パナソニックのプロ用音響システム「RAMSA」が、1979年の発売以来、40周年を迎えた。
コンサートホールやイベント会場、スタジアムなどの音響システムとして、多くの導入実績を持つRAMSAは、常に、原音に忠実な音づくりを目指し、コンサートやスポーツの感動を、より大きなものとするための演出を下支えしてきた。その実績は、過去11回に渡るオリンピックに採用されたことからも裏づけられ、2020年に開催される東京オリンピック/パラリンピックでの採用にも注目が集まる。
パナソニックのRAMSAとはどんな製品なのかを追ってみた。
江の島の野外フェスで誕生、40周年の「RAMSA」
パナソニックのRAMSAが誕生したのは、1979年8月4日。神奈川県 江の島で開催されたロックフェス「Japan Jam」がそのときだった。
日本では、まだ屋外フェスが一般的ではなかった時代だったが、数万人が来場したこのロックフェスには、ビーチボーイズをはじめとする大物海外バンドが参加。日本からは、デビュー2年目で、「いとしのエリー」がヒットしていたサザンオールスターズが出演して話題となった。
「もともとパナソニックは、ラジオや拡声器など、戦前から音響技術に関するノウハウを蓄積していた。これらをもとに、SR(Sound Reinforcement)として、設備音響機器への展開を図ったのがRAMSAである」と、パナソニックシステムソリューションズジャパン マーケティングセンター メディアエンターテインメント推進部AVソリューション課サウンド係の岩泉仁氏は語る。
Japan Jamの会場には、RAMSAブランドの大型スピーカーが何段にも重ねられ、会場の盛り上がりを演出。RAMSAが鮮烈なデビューを果たしたのだ。
当時のRAMSAは、まだアナログオーディオであったが、その後デジタル化とともにグローバル展開を開始した。さらに、現在のラインアレイ方式の採用とともに、高いサンプリング周波数までをカバーする高品位化、光伝送の採用などによって進化。現在では、システムの統合化に力を注ぎながら、「Sound Reality & Heavy Duty(原音に忠実な音質と信頼性の両立)」というRAMSAが追求し続けてきた目標を、さらに高い頂へと引き上げようとしている。
あらゆる環境変化に強い音の良さ、耐久性も磨く
ちなみに、RAMSAは、「Research of Advanced Music Sound and Acoustic」の頭文字をとって名づけられたものであり、より進んだミュージックサウンドとその機器の探求という意味を込めている。
「RAMSAが最もこだわっているのは、原音に忠実な音質を実現すること。たとえば、コンサート会場には多くの人がチケットを購入して来場しており、当然、どの場所に座っても最高の音響で楽しむことが求められる。さらに、アーティストにとっても、いい音で演奏することでボルテージがあがる。ステージとオーディエンスの距離を縮め、一体感をもたらす音を提供することがRAMSAの役割である」と岩泉氏は語る。
RAMSAは、劣悪な環境下でもノイズに強いアナログ回路設計技術と、周波数特性をデジタル演算によってFIRフィルターで補正して音質を高める技術、音の入口から出口までを捉え、理想的な線音源を実現するスピーカー指向性制御技術の組み合わせによって、ステージ上の音を確実に捉えて、すべての客席にそのまま届けることを目指しており、「数多くのイベント現場で、ノウハウを蓄積し、課題をシステム全体で解決することができるのが特徴である」(岩泉氏)とする。
RAMSAのもうひとつの大きな特徴が耐久性である。
「過酷な環境でも利用できる耐久性はプロオーディオには必要不可欠な要素。その点でも、パナソニックは大きなアドバンテージがある」(岩泉氏)とする。
それを実証するのが、長年に渡り、オリンピックの音響システムとして採用されている実績だ。
RAMSAは、1998年の長野冬季オリンピックから採用され、シドニー、ソルトレーク、アテネ、トリノ、北京、バンクーバー、ロンドン、ソチ、リオデジャネイロ、平昌までの11大会で採用されている。
「夏季大会では気温が40度に達することがある一方で、冬季大会ではマイナス20度の環境で使用されることもある。まさに、現場で過酷な環境試験を繰り返しているようなもの」と岩泉氏は笑うが、「こうした経験があるからこそ、耐久性、信頼性における技術革新を行うことができた」と続ける。
