クボタは、2024年1月11日、新春オンラインイベント「GROUNDBREAKERS 2024」を開催した。今回で4年目となる同イベントでは、世界初となる無人自動運転機能搭載コンバイン「DRH1200A」を発表するとともに、クボタ営農支援システム「KSAS」や、同社のカーボンニュートラルへの取り組みなどについても紹介した。また、クボタは、米ラスベガスで開催されたCES 2024にも初めて出展し、完全電動化した多目的車両のコンセプトカー「New Agri Concept」を発表するなど、農機の自動化に向けた姿勢をより強く打ち出している。2018年のTBS系で放映された人気ドラマ「下町ロケット」に登場し、話題を集めたクボタの自動運転農機がさらに進化を続けている。

  • 世界初の無人自動運転コンバインの「DRH1200A」

    世界初の無人自動運転コンバインの「DRH1200A」

クボタの北尾裕一社長は、「GROUNDBREAKERS 2024では、食と農の未来に向けて、将来を見通し、いま取り組むべき課題を取り上げている。人手不足を解消するスマート農業、農業経営のボトルネックを把握して解決する見える化、野菜作の機械化などのソリューションを紹介するほか、優れたビジネスモデルを確立している事例を紹介しており、この先の農業経営のヒントを見つけてもらえるイベントになる」と位置づけ、「急激な進化を遂げるAIは、農業にどんな変化をもたらすのか。農産物流通に大きな影響を与える2024年問題を解決するために取り組むべきことはなにか、カーボンニュートラルの実現に向けての農業はどんな役割を果たしうるのか。これらのテーマは、社会問題と複雑に絡み合い、すぐに解決するものではない。今回のGROUNDBREAKERSをきっかけに、議論が深まり、本質的な解決に向かって、歩み出せるのかもしれないと思っている。クボタグループになにが期待されているのか。ぜひオープンな議論をしたい。責任を持って未来を描き、挑戦する人々が集い、語り合うことでこそ、イノベーションが生まれる。GROUNDBREAKERSは、そうした場である」と述べた。

  • クボタ 代表取締役社長の北尾裕一氏

また、今回のGROUNDBREAKERS 2024では、新たな試みとして、講義とワークショップで構成する「GROUNDBREAKERSスクール」を開講。イベントで得られる農業経営のヒントを得ながら、より学びを深め、日々の経営のなかで実践していくための内容とし、経営改善に取り組む機会を提供していくと述べた。

世界初の無人自動運転コンバインで「新時代の幕開けに」

GROUNDBREAKERS 2024で注目を集めたのは、コンバインとして、世界初の無人自動運転を実現した「DRH1200A」だ。

  • アグリロボコンバイン「DRH1200A」

これまでにもクボタでは、同社独自のGS(直進アシスト)機能を搭載した田植機、設定された作業ラインにあわせて自動運転で操舵を行うオートステア搭載のトラクタ、有人自動運転機能を搭載したコンバインのほか、「アグリロボシリーズ」の名称で、無人運転機能を搭載した田植機、無人自動運転機能付きのトラクタを製品化してきた経緯がある。

新たに発表した「DRH1200A」は、「完全自動化を着実に進化させているクボタにとって、大きな一歩を踏み出す製品になる。新時代の幕開けになる製品」と位置づけた意欲的なコンバインだ。2024年1月から発売する。

「新時代は乗らずに刈る」をキーメッセージに提案。稲や麦の収穫に対応し、作業者は、手動で圃場の最外周を1周刈り取り、自動運転開始位置に移動させ、リモコン操作で自動運転を開始。あとは圃場の外から監視するだけでいい。独自の匠刈りの進化により、自動運転で刈り取れる領域を90%にまで拡大。すみ刈りや周り刈り、往復刈りの自動運転のほか、モミ排出位置まで自動で移動する。

  • 自動運転で刈り取り領域を90%にまで増やしている

  • 独自の匠刈りの進化で、「新時代は乗らずに刈る」を提案

周囲刈りの際に、キャビンの上部に設置したレーザーセンサーが、周りのあぜの高さや障害物の情報をスキャン。これによって作られたマップによって、これまでは不可能であったあぜの上を走行するルート生成し、従来のトラクタや田植機の自動運転ではできなかった旋回ができるようになり、すみ刈りの自動化が可能になったという。

  • キャビンの上部にレーザーセンサーが設置されている

また、レーザーセンサーは、前方の作物の高さを認識。作物が倒伏していることを検知すると、リールの位置と回転数、車速を自動で制御して、最適な刈り取りを行う。稲や麦の倒伏角度が60度までであれば、自動で刈り取れるという。刈り取り部の詰まり解除も自動で行う。

