• VAIOがはじめる「第3章」 ソニー独立から10年、転機のノジマ入り - 山野正樹社長に聞く

「VAIO第3章が始まる」――。ノジマによるVAIOの買収が完了したのが2025年1月6日。まもなく2カ月を経過しようとしている。これを、VAIOの山野正樹社長は、「VAIO第3章」と表現する。

ソニーのPCブランドとしてスタートした「VAIO」は、1996年に米国で先行して発売。1997年には日本でも販売を開始し、長年に渡り、多くのユーザーを魅了するPCを相次ぎ投入してきた。だが、低価格路線を追求した海外事業の不振などが影響し、赤字に転落。2014年7月、ソニーは、投資ファンドの日本産業パートナーズに、VAIO事業を売却。VAIO株式会社を新たに設立し、事業継続を図ることになった。その後、着実に業績を回復させ、独立から10周年を迎える今年度は売上高500億円突破が初めて視野に入っている。そのタイミングで、ノジマによる買収が完了。ノジマはVAIO株式の約93%を、111億円で取得した。

なぜ、VAIOはノジマグループ入りしたのか、それによって、VAIOは、なにが変わり、なにが変わらないのか。VAIOの山野正樹社長を直撃し、VAIOのいまを聞いた。前編では、ノジマグループ入りするまでの経緯と、VAIOの事業戦略に及ぼす影響などについて語ってもらった。

  • ノジマによるVAIOの買収からまもなく2カ月。VAIOの山野正樹社長にお話を伺った

ノジマ入り、本当はなにがあったのか?

―― VAIOが、ノジマグループ入りした経緯を教えてください。

山野: ノジマグループ入りをVAIOから働きかけたとか、VAIOがノジマに支援を求めたといった見方がありますが、それは大きな誤解です。社長の私を含めて、VAIOは、売却に関する動きにはまったく関与していません。

では、なぜ今回、ノジマグループ入りとなったのか。約10年前を振り返りますと、ソニーは、VAIOの事業に関して、日本産業パートナーズに支援を求め、2014年7月に、VAIO株式会社として独立した経緯があります。投資ファンドは、買収した企業の価値を高め、売却することで利益を得るのが、基本的なビジネスモデルです。一般的には5年ぐらいで売却することになりますが、VAIOの場合には、10年という長い期間保有し、その間、様々な可能性を探っていたわけです。

今回の売却の決定プロセスについては、すべて日本産業パートナーズによって進められたもので、私はまったく関与していませんし、決まった時点で初めて話を聞きました。2024年8月頃のことで、その際に、デューデリジェンスなどが始まるので、協力してほしいという依頼を受けました。

―― 話を聞いたときには、どう思いましたか。

山野: 私も驚きましたよ。「なぜ、ノジマがVAIOを買うの?」というのが最初の思いでした。それはきっと、世間の人たちと一緒の感想ですね(笑)。

しかし、ノジマグループは、多くの企業買収を進めており、それによって事業を拡大しています。家電量販店のイメージが先行していますが、グループ全体に占める家電量販店事業の比率は、現在では40%以下です。野島廣司社長は、今後のノジマグループの成長のために、VAIOが必要だと考えたのではないでしょうか。また、VAIOが成長フェーズへと入り始め、将来性を評価し、それを支援することで、VAIOがより高い成長を遂げることができ、それとともに、ノジマグループがより繁栄していくことができる、と思ってもらえたのではないかと捉えています。

「VAIO」が変わるもの、変わらないもの

―― ノジマグループ入りしたことで、VAIOのなにが変わり、なにが変わらないのでしょうか。

山野: 今回の買収にあたって、ノジマから提示された条件のひとつに、私がVAIOの社長として続投することが盛り込まれていました。一般的に、親会社が変わると経営陣が一新され、それによって事業方針が変わるといったことが起きますが、今回は、そうしたことがありません。しかも、それが親会社の強い意向によって決められたわけです。

野島社長と何度か話し合いを進めるなかで言われたのが、VAIOの独立性を尊重し、口出しをしないこと、現経営体制にも手をつけないこと、事業方針やお客様との関係、人事制度や報酬制度も変えないことです。そして、VAIOブランドが無くなったり、ノジマグループのオリジナル商品にVAIOブランドを付けたりすることもないと言われました。VAIOの新経営陣にも、野島社長が取締役として加わるだけであり、ノジマからさらに役員が派遣されることもありません。取締役の1人が、日本産業パートナーズの役員から、野島社長に代わっただけです。ですから、今回の買収は、まさに親会社が変わっただけであり、それ以外については、VAIOはまったく変わらないといえます。

  • 山野社長の話からは、VAIOの個性を活かして事業を伸ばそうとするノジマの方針が垣間見える

―― VAIOの買収は2024年11月11日に発表され、2025年1月6日に買収が完了しました。社員にはどんなことをいいましたか。

山野: 11月11日に、社員向けにメッセージを出しました。いま、お話したように、VAIOは、まったく変わらないということを伝え、安心して仕事をしてほしいと伝えました。

