パナソニックホールディングス 技術部門では、2040年の未来において、同社がありたい姿と、その実現に向けた研究開発の方向性を示す「技術未来ビジョン」を定めている。目指す姿として、「資源価値最大化(エネルギー・モノ・食)」、「有意義な時間創出」、「自分らしさと人との寛容な関係性」をあげ、これらを実現に向けた事業開発機能を強化し、共創パートナーとともに、積極的に事業開発を進めることになる。技術部門を構成するDX・CPS本部、GX本部、MI本部の3人の本部長が、パナソニックグループの技術戦略について語った。また、研究開発中のソリューションを含めた最新技術についても公開した。

  • パナソニックの「技術未来ビジョン」、技術戦略と最新研究から目指す姿を探る

    DX・CPS本部、GX本部、MI本部の3人の本部長が、パナソニックグループの技術戦略について語った

パナソニックホールディングス 技術部門は、「技術未来ビジョン」を定め、それに向けた研究開発を進めている。

パナソニックグループでは、1万人の人員削減計画を発表しており、そのなかで実行している「本社本部改革」に関連して、技術部門では、技術テーマの選択と集中を行うことになるが、パナソニック ホールディングス 執行役員・グループCTOの小川立夫氏は、「道筋や登り方を変える必要があるが、技術未来ビジョンで示した未来の姿そのものは変わらない」とする。

今回のDX・CPS本部、GX本部、MI本部の3本部による説明は、技術未来ビジョンを追求する姿勢が変わらないことを、改めて強調するものになった。

DX・CPS本部、デジタル・AI・CPS技術で新ソリューション

  • パナソニックホールディングス 技術部門 DX・CPS本部長の西城洋志氏

DX・CPS本部は、技術未来ビジョンで掲げている「くらし・しごと・ひと」領域において、新規商品や新規事業を創出し、GX分野への貢献を含めて、デジタル、AI、CPSといった技術でソリューションを生み出す役割を担う。

データとデジタル技術を活用して、業務や組織、プロセス、文化を変革して、競合との差別化を構築する「Internal DX」、新しい顧客とのつながりを構築し、よりよいくらしにつながる価値を届ける「External DX」、技術とソリューション、システム開発力の強化によって実現する「CPS」を通じて、研究開発に取り組むことになるという。

  • DX・CPS本部の発足の目的

パナソニックホールディングス 技術部門 DX・CPS本部長の西城洋志氏は、「技術未来ビジョンの策定においては、パナソニックグループが持つ豊富な知識および経験と、外部人材が持つ知見を融合させることで、新たなアイデアを創出し、それを反映した。現実空間にある情報や動きをリアルタイムで把握し、システム同士が相互連携する仕組みを作りたい。また、データを活用することで、組織のプロセスを軽量化したい」と語る。

西城氏は、ソフトウェアエンジニアとして、ロボット技術なども携ったきた経験を持つ。新入社員として勤務したのはヤマハであり、その後、トヨタグループを経て、パナソニックグループ入りした。最初に担当したのが技術未来ビジョンの策定だったという。

「技術未来ビジョンは広範なものだが、重要なのは、いまある当たり前を疑って、どのような世界が作られるのかを考えて、提案をしていくことである。そのためには、ビジネス、技術、クリエイティブに関わる人材が混ざって、気づいていないニーズにアプローチすることが大切である」とし、「AIの活用によって、議事録の自動化ができて便利にはなるが、そこで満足するのではなく、そもそも議事録はなんのためにあるのかを考えるべきである。議事録に書かれた決議事項はそのままアクションプランに反映したり、決議に至る議論をLLMに取り入れれば、より短い時間で、品質の高い提案ができたりできる。こうした観点から見れば、議事録は不要になる。いまあるプロセスを、AIを使って便利にするのではなく、AIを当たり前に使う世界におけるプロセスを考え、そこで人はなにをすべきかを考える必要がある」と述べた。

  • DX・CPS本部の体制と開発拠点

現在、DX・CPS本部は、デジタル・AI技術を基軸とする研究開発およびソリューション構築を行うデジタル・AI技術センターと、全社システム開発力強化推進室、ヒューマンエクスペリエンスデザイン室で構成。開発拠点は、国内4カ所のほか、ベトナム、シンガポール、ドイツ、米国にも配置している。

