耳をふさがずに、大迫力のサウンドで、自分だけの音響空間を楽しめるパーソナルシアタースピーカー「SWIRE AURBIS(スワイヤー オルビス)」が注目を集めている。ソニー、パナソニック、パイオニア、オンキヨー、三洋電機といった電機大手出身の技術者などが参画して開発した新たなカテゴリーの製品で、Makuakeによるクラウドファンディングでは、目標を大きく上回る支援金額を達成。発売に向けた準備が整いつつある。「SWIRE AURBIS」とは、果たしてどんな製品なのか、そして、どんな経緯で誕生したのか。「SWIRE AURBIS」を発売するシリウスの亀井隆平社長や、共同開発したソニーの元技術部長である横田哲平氏などに話を聞いた。
シリウスの本社は、東京・東上野にある。
社長の亀井隆平氏は、三洋電機出身であり、この場所は、かつて三洋電機東京ビルがあった場所からも程近い。
取材のためにシリウスの本社を訪れると、開始時間にあわせて、「SWIRE AURBIS」の開発に携わったメンバーが続々と集まってきた。
亀井社長のほかに、話を聞かせてくれたのは、ソニー出身の技術者で、SWIRE AURBISの製品化のきっかけをつくった横田哲平氏、パナソニック出身で、デザインや構造設計を担当する小西哲哉氏(exiii design CEO)、パイオニア出身で、音響システム開発やアプリ開発に携わる山本健太郎氏(ネイン 代表取締役兼CEO)、そして、オンキヨー出身であり、シリウスの社員として在籍する小堺真吾氏、ゲーマーでもあり、自らヘッドホンなどの開発に強い情熱を持ってシリウスで働く古巣悠二氏である。また、プロジェクトをサポートするシリウスの高橋秀行専務取締役も取材の場に同席してくれた。
20代の古巣氏以外は、40歳以上というおじさんたち(?)の集まりであり、最高齢の横田氏は75歳。50歳以上も離れたメンバーが集い、常に笑顔を見せながら、楽しそうに想いを語り、取材に応じてくれたのが印象的だ。「新たな製品を、市場に問う」という挑戦する強い意思が、会話の端々に感じ取れた。
亀井社長は、「SWIRE AURBISは、既存のオーディオメーカーでは、作ることができなかった領域の製品である。シリウスならばできると考えた」と切り出す。
「SWIRE AURBIS」は、耳をふさがないオープンタイプのスピーカー構造を採用しながら、10cmという大口径スピーカーによって、迫力ある音響体験ができる製品だ。
つまり、「スピーカーを耳元で鳴らす」という斬新な発想で生まれた製品である。
「ヘッドホンやイヤホンは、高音質の追求が進展する一方で、耳が疲れる、圧迫感があるという課題がある。また、スピーカーのサイズが小さいため、重低音の再現には限界がある。一方で、ホームシアターを導入しようとしても、マンションでは近隣に重低音が響いたり、家族に反対されたりといったことで諦める人も多い。SWIRE AURBISは、ヘッドホンでも、スピーカーでもない、新しい音の選択肢であり、立体的で、迫力ある音響体験を保ちながら、耳への負担を抑えた音響デザインを実現している。映画や音楽、ゲーム、スポーツなど、幅広いコンテンツで、視聴環境に制約されない自由なサウンド体験を実現できる」と自信をみせる。
外形サイズは、幅300mm、高さ226mm、奥行260mmで、重量は670g。最大22時間の連続再生が可能だ。また、Bluetooth 5.4によって低遅延を実現して臨場感をサポート。家族でも複数のデバイスを利用できるように、最大8台の接続を可能にしている。テレビなどのデバイスにBluetooth機能が搭載されていない場合には、別売りのBluetooth送信機が必要だ。
3月30日まで実施されているMakuakeによるクラウドファンディングでは、15%オフの早割で3万7210円などのブランが用意されている。
・Makuakeの「SWIRE AURBIS」プロジェクトページ
https://www.makuake.com/project/swire_aurbis/
シリウスは、2008年に設立。三洋電機で、マーケティング本部や国内営業本部、経営企画本部で経験を持つ亀井氏が、2011年に社長に就任し、「日本ブランドの家電をもう一度元気にしたい」という想いのもと、独創的なモノづくりを進めるファブレス型家電メーカーである。開発に携わるのは社員だけでなく、外部のパートナーとも積極的にコラボレーションしているのが特徴だ。
これまでに、水洗いクリーナーヘッド「switle(スイトル)」やスティック型コードレスクリーナー「switle stick(スイトル スティック)」、次亜塩素酸加湿器「switle moist(スイトル モイスト)」、オールインワン介護用洗身用具「switle BODY(スイトル ボディ)」などを製品化している。
たとえば、2017年に発売した「switle」は、家庭用掃除機の先に取り付けるだけで水洗い掃除機に早変わりさせる世界初のクリーナーヘッドとして登場。カーペットの汚れなどを、水を使って洗浄することができる。掃除機だけでは落ちない菌や臭いを、除菌、消臭できるユニークな掃除機だ。
大手家電メーカーでは思いつかないようなアイデアと、それを商品化につなげる実行力がシリウスの特徴だいえる。
今回の「SWIRE AURBIS」は、同社初のオーディオ製品であり、「職人の耳で音響を作り込み、家電のプロが構造、耐久性、安全性を支え、若手エンジニアが最新技術とトレンドを反映させて完成した製品」と位置づける。
亀井社長は、「テレビは薄型化、狭額縁化が進展し、同時に大画面化、低価格化が進んでいるが、その一方で、音に関しては、大型スピーカーを内蔵するスペースが無くなったり、廉価なスピーカーを採用していたりするため、劣化しているのが実情である。SWIRE AURBISであれば、ヘッドホンでは味わえない空気の震えや、サウンドバーには表現できない包み込むような音、テレビでは出せない圧倒的な音質を実現できる」とする。
SWIRE AURBISが誕生した背景を探ると、それは、20年前の2006年にまで遡ることになる。
当時、ソニーに在籍し、ホームオーディオ事業を担当していた横田氏に、デザイン部門から、イタリア・ミラノで開催される世界最大の国際家具見本市「ミラノサローネ」において、新たなシアターシステムを出展することについて打診を受けたことが発端だ。
横田氏が、試行錯誤の末に辿り着いたのが、椅子にスピーカーを取り付け、それによって、周辺に迷惑をかけずに大音量を楽しむことができる音響装置の開発だった。
横田氏は、「実験をしているうちに、スピーカーを耳に近づければ、スピーカー用のボックスがいらないことがわかってきた。椅子に取り付けたのは、20cm口径の大型フルレンジスピーカーだったが、ボックスのなかに入れなくも、重低音は利用者にしっかりと届きながらも、周りには拡散せず、中低音も耳までの距離が近いために届けることができる。しかも、わずかの出力で映画館と同じような音を再現できることがわかった」と、当時の発見を振り返る。
いい音を実現するには、重たいスピーカーを、頑丈なボックスに入れなくてはならないというそれまでの常識を無視した発想であり、スピーカーを耳の近くに配置することで、重低音も、中低音も再現。しかも、室内環境の影響を受けずに、クリアで、歪みのない音質を実現する。さらに、耳までの距離が短いことから、超省エネも可能にするというメリットを生むことが発見できたのだ。
横田氏が実験の結果、辿り着いたのは、口径の半分の距離で、スピーカーを耳に近づけると、重低音を生かすことができ、効果的であるという点。今回のSWIRE AURBISでは、10cm口径のスピーカーで、耳元5cmで聴く構造としているが、これは、このときの法則が生かされている。
実は、横田氏自身、オーディオマニアの一人として苦い経験がある。
映画好きの横田氏は、自宅でコンテンツを楽しむために、3管式プロッジェクターを購入。それにあわせて、5.1chのホームシアターシステムも導入した。初めて自宅で聴いたサブウーファーの威力に感動したものの、すぐに家族からクレームがあり、その後はホームシアターシステムの音量を上げることができないままだったという。
家庭内でも、重低音を楽しめる世界の実現を模索していた横田氏にとって、ミラノサローネの出展に向けた試行錯誤は、思いがけずに、それを解決する手段に辿り着くことにもなったのだ。
出展した大口径スピーカーを搭載した椅子は、ミラノサローネで注目を集めたことで、2008年には、ソニーミュージックを通じて、羽田東急ホテルのエンターテイメントルームに導入。一般の人も、新たな音響体験をできる環境が用意された。部屋のなかには、プレイステーションと100型の大画面環境を設置しており、家でゲームをプレイするのは困ると言われた若いお父さんが、大画面と重低音を生かした音響でゲームを楽しんだり、ホテルが用意したBDソフトの貸し出しにより、女性2人で泊り、気兼ねなく悲恋の映画で涙を流しながら視聴したりといった使い方もあり、エンターテイメントルームの稼働率は高かったという。
しかし、商品化となると、話は別だ。椅子に取り付けて販売するというビジネスモデルは、ソニーのなかでは考えにくく、さらに、40Hzの重低音を低歪で再生させるスピーカーは、大振幅が必要であるため、当時の技術では、15cmの厚みがあり、磁石が大きいために2kgもの重量となり、ウェアラブルでの利用は難しく、内蔵用途などに応用範囲が限られていた。
横田氏は、2010年にソニーを定年退職。その後、神奈川県などが実行委員会を務める「かながわビジネスオーディション」や、自作ハードウェアコンテスト「GUGEN」での受賞を経て、2018年には、このコンセプトをもとに、アイワが「ButterFlyAudio」の名称で製品化を企画。クラウドファンディングには成功したものの、一般販売するまでには至らなかった。
だが、このころになると、ウェアラブルで使用できる軽量、薄型のスピーカーが登場してきた。アイワによるクラウドファンディングで最初に搭載したのも、新たに開発された16cm口径のスピーカーだった。ウェアラブル型の新たなスピーカーを実現するためのテクノロジーが進化し、耳元でスピーカーを鳴らすという考え方が具現化できるようになってきたのである。
SWIRE AURBISで採用したのは10cm口径のスピーカーだ。
「10cm口径のスピーカーであれば、耳元5cmの近距離で鳴らすことで、低域を効率よく再生できる。これは、パーソナルスピーカーとしては最適なサイズと距離感であり、軽くて、安くて、性能がいいものが作れる。10cmのスピーカーを耳元に配置するというこれまでにはない発想で、良い音を追求できる環境が整ってきた」とする。
今回、シリウスが開発したSWIRE AURBISは、横田氏のこうした経験を生かしながら、新たなコンセプトで開発したものだ。
横田氏は、「縁があって、亀井社長と出会うことができ、熱い想いを共有できたことで、このプロジェクトがスタートした。小西氏や山本氏、シリウスの社員と出会えたことも、今回の再挑戦につながっている」とする。
異業種交流会の場で、亀井社長と横田氏が出会って意気投合。シリウスが、switleなどの経験で培ってきたパートナーを巻き込んだ製品企画、開発、生産、マーケティングの手法を活用することで、モノづくりを推進。今回のSWIRE AURBISも、シリウスの従来製品と同様に、中国・蘇州の蘇州上洋機電で生産することになる。同社は、もともと三洋電機の生産拠点だった企業だ。
SWIRE AURBISのポイントのひとつが、ウェアラブルではありながらも、外出先で利用することはまったく想定せず、家庭内の大画面テレビなどで、映画館並みの迫力ある音を再現し、他人に迷惑をかけずに楽しむという用途に限定している点だ。 SWIRE AURBISは、「パーソナルシアタースピーカー」という新たなカテゴリーに分類しているのも、その狙いを明確にしている。
亀井社長は、「SWIRE AURBISを、家のなかで楽しんでもらう際に、最も象徴的なのがシアター。映画館の音響を再現し、自分だけの没入環境で、誰にも迷惑をかけずに楽しんでほしい」とする。そして、「もちろん、音楽も、スポーツ鑑賞も、ゲームも楽しんでほしい」と、笑いながら付け加える。
横田氏をはじめとして、開発に携わった全員がお薦めしたい映画タイトルとしてあげたのが、「プライベート・ライアン」。臨場感のあるシーンを体感できるという。また、馬が大群で迫ってくるような地響きが伝わる映像や、花火が打ちあがったときの重低音も、SWIRE AURBISの魅力を生かすことができるコンテンツだという。
「セリフの息づかいが耳元に響くリアルさや、空間まるごとが低音で震える圧倒的な量感を、家族に気兼ねなく、集合住宅という環境でも、存分に体験してほしい」と亀井社長は語る。
シリウスが、SWIRE AURBISによって新たに設定した「パーソナルシアタースピーカー」というカテゴリー名称は、シリウスが商標登録の申請をしているところだ。
家で使うことを前提にしたSWIRE AURBISは、外に持ち歩くというデザインにはせず、人間工学に基づいたネックピローを採用。リラックスして、長時間視聴しても疲れない構造を採用することにこだわっている。ネックピローを搭載したスピーカーは、シリウスが意匠登録している。
デザインを担当した小西氏は、「最初は様々なデザイン案があったが、10cmという大口径スピーカーの形を生かし、一人で、自宅で楽しむためのデザインを追求した。音を生かすだけでなく、デバイスを長時間装着しても疲れないデザインにするにはどうしたらいいかという点も考慮した」とする。人間工学に基づき、身体に対する荷重を分散する構造を採用しているという。
また、スピーカーのハウジングには、艶消しアルミを採用し、堅牢性と高級感を両立。アーム部は軽量アルミフレームを使用し、シリコンコーテイングによって耐久性も実現。ヘッドホンとは異なり、首にかけるスタイルであることから、髪型は乱れず、ゆったりとした姿勢で楽しめる。また、スピーカーが、耳を直接覆わない構造のため、閉塞感や蒸れがなく、長時間でも、快適さを維持できる。ネックピローにはファブリック素材を使用しているという。
シリウスでは、2026年1月にクラウドファンディングを開始したあともデザインを進化させており、当初は約1kgだった重量が、2月時点では670gにまで軽量化。部品の見直しに加えて、配線を内蔵してデザインをシンプルにしたり、ネックピローも装着しやすくしたりといったように、改良を加えている。「発売までに、さらに改良を加えていく」(小西氏)という。
一方、SWIRE AURBISは、スマホアプリでも操作が可能であり、好きな音質にカスタマイズしたり、それをプリセットできたりするほか、バッテリー残量なども確認できる。
開発を担当したのは、山本氏だ。「シンプルに操作できることを心掛けた。今後は、アプリから、本体に搭載する機能をバージョンアップできるようにしていく」とする。
また、SWIRE AURBISは、先に触れたように、Bluetooth 5.4により、最大8台までの接続が可能となっている。基本的にはリビングで、1人で楽しむ用途を想定しているが、同じ空間で複数の人が同時に楽しむこともできる。将来的には、小規模のイベント会場などで、多人数での同時活用も見込まれる。
SWIRE AURBISの名称は、ブランド名である「SWIRE」と、プロダクト名の「AURBIS」の組み合わせである。つまり、「SWIRE」は、シリウスが発売するオーディオ製品のブランド名であり、「AURBIS」は、今回のパーソナルシアタースピーカーに付与された製品名というわけだ。
ブランドの名付け親でもある小西氏は、「SWIREは、Swift(アマツバメ)と、Air(空気)を組み合わせた造語。高速で大陸間を渡り、省エネ飛行にも優れているというアマツバメの特徴を捉え、長時間装着できるデザインと、持続するバッテリー、省電力的稼働する製品であることを象徴している」と説明する。SWIRE AURBISのロゴにも、アマツバメを採用している。
また、亀井社長は、「シリウスの代表製品であるswitleの最初の3文字である『SWI』を継承したブランドでもある」と補足する。「switle」のネーミングは、三洋電機でライスブレッドクッカー「GOPAN」をはじめとするヒット商品を手掛け、シリウスでも副社長を務めた故・竹内創成氏によるものだ。三洋電機の数々のヒット商品のネーミングに携わった竹内氏の意思が、SWIREにも引き継がれているというわけだ。
一方、プロダクト名の「AURBIS」について小西氏は、「Aura(空気・雰囲気)と、ラテン語のOrbis(円、世界)を組み合わせた」とし、「オープンエア型ヘッドホンの開放感と、音が自然に広がる心地よい音響空間を表現するとともに、音に包み込まれるようなサラウンド感や、首のまわりのスピーカーアームが持つプロダクトの形状を表現した」という。
Makuakeによるクラウドファンディングは、2026年3月30日で、プロジェクトが終了する。3月22日時点での支援者数は700人を突破。応援購入総額は3000万円に迫ろうとしている。支援者には、7月末までに、製品を届ける予定だ。
そして、2026年6月中旬には、東京・渋谷で新製品発表を行い、それ以降、多くの人が体験できる場所も提供する予定だという。タワーレコード渋谷での先行発売も計画している。
さらに、SWIREブランドの次のオーディオ製品も気になるところだ。亀井社長のなかには、すでにいくつかのアイデアがあることも明かしてくれた。
シリウスは、音の世界においても、大手メーカーにはできない斬新な発想で、旋風を巻き起こす企業になりそうだ。