さらに、3日後には、社員全体を集めた全体会同を開催し、安曇野本社と東京オフィス、その他全国の営業拠点をつなぎ、私の言葉で、話をしました。社員も最初はびっくりしたと思いますが、理解をし、安心をしてくれたと思っています。また、野島社長も、12月12日にVAIOの本社を訪れ、社員に向けてスピーチをしてくれました。そのときにも、野島社長は、「口出しはしない」ということを、社員に向かって語ってくれました。経営体制や事業方針が変わらないということは、社員にとって、大きな安心感につながりますし、今回の買収をポジティブに受け止めることにつながっています。

ソニー時代の「VAIO第1章」、日本産業パートナーズによって再生を進めた「VAIO第2章」に続き、ノジマグループ傘下での「VAIO第3章」がスタートしたわけで、それに向けて、多くの社員が新たな決意で臨んでくれていると思っています。

  • ここから「VAIO」の第3章がスタートする

とくに、長年にわたって、VAIOで働いている社員は、今回のノジマグループ入りを前向きに受け取っています。10年前にソニーから切り離され、規模を大幅に縮小し、経費を削減しながら、それでもやっていけるかどうかという不安のなかで再スタートを切った経験があります。鉛筆1本を購入するにも社長の決裁が必要で、東京オフィスも極端に狭いなかで、肩を寄せ合うようにして仕事をしてきたわけです。さらに、投資ファンドのもとにありますから、いずれはどこかに売却されるということを考えながら、再生に向けて、厳しい10年間を過ごしてきました。ようやく、ここ数年で、売上げが伸び、お客様からの信頼も得て、東京オフィスも広がり、社員が増え始めたなかで、今回のノジマグループ入りとなり、「ようやくここまできた」、「次のステージに行ける」という思いが強いのではないでしょうか。

社員がポジティブに捉えた理由のひとつに、売却先が外資系企業ではなかったという点もあります。ノジマは、国内資本の企業であり、右肩上がりで成長し、約10年で(株式の)時価総額は約10倍になっています。勢いがある企業のなかに入ったことで、VAIOの成長にも弾みがつくといえます。

―― ちなみに、11月11日の朝、そして、年が明けて1月6日の朝は、山野社長はどんな気持ちで迎えましたか(笑)。

山野: 11月11日に考えていたのは、「社員が動揺しないようにするにはどうするか」ということだけでしたね。そのために、メッセージをどう出すのか、しっかり伝えるにはどうするのかということだけに集中しました。社員向けのメッセージは、何度も、何度も推敲しましたよ。結果として、そのメッセージによって、社員は安心し、前向きになってくれたと思っています。一方で、1月6日は、もう決定事項ですし、新年初日でもありましたから、決められたことを粛々と進めていきました。午前中に、臨時株主総会および臨時取締役会を開き、野島社長にVAIOの取締役になってもらうことを決議し、新たなVAIOがスタートを切ったわけです。

―― メーカーであるVAIOと、流通業であるノジマの企業文化に違いは感じませんか。

山野: 実は、私は、むしろ似ていると思っているんです。野島社長の著書や、社員向けの冊子などを読ませていただいたのですが、私自身、共感できる部分が多くありました。一方で、私が社員向けに書いたメッセージや、VAIOの行動理念、商品理念などを、野島社長に読んでもらったところ、「考え方が似ている」という言葉をもらいました。いまは、VAIOの行動理念を変えたり、VAIOの方針のなかに、ノジマの経営理念を盛り込んだりといった話もありません。お互いに違和感がないからこそ、そのままなのだといえます。

  • VAIOの行動理念と商品理念

ノジマの社内でも「一番」という言葉が使われていますが、これはシェア一番や売上規模で一番になることだけを追求したものではありません。お店に行けば、一番安心だし、一番いいものを勧めてくれるということを目指しています。その点ではVAIOも同じです。唯一無二のものを提供することで一番になるのがVAIOですし、そこにVAIOの価値があります。その点でも、共通する姿勢があると思っています。

メーカーと流通業、意外なシナジー

―― VAIOが、ノジマグループに入ったことでの懸念材料もあるのではないでしょうか。たとえば、VAIOのビジネスが、ボラティリティの高いB2Cに回帰することになったり、他の量販店での販売が減少したりといったことはありませんか。

山野: 先にもお話したように、事業方針はまったく変わりません。現在、VAIOのビジネスの約9割がB2Bであり、量販店などを通じたコンシューマ向け販売の比率は約1割です。この基本戦略を変えることは考えていません。

