刷機」や「HP Indigo V12 デジタル印刷機」、「HP Indigo 15K デジタル印 刷機」などには、産業用3Dプリンティングテクノロジーである「HP Multi Jet Fusion」を使用して製造した部品が100点以上使われているという。
今回のHP Indigoデジタル印刷機の発表にあわせて、「HP PrintOSx」へのアップデートも発表している。
HP PrintOSxは、1万2000を超えるユーザーが利用している「HP PrintOS」の最新版で、「膨大なデータをアナリティクス機能によって分析し、機械学習により、効率的な生産手順を提案。人工知能を用いて、予防保全も行える」(日本HP 常務執行役員 デジタルプレス事業本部長の岡戸伸樹氏)としたほか、「オペレーターにとっては、印刷機のパフォーマンスを最大限に発揮でき、印刷効率の最適化が実現できる。また、生産管理者にはオペレーションの最適化とともに、カラー品質の管理が行え、継続的な改善のためにKPIを設定、監視できる。そして、ビジネスオーナーにとっては、製品ポートフォリオを絶えず進化させて収益を拡大でき、Mosaicを利用するなど、高付加価値アプリケーションを作ることができる」(日本HP デジタルプレス事業本部 ソリューションアーキテクトの森真木氏)などとした。
オフセット印刷のデジタル化を進めるHP PageWide
一方、HP PageWideデジタル輪転機では、22インチ幅の連続印刷が可能なインクジェットデジタル輪転機「HP PageWide Web Press T250 HD」を発表した。2020 年後半に販売を開始する。
最速毎分152mの印刷スピードを実現。「HP Brilliantインク」により、印刷できるメディアの汎用性が増し、大量の商業印刷や出版、ダイレクトメールなどに適応できるのが特徴だ。
「HP Brilliantインク」は、人目を引く色彩、大胆な赤、目に鮮やかな青と、光沢のある仕上がりにより、高品質印刷を実現。新たなCMYKインクセットにより、色域を拡大し、1台のインクジェット輪転機で、コーティングと非コーティングのオフセット用コート紙や、上質紙にも、高品質の印刷を行えるように設計されている。
また、コート紙では、用紙の製造ロット間のばらつきを補てんする一方、上質紙では裏写りを減らすとともに、高い光学密度を提供。スムーズな色彩のグラデーションを実現できるという。さらに、内蔵したビルトイン式カラービジョンシステムと、カラー分光光度計によって高い品質と生産性を維持できるという。
加えて、HP Quality Image Checkビジョンシステムにより、リアルタイムで印刷品質をモニターすることができ、輪転機の稼働中にパフォーマンスに関する情報をオペレーターに提供する。
なお、提供される新機能は、従来モデルのアップグレードオプションとしても購入することもできるようになっている。
日本HP HP PageWide Web Press カテゴリーマネージャーの田口兼多氏は、「HPは、インクやプリントヘッドなど主要な技術を垂直統合で提供しているため、自社で開発ロードマップを描くことができ、ユーザーの投資を保護できる。また、今回の新製品の投入により、22~110インチまでの用紙幅に対応できる。幅広いポートフォリオにより、オフセット品質の印刷において、『Analog to Digital Transformation』を目指す」とした。
規模5.5兆円のグラフィック市場、デジタル化で成長余地
日本HPにとって、デジタル印刷機は、今後の事業成長における重点領域に位置づけられている。
日本HP 常務執行役員 デジタルプレス事業本部長の岡戸伸樹氏は、「グラフィック市場は、全世界で5兆5000億円の市場規模があるとみられ、デジタル化によって、高い成長が見込まれている」と前置きし、「2014年から2019年の一般商業印刷全体では、市場規模は0.5%減となっているが、中身を見てみると、アナログ印刷は2.7%減となり、デジタル印刷は5.5%増となっている。しかも、Indigoによる商業印刷は12.7%と高い成長を遂げている。そして、B2出力だけをみると、Indigoが95%と圧倒的なシェアをとっている。この数字によって、印刷市場におけるデジタル印刷機の強み、Indigoの強みを理解してもらえるだろう」と自信をみせる。