GX本部、エネルギー改革へペロブスカイトや水素も取り組む

  • パナソニックホールディングス 技術部門 GX本部長の小原英夫氏

GX本部は、その名の通り、Green Transformationの観点から、サステナブルな地球環境を実現する差別化技術開発により、パナソニックグループの事業創出や成長、発展に貢献することを目的としている。取り組みの起点となっているのは、「Panasonic GREEN IMPACT」のなかで掲げた「FUTURE IMPACT」であり、分散型エネルギー社会による変革に挑戦しているという。

  • GX本部は、サステナブルな地球環境を実現する差別化技術開発により、パナソニックグループの事業創出や成長、発展に貢献する

  • 「FUTURE IMPACT」は、「Panasonic GREEN IMPACT」のなかで掲げられているもので、分散型エネルギー社会による変革に挑戦している

パナソニックホールディングス 技術部門 GX本部長の小原英夫氏は、「GXが捉える概念は幅広い。サステナブルは、エネルギーだけが対象ではなく、幅広い事業を行うパナソニックグループが果たせる役割が大きい。強みを持つ材料やデバイスといった技術、エネルギーに関する知見を生かして、事業創出につなげる。サステナブル・エネルギー領域では材料分野にフォーカスし、くらし・ひとの領域では、材料、デバイスの観点からサステナブルを組み合わせて貢献を模索している。これらを支えているのが共通基盤になる」とした。

小原氏は、自動車メーカーからの転籍によるキャリア採用であり、燃料電池やエネファームの開発に携わり、パナソニックグループでは、環境エネルギー分野や生産技術でも経験を持つ。

組織は、「発電するガラス」と位置づけるペロブスカイトの開発に携わる「ペロブスカイトPV開発部」、電池やキャパシタ技術の融合進化のほか、高効率な水素電力変換技術などに取り組む「エネルギーデバイス開発部」、化学、生物学、情報科学の融合により、食のサステナブル化とリソース循環を実現する「グリーンマテリアル開発部」、省エネルギーやグリーン社会を支える光、熱、磁気デバイスを開発する「グリーンデバイス開発部」、MIや計算科学、高度解析の統合ソリューションによって、材料やデバイスの事業に貢献する「基盤技術部」、再生可能エネルギー導入とエリア規模での脱炭素化を促進する「エネルギー事業開発室」で構成する。

「パナソニックグループの技術部門の組織名は、見るだけでなにを開発しているかが明確であり、競合相手にもすぐにわかってしまう」と笑いながら、「電池やキャパシタの技術を活用するだけでなく、植物の生育を加速するバイオ技術、炭酸ガスの吸収や資源価値に転換する技術、波や光などの波動を理解したセンシング技術などにも取り組んでいる」とする。

分散型エネルギー社会の実現に向けては、これまでの「つくる」、「はこぶ」、「つかう」に加えて、「あつめる」といった要素が重要になるとしたほか、さらに、「つくる」という領域においても、グリーン水素製造デバイスの提供によって貢献ができるという。

  • 「つくる」、「はこぶ」、「つかう」に加えて、「あつめる」といった要素が重要になると見通している

また、「大規模および中規模工場において、200V以下の低圧分野での省エネやCO2排出量削減などに貢献するソリューションや技術を提供している。家庭や小規模ビル向けには、ペロブスカイト太陽電池など、クリーンなエネルギーデバイスを提供することになる」とした。

MI本部、モノづくりの総本山を担う技術者集団

  • パナソニックホールディングス 技術部門 MI本部長の松本敏宏氏

MI本部は、Manufacturing Innovationの略称で、生産技術に精通した技術者集団と位置づける。

  • MI本部は生産技術に精通した技術者集団

パナソニックホールディングス 技術部門 MI本部長の松本敏宏氏は、「民間企業として、初めて生産技術の研究を始めたのが松下電器(現パナソニックホールディングス)である。である。約60年間に渡り、社内の製造装置の開発に携わってきた。パナソニックグループのDNAであるモノづくりの総本山としての役割を担っている」と前置きし、「現在のMI本部では、生産設備の開発だけでなく、材料系の生産技術の開発や、脱炭素化および再資源化による環境負荷の極小化にも取り組んでいる。最先端の生産技術を活用した新たなモノづくりプロセスの創出による社会変革と、事業の競争力強化を支援していくことになる」とした。

松本氏は、松下電器産業の生産技術本部(現パナソニックホールディングスのMI本部)に入社して以降、パナソニックシステムネットワークス佐賀工場長や、インドネシアの生産拠点での生産技術センター担当のほか、ロボティクス推進室長、生産・環境技術研究所長を歴任している。 事業の競争力強化支援としては、製造現場力の強化や、モノづくり人材の育成、事業変化に即応した整備開発や提供を行う一方で、新規モノづくりプロセス創出による社会変革では、ひと、しごと、環境の観点から、価値提供を模索しているという。

また、MI本部では、技術未来ビジョンに基づいて、「サーキュラーエコノミー」と「治療細胞製造」の2点に取り組んでいることにも触れた。

「サーキュラーエコノミー」は、工場でのモノづくりが大きく変化するチャンスと捉えおり、劣化しにくい材料開発や修理しやすい設計のほか、リサイクル技術の高度化によって、これまでのように、製品販売後に価値が減衰する構造から、新たな材料により価値が減損しにくかったり、修理することで価値を維持したり、リサイクルによって新たな価値を再構築できるといった視点へと変革させていくという。

具体的な取り組みとして、DfCE(Design for Circular Economy)により、設計段階から分解まで考えた設計を推進。組立性の評価だけでなく、分解性についても評価した設計に取り組むという。まずは、家電を中心にこの考え方を進めているところだ。

  • 価値の維持や、再生の視点をもったモノづくりへと、「サーキュラーエコノミー」で、工場でのモノづくりが大きく変化するチャンスと捉えている

  • DfCE(Design for Circular Economy)の取り組み。設計段階から分解まで考えた設計を推進

また、パナソニックによる検査済み再生品である「Panasonic Factory Refresh」事業においては、栃木県宇都宮市のパナソニック エンターテインメント&コミュニケーション(PEAC)宇都宮工場で、店頭展示の戻り品、サブスクリプションサービスの契約終了後の商品、初期不良品などの再生を行っており、「静脈型の工場づくりも重要な取り組みのひとつになる」と位置づけた。

もうひとつの「治療細胞製造」では、京都大学iPS細胞研究所との連携により、患者自身またはドナーの細胞を使って病気を治療する細胞治療に貢献。iPS細胞から免疫細胞を作る領域に、製造装置やデータ解析シミュレーション技術などを活用することで、自動化を支援するという。

「工場のモノづくりで培った技術を、治療細胞製造に応用することになる。省人化した小型装置による製造や、安定した高品質製造、低コスト製造が可能になり、多くの患者に提供が可能になる。医学と工学を融合で、一人ひとりにあった治療細胞をあらゆる人に届ける」と述べた。

  • iPS細胞から免疫細胞を作る領域に、製造装置やデータ解析シミュレーション技術などを活用することで、自動化を支援

  • 工場のモノづくりで培った技術を、治療細胞製造に応用。一人ひとりにあった治療細胞をあらゆる人に届けることができるように

研究開発中のソリューション、最新技術を公開

一方、研究開発中のソリューションを含めた最新技術についても公開した。

写真を通じて、公開した展示内容を紹介しよう。

DX・CPS本部

  • EMSセキュリティ監視サービスは、電力制御通信に特化した国内初の攻撃検知エンジンを開発して、分散型電源を制御するネットワークを監視。攻撃の早期検知やリスクの抑制を実現する。高度なアルゴリズムを駆使して、サイバー攻撃から電力システムを守ることができる。複数のAI解析手法を用いて検知エンジンの性能を強化。さらに、分散型電源の解析により、脆弱性を発見することもできる。現在、国内外の複数拠点で実証実験を行っているという