長野冬季オリンピックでは、7競技68種目が行われ、ほぼすべての会場で、同オリンピック向けに開発されRAMSAブランドの全天候型スピーカーが稼働した。極限の環境下でもその実力を発揮してみせた。
また、2008年の北京オリンピックでは、41会場で、284の音響システムが活用された。大規模なスタジアムでも高品位な音質を隅々まで届けられるよう、特別に設計されたスピーカーを用いて、迫力あるサウンドで、大会の感動と興奮に貢献した。
そして、2018年の平昌冬季オリンピックでは、厳しい寒さにも耐えられる新開発の第3世代ラインアレイスピーカーを採用。スキージャンプ、スノーボード、アルペンスキーの各会場と、江陵オリンピックパークの4会場を熱く盛り上げた。
40年の蓄積を結集した新提案が「音響空間制御」
40周年を迎えたRAMSAが、新たに投入したのが、音響シミュレーションソフト「PASD(パスド=Panasonic Acoustic Simulation Designer)」である。
PASDを「音響空間制御技術」と称しているように、音響空間のコントロールに必要な設計、シミュレーションだけに留まらず、音響調整までをサポートすることができる。
「現場での音響調整をするために事前にシミュレーションをしても、現場での音響測定結果と不一致な場合が多く、現場での調整に時間がかかるという課題があった。会場によっては、音響調整にかけることができる時間が制限されていたり、音響調整が終わらないとアーティストのリハーサルができなかったりといったこともあり、音響調整はより短時間で行う必要があった。だが、PASDを利用することで、事前シミュレーションの精度を高め、現場での音響測定結果を、高精度で一致させられる。音響調整の時間を最大で4分の1程度にまで短縮でき、現場で収集したデータを持ち帰って再度シミュレーションを行うといった手間もなくなる」(パナソニック コネクティッドソリューションズ社メディアエンターテインメント事業部テクノロジーセンター商品設計部商品設計六課の大澤邦昭氏)という。
従来は現場での調整作業に多くの時間を割いていたものが、事前シミュレーションの精度を高めることで、現場での調整作業が最小化できるのが特徴だ。
PASDでは、ラインアレイスピーカーの構成を検討するソフトウェア「PaLAC(Panasonic Line Array Calculator)」と、クラスター配置を検討するソフトウェア「AcSim(Acoustic Simulator) II」の2つのソフトウェアによって事前のシミュレーションを行い、音響測定や音響調整を行うソフトウェア「AutoFIR(Automatic FIR filter adjuster)」によって、現場での細かい調整を行うことになる。
具体的には、PaLACでは、ホールなどの二次元の空間情報を入力し、それをもとにアレイスピーカーの配置を検討。最適なスピーカーの数や設置角度などを導きだして、施工仕様を検討し、さらに、音響解析を行うとともにフィルター係数を算出。DSPアンプにパラメータ情報を送信する。また、AcSimでは、三次元の空間データを入力し、そこに解析するエリアとスピーカーの位置情報を入れることで、音圧レベル分布を解析する。どの場所でも、差がなく、聞きやすい音響が出せるようにシミュレーションする。現場では、専用の測定マイクを用いて得られた情報をもとに、AutoFIRによって、音響測定および音響調整を行うという仕組みだ。そして、AutoFIRをはどめとしたPASDは、レッツノートなどモバイルPCで動作させることが可能だ。
また、PASDは、パナソニックシステムソリューションズジャパンが全国の拠点で開催しているセミナーの受講者に無償で提供している。
「ひとつのデータで、シミュレーションから現場の音響調整まで対応できる。サウンドデザイナーがPASDを用いて音響システムを構築し、PAオペレーター、アーティスト、観客の満足度を高めることができる」(大澤氏)とする。
今後は、アーティストなどの好みにあわせた調整を行う目標特性設定にも対応する。将来的には、AIの活用などによってさらなる進化が見込まれる。
長年に渡るオリンピックでの実績、数多くのコンサートやイベントでの現場の実績が、RAMSAの40年間の進化を支えてきた。そして、それらのノウハウを結集した新たな提案がPASDによる音響空間制御だ。
オリンピックやコンサート、イベント会場の隠れた主役として、40年間に渡り、進化を続けてきたRAMSAは、新たな技術を取り入れながら、プロオーディオの世界をさらに変えていきそうだ。