ここでは、熟練オペレータによる刈り取りの状況をデータ化し、それをもとに、作物の高さと、それに最適なリールの高さ、車速などを割り出し、オペレータが行う細かい操作を、開発者がパラメータによって調整したことで再現し、倒伏した作物の刈り残しがない状況を実現できるようにしたという。

さらに、障害物検知機能を強化。コンバインは作物のなかを進んで作業を行うため、人と作物との見分けが難しかったが、人検知用カメラを前後左右4カ所に搭載することで、この課題を解決。人を検知すると自動停止する。また、前後2カ所にミリ波レーダーを搭載したことにより、車両を検知することもできる。

  • 人検知用カメラを前後左右4カ所に搭載

  • ミリ波レーダーを前後2カ所に搭載

熟練オペレータの確保が困難であるという課題や、熟練者相当の作業能率を維持し、作業規模の拡大が可能になるという。

なお、人が乗車し、主な収穫作業は自動で行う有人仕様も用意している。有人仕様では大豆も、自動運転での収穫が可能になる。有人仕様の自動運転では、未熟練者でも作業が可能となり、人員確保が容易になるというメリットが生まれるとしている。

コンバインの無人自動運転を実現する上で、最大のポイントとなったのが、障害物検知機能である。

「田植機やトラクタとは異なり、コンバインは作物のなかを進んで作業するため、作物と人を見分ける技術が必要となる。見て、判断し、止まるということを、機械でどう実現するかが課題となっており、田植機やトラクタに比べて、コンバインの無人自動運転の実現が遅れていた」とする。

同社では、人のように形をした雑草や、鳥が多く集まってきた状況と、本当に人がいる状況を区別するために、AIカメラを活用して、人を正しく検知する技術を開発することに取り組んできたという。

だが、一般的な道路で人を検知するのに比べて、圃場のなかでの人の検知は格段に難しい作業だったという。その背景には、AIに学習させるためのデータが少ない点があげられる。道路を人が歩いている画像データに比べて、圃場に人がいるという画像データは圧倒的に少ない。そのため、AIに読み込ませるための画像の撮影から開始。開発チームは、3~4年間に渡り、米や大麦、小麦、大豆の圃場を対象に、様々な色の服を着た人がいる画像を撮り続け、数100万件単位のデータを蓄積したという。これによって、圃場のなかで人を見分けることができるAIがようやく完成した。

また、人の検知状況ととともに、機械の状態を総合的に判断し、リスク判定する技術も開発することで、障害物検知の精度を向上させたという。

一方、クボタでは農業用ドローンのフラッグシップとなる新製品として「T25K」も発表している。最大容量20L、散布幅7.5mの薬剤散布と、最大35L、最大積載重量20kgの粒剤散布に対応。液剤散布ではアトマイザー方式の採用により、薬剤の粒径や散布量をコントロールしやすくなり、従来機に比べて、最大4.4倍の吐出量を実現しているという。稲作、畑作、果樹などの幅広い分野の生産者ニーズに対応できるという。障害物検知レーダーに加えて、カメラで障害物を認識するビジョンセンサーを新たに追加。自動航行機能により、作業前に飛行ルートを設定するだけで、自動航行散布を行える。また、リモートセンシング機能を搭載し、空撮画像をもとに作成した生育マップをもとに、可変施肥を実現。無駄のない最適な肥料散布が可能になる。DJIとの協業により製品化している。

  • 農業用ドローン「T25K」

クボタの目指すスマート農業、カギとなるいくつかの要素

クボタではスマート農業に実現に早くから取り組んでおり、その軸を「農機の自動化、無人化(オートノマス)」、「データを活用した精密農業(データコネクテッド)」、「カーボンニュートラル」の3点としている。

なかでも、「データを活用した精密農業」を支えるソリューションが、2014年に提供を開始したクボタ営農支援システム「KSAS」だ。今年で提供開始から、10年目の節目を迎える。

営農情報の見える化、自動日誌作成、食味・収量情報の見える化、トラクタや田植機、ドローンによる可変施肥、生育状況の把握、機械のメンテナンス情報の確認などの機能を持つ。

  • ドローンとKSASによるデータを活用した可変施肥を実現

今後は、KSASに蓄積された様々なデータを活用した新たな利用を提案するほか、土壌診断結果や気象情報の活用、生育ステージや高低差などを加味した散布時期や散布量の提案など、KSASを進化させる考えを示している。