また、ノシマと競合する量販店の対応は確かに心配ではありましたし、最初はネガティブな反応がなかったわけではありません。しかし、直接、ご挨拶にお邪魔し、状況を説明し、事業方針やモノづくりにも変化がないことをお話ししたところ、いままでと変わらない取り扱いをするといったお返事をいただいており、良好な関係を築くことができています。全国10店舗で展開しているショップ・イン・ショップの「VAIOオーナーメードコーナー」も、そのまま継続してもらっています。

―― ノジマ向けに専用モデルを用意するといったことは考えていますか。

山野: 現時点で、その予定はありません。また、ノジマの事業方針に則る形で、VAIOを作るということもありません。ただ、ノジマの店舗でのVAIOの取り扱いは増えることになります。

実は、これまでノジマの店舗では、あまりVAIOを販売していませんでした。ノジマは、関東近郊に約220店舗を展開していますが、VAIOを販売していたのは10店舗程度です。これを全店舗で展開することになりますので、VAIOの露出が増えることになります。これは、VAIOにとっては、プラスの効果です。ノジマの店舗では、店員によるコンサルティングサービスが特徴ですから、VAIOの良さを伝えていただける環境が増えるといえます。ノジマの場合、郊外型店舗や、大規模ショッピングモールに小型店舗を展開するといったように、他の家電量販店とは異なる店舗戦略をしていますから、VAIOの取扱店舗が増えても、これまでのVAIO取扱店との直接競合が増えることはないと思っています。

また、もうひとつ期待しているのは、ノジマが持つ法人営業部門の強みです。ノジマグループには、携帯電話の卸売および販売を行うとともに、スマホを利用したソリューションサービスを提供するコネクシオや、ドコモショップなどの運営をはじめとして、スマホやブロードバンドサービスを核にした情報通信サービス事業を日本全国に展開するITXおよびITXコミュニケーションズといった企業があります。これらの企業が擁する数100人の法人営業部門を通じて、得意とするスマホに加えて、新たにVAIOを販売してもらうことを考えています。すでに、VAIOを提案するための社員教育などをスタートしているところです。

VAIOは一歩一歩、販売チャネルを拡大する努力をしてきたわけですが、こうした取り組みはこれからも続けながら、ノジマグループが持つ法人営業部門も活用していきます。お客様との接点が広がることは、事業会社の傘下に入った強みだといえます。

  • ノジマの法人営業部門がVAIO事業拡大にシナジーを発揮する可能性も

―― これは、VAIOが地道に拡大してきた法人向け販売ルートとバッティングする可能性はありませんか。

山野: VAIOの市場シェアは、モバイルノートPCに限定しても、わずか4%です。現場では、バッティングすることはあるかもしれませんが、それは一部だけだと思っていますし、むしろ、拡大する余地の方がまだまだ大きい企業です。その点では、露出や提案が増えることで、相乗効果が生まれ、B2B、B2Cともに、プラスの効果があると思っています。

―― コネクシオやITXが運営するキャリアショップで、個人向けにVAIOを売ることもできそうですね。

山野: Chromebookの販売をしている実績はあるようですが、そこにVAIOを展示販売するという話はしていません。まずは法人向けビジネスでの連携を図ります。

一方で、VAIOでは、認定整備済PCの販売を開始しており、この事業を2025年から本格化させる予定です。認定整備済PCは、VAIOが動作確認、クリーニングを行い、バッテリーや一部外装部品の交換を行ったリユースPCで、この販売に、コネクシオなどの販売チャネルを利用できると考えています。地場に根づいたショップを通じた販売ができますし、実際に認定整備済PCを見ることができる場にすることができると考えています。こうしたVAIOの新たな挑戦においても、シナジーを期待しています。

―― ノジマグループとのシナジー効果としては、ほかにどんなことが期待できますか。たとえば、ノジマグループには、インターネットサービスプロバイダーのニフティや、カタログ通販のセシールといった企業もあります。

山野: ニフティやセシールとは、まだ話し合いはしていないのですが、シナジーの可能性はありそうですね。ノジマグループでは、デジタルを通して社会に貢献することを志とし、「デジタル一番星」をキーワードに掲げています。デジタル領域でのシナジーは多くの可能性があると思っています。また、私見ですが、ノジマグループのM&Aは、これからも加速すると考えていますので、それにあわせて、VAIOとのシナジーの可能性はまだまだ広がると考えています。

―― 販売面でのシナジー以外に想定しているものはありますか。

山野: ノジマグループのなかでは、VAIOが唯一のメーカーとなります。ですから、やはり、販売面でのシナジーが大きいといえます。

―― 人事面での交流は予定しているのですか。

山野: VAIOは、営業部門を強化したいと思っています。本当は、ノジマの店長経験者などが来てくれるといいのですが、いまのところ、ノジマグループからは誰も出向してくれません(笑)。営業部門の強化に向けては、私たちが独自に人材を採用していかなくてはなりませんね。

(後編へ続く)