  • パナソニックホールディングスのブロックチェーン技術である「Tracephere(トレースフィア)」。デモストレーションでは、パナソニックのLED照明器具がスーパーで使われたあとに、別のスーパーでも使用され、さらにリサイクルされて、照明器具工場に戻るといった循環を、NFTによって証明することができる様子をみせた。企業が脱炭素に向けて貢献していることを証明する手段のひとつとして提案していくという。

  • 「現場CPS2.0」は、業務プロセスを設計段階から見直すことに焦点を当て、AIの活用をさらに促進。実績データと設計データを活用しながら、現場AIシミュレーションによって、製造現場全体を標準化する。さらに、複数の現場適応型エージェントの活用により、生産設備が停止した際に、トラブルの要因になった部分を特定したり、複数の対策方法の提案により、最適な修理作業や改善作業が行えたりするという。なお、現行の「現場CPS1.0」は、パナソニック コネクトなどを通じて、社内外を含めて116現場での導入実績がある

GX本部関連

  • パナソニックグループで開発中のペロブスカイト太陽電池。グラデーションをつけた半透明型モジュールを展示してみせた。インクジェット技術を活用しており、用途に応じで透明度を変化させることができる。すでに、神奈川県藤沢市のFujisawa SSTのモデルハウスで実証実験を行っている。また、大阪・守口市の同社拠点において、試作ラインを稼働させており、ガラス建材として実用サイズとなる1.0×1.8mを実現。2026年度から市場投入する予定だ

  • 二酸化炭素を利用して、農産物の成長を促すことができる成長刺激剤の「Novitek(ノビテク)」。シアノバクテリアという光合成微生物の一種を使用し、成長を刺激する物質を作り出した。使い方は、葉に振りかけるだけだ。日本各地の農地でNovitekを使用し実証実験を行ったところ、最大で約40%の収穫量増加の効果が見られたという。ブロッコリーやホウレンソウで高い効果が得られている。今後は、森林保護などにも応用していく考えだ

MI本部関連

  • セルロースファイバー樹脂の「kinari」は、すでに福知山市では学校給食用の食器に採用されたり、ランプシェードに利用されたりといった実績が出ているが、2025年5月に、エンジニアリングプラスチックと同等の強度を持つ材料を新たに開発。ナイロン系樹脂に、セルロースファイバー樹脂を40%添加することで、成形性に優れるとともに、低比重な成形材料として利用できるようになった。高温で、強度が求められる場所での採用が期待されているという。すでに自動車メーカーとの話し合いを進めており、高温になりがちなシフトレバーの受側部分に採用することなどが検討されているという。Kinariが工業領域での用途に、いよいよ踏み出すことになる

  • 易分解設計であるDfCE(Design for Circular Economy)は、リペア、リユース、リサイクルを重視した新しいモノづくりの考え方である。DfCEの概要を、コンセプトモデルのモックアップとして展示。この展示は、2025年1月に、米ラスベガスで開催されたCES 2025でも注目を集めた。現時点では、どの製品領域で、この考え方を採用するのかといったことについては明らかにはしていないが、まずは家電分野での展開が有力となりそうだ

その他

  • プロダクト解析センターが開発したBHQ(Brain Healthcare Quotient)測定装置。脳の健康状態をチェックすることができるもので、カメラの前に立ち、表情を計測することで、脳の健康状態を示す「BHQ」を簡単に推定できる。驚いた表情、悲しい表情、笑顔の表情、しかめっ面の4種類のサンプル画像が表示され、それにあわせて同じ表情をし、それを撮影する。従来のMRI計測や、スマートウォッチなどによるバイタル計測に比べ、手軽で、迅速に、低コストで、脳の健康状態を知ることができる

  • 有料老人ホームやデイサービス施設などに提供している歩行トレーニングロボット。AIを使うことで一人ひとりに最適な負荷をかけて、歩行運動をサポートする。ハンドルにかかる力や、車輪の回転情報をもとに、速度、継続性、バランスなどを検出。データはクラウド上に蓄積し、改善状況などを確認できる。最大200人まで登録できるという。ハンドルの高さも自由に変えられ、毎日簡単に計測できるのも特徴のひとつだ