また、インクジェットデジタル輪転機のHP PageWide Web Pressの市場を見ても、同製品のユーザーは、月間80億ページを印刷し、印刷規模は年率15%増で推移。そして、同製品による印刷が、世界のインクジェット書籍市場の75%を占めているという。さらに、軟包装印刷によるラベル&パッケージも、市場全体は4.4%増だが、Indigoユーザーは30%以上と、約7倍にあたる高い成長を遂げている。
岡戸常務執行役員は、「消費者は、より速く、正しいタイミングで、自分にあった印刷物が届けられることを求めている。また、ブランドオーナーは、オンラインにも、オフラインにも数多くの製品が並ぶなかで、自社の製品を魅力的に見せることや、模造品との戦いにおけるブランドの保護、循環型社会に貢献する環境推進が求められている。このためにはデジタル印刷の技術が必要である」とする。
同社では、デジタル印刷には、「イノベーション」による進化と、「オートメーション」による進化の2つの方向性があるとする。
イノベーションでは、デジタル印刷ならではの可変印刷の技術を生かして、顧客にあった豊かな体験を提供する営業的アプローチを指す。一方で、オートメーションは、大量のジョブを効率よくさばき、アナログからデジタルへの転換を推進する、いわば製造領域の観点からの取り組みになる。
「イノベーションという観点でみれば、Indigoのインビジブルインキを使ったプレミアムプリントプロバイダーは、2019年には、2014年比で337%増の高い成長率を達成。また、オートメーションの方向においては、ウェブ・トゥ・プリントを実現しているオンラインプリンターの成長率は、同じく336%増になっている」とする。
Indigoを活用したデジタル化によって、印刷事業者はビジネスを拡大することができることを強調してみせる。
「印刷事業者の多くは、厳しい環境にさらされるレッドオーシャンのなかにいるが、デジタル化を促進する日本HPの製品を活用することで、高収益を達成できるブルーオーシャンへと移っていくことができる。Indigoの活用により、印刷事業者を成功パターンに導くことができる」とする。
印刷業界の現状打破、HPが主導する意気
HPでは、PCおよびプリンタ事業のリーダーシップ強化を目指す「ADVANCE(前進)」、グラフィクス事業と3Dプリンティング事業の成長による「DISRUPT(破壊と創造)」、デジタル化の推進とコスト効率の向上を図る「TRANSFORM(変革)」を3つの戦略を掲げている。
今回の新製品群は、「DISRUPT」に位置づけられる製品群で、デジタル印刷適用範囲の拡大によって、印刷業界におけるアナログからデジタルへの変革を加速し、SNSなどのデジタル化が進むなかで、印刷物ならではの新たな価値を再定義することを目指す。「今後のHPの成長をけん引する大切な事業になる」とも語る。
HPは、2016年以降、デジタル印刷機の領域において、500億円にのぼる開発投資をしてきたことを明かす。
「この領域において、これだけの投資体力を持っている企業はHPだけである。盤石な経営基盤が今回の新製品開発への投資につながっている。今後も継続的な投資を行い、アナログからデジタルへの流れを加速するとともに、新たにデジタル印刷に挑戦するユーザーにも導入しやすいエントリーモデルもきちんと進化をさせていく。幅広いポートフォリオを持つことができるのもHPの強みである」とする。
そして、こうも語る。
「今後数年が、デジタル印刷機普及の大切なタイミングである。アーリーアダプターの導入期から、普及期へと移行する段階にある。デジタル印刷機の販売も好調であり、市場が動き出している。それを一気に加速させるためにも、今回の新製品投入は重要な意味を持つ。HPは、印刷業界に携わる人たちの進化をサポートし、ブランドオーナーや消費者に感動を提供するビジネスパートナーであることを目指したい。そして、印刷業界の発展に貢献したい」とする。
日本HPは、低迷する印刷業界の救世主となるのか。