パナソニック エレクトリックワークス社は、家庭用燃料電池コジェネレーションシステム「エネファーム」の戸建住宅向け新製品を開発。2023年4月21日から発売する。
従来の給湯、暖房に加えて、浴室乾燥の機能も追加して、エネファームの熱を広く活用できるようにしたのが特徴で、今後2年間で4~5万台の販売を目指す。
政府では、令和4年度補正予算で、住宅省エネ2023キャンペーンにおける給湯省エネ事業として、エネファームに対する補助事業の実施が決定。戸建てへの導入にも弾みがつきそうだ。
燃料電池は、水素と酸素を化学反応させることで電気と水を生み出すことができ、この仕組みを家庭で利用できるようにしたのがエネファームとなる。エネファームに搭載されている燃料処理機では、家庭で広く利用されている都市ガスやLPガスから水素を取り出し、燃料電池の心臓部となるスタックのなかで空気中の酸素と化学反応させて発電。これを住宅に供給する。また、発生した熱でお湯を作り、給湯、床暖房などに利用することが可能だ。
パナソニック エレクトリックワークス社スマートエネルギーシステム事業部燃料電池企画部の扇原弘嗣部長は、「エネファームは、捨てるところがほとんどない、クリーンで、無駄がないコジェネレーションシステムであり、住宅の省エネを推進する機器として評価されている」とする。
大規模な火力発電所では、投入した一次エネルギーに対して、家庭で利用できる電力は41%に留まる。これに対して、エネファームは自宅で発電するため、送配電ロスがなく、熱を捨てずに回収して利用するため、エネルギー利用の総合効率は98%に達する。
「家庭内で消費するエネルギーのうち、冷暖房、給湯、厨房といった熱エネルギーが約3分の2を占めており、熱の有効活用が省エネ実現の鍵になる。政府では、2030年のCO2排出量の削減目標として46%を掲げているが、家庭部門の目標は66%。目標達成には熱需要に対する解決策が不可欠といえる。徹底した省エネを実現するには、投入した一次エネルギーをバランスよく、電気と熱に変換し、有効に使いきることが重要になる。これを実現するのがコジェレーションを実現するエネファームになる」と語った。
パナソニックでは約2年ごとに、エネファームの新製品を投入しているが、今回の新たなエネファームでは、5つの強化ポイントがあるという。
ひとつめは、回収した熱を暖房にも利用できる「プレミアムヒーティング」の機能を強化。新たに、発電で発生する熱を浴室乾燥にも使えるようにした。
エネファームが発電する際に生み出す熱で、浴室乾燥に用いる温水を作り、最大60分間に渡り、エネファームの温水を利用できる。通常の使用時よりもやや低温のエネファームの温水を使って乾燥させ、最後の仕上げにはバックアップ熱源機で作った高温水を使うという仕組みだ。
「新型コロナウイルスの感染拡大により、衛生に対する概念が変化。洗濯回数が増加したり、部屋干しが増えたりしている。洗濯と乾燥を、洗面浴室付近に集約することもでき、家事負担の軽減にもつながる。4kgの洗濯物を乾燥させる場合のコストは約40円。従来型の浴室乾燥に比べて55%のコスト削減が可能になる。年間を通じて、お得で、安心な衛生生活を支援できる。我慢することなく、手軽に実践できる省エネだといえる」とした。
2つめは、貯湯タンクをスリム化し、設置性を改善した点だ。新製品では、奥行を50mm縮めて、350mmとしている。「わずか50mmだが、これには大きな意味がある。民法では、住宅外壁から敷地境界線まで原則として500mmの距離を確保することが定められている。新製品では、500mmのスペースに貯湯タンクを