また、「カーボンニュートラル」では、米を作るときに出る稲わらを、農業バイオマスとして回収し、メタン発酵技術により、バイオガスを取り出して、エネルギーとして有効活用する取り組みを開始。また、得られた残渣をバイオ液肥として、農家の圃場に還元する地産地消型の資源循環プロセスの実現を目指してすることを紹介した。

一方、米ラスベガスで開催したCES 2024では、「EVトラクタなどを通じて、カーボンニュートラルの実現に向けた、クボタのテクノロジーを世界に向けて発信した」(クボタの北尾社長)とし、同社ブースでは、完全電動化した多目的車両「New Agri Concept」を発表したほか、食料、水、環境などの社会課題の解決に向けたソリューションを紹介した。

  • 完全電動化した多目的車両「New Agri Concept」をCES 2024で披露

コンセプトカーであるNew Agri Conceptでは、自律型テクノロジーとAIを融合。6つの独立した駆動モーターを搭載するとともに、3種類の標準的なヒッチを搭載。自律運転で、草刈りや耕うんなどの一般的な作業が行えるコンセプトを提案した。

また、New Agri Conceptでは、6分以内に10%から80%までの急速充電を可能としており、車両のダウンタイムを短縮し、充電時間に制限されずに、車両を迅速に作業に戻すことができる。さらに、電気で駆動することから、静かな動作が可能となり、住宅地や夜間での操作が容易になることも示した。

同社によると、New Agri Concept では、AI、コネクティビティ、自動運転など、多くのテクノロジーを集結。自動データ収集、リアルタイム監視、潜在的な問題を特定するAI、労働上の課題に対処する自動化、生産性を向上させるデータプラットフォームも提供するという。

クボタでは、農業機械の完全自動化を目指しており、今回のNew Agri Conceptは、それを具現化するコンセプトのひとつだ。2020年1月には、完全自動運転トラクタのコンセプトモデルも公開している。

  • 2020年1月に発表した完全自動運転トラクタのコンセプトモデル。運転席がない

クボタでは、現在は、自動運転のレベル2までを実現しているが、これをさらに進化させるとともに、いまは人手による作業となっている苗や肥料の補給に関しても完全自動化を目指している。

また、現行のエンジン機と同等の作業を行うためには、多くのバッテリーを搭載する必要があることから、大型トラクタでは燃料電池化をの採用を検討しており、それに向けた開発を進めていることも明らかにした。

企業ビジョンは「命を支えるプラットフォーマー」、100年後を見据える

なお、クボタの北尾裕一社長は、「GROUNDBREAKERS 2024」の挨拶のなかで、「クボタのビジョンは、豊かな社会と自然の循環にコミットする『命を支えるプラットフォーマー』である」とコメント。「創業以来、食料、水、環境という人々の暮らしに欠かせない領域で事業を展開してきた。世界中で安全な水、十分な食料を提供するのはもちろんのこと、常に持続可能性を考慮する必要がある。持続可能な循環型社会への転換は喫緊の課題である。クボタでは、下水処理システムから肥料となるリンを回収する技術を開発し、提供している。これからは、こうした資源を循環する仕組みを作れるかが大きなポイントになる」と述べた。

また、「クボタは、今日の延長として明日を描くだけでなく、10年後、20年後、100年後の未来のビジョンを描き、心豊かな暮らしと持続可能な社会の実現に向けてイノベーションを生み出していく。たとえば、農業機械の姿も大きく変わるだろう。技術者は、『農業は無くならないが、トラクタは無くなるかもしれない』と言っている。大切なのはトラクタそのものではなく、必要な作業が、必要な時に、高精度にできることである。いまの常識に捉われてばかりでは、良いモノづくりはできない。また、ICT技術の進歩によって、食のバリューチェーンに関わる人と、モノがつながり、食べる人と作る人、すなわち食と農の距離がぐっと縮まってくることになる。未来を描き、課題を知り、その解決に向けたイノベーションを生み出していくことになる」と述べた。

  • 新たな技術の開発拠点である大阪府堺市のクボタ グローバル技術研究所

  • 今回のイベントには大阪・関西万博のキャラクターであるミャクミャクも登場

さらに、「クボタが出展する大阪・関西万博での発信を通じて、こうしたテーマに関心を持ち、行動を起こしてくれる人を一人でも増やしたい。変化が激しく、難しい局面にあっても、ビジョンを描き、課題の解決に向けて挑戦を続けている農業経営者に寄り添い、クボタの技術を通じて、解決をしていく。クボタは、技術によって、農業経営者の課題解決に貢献していく」と力強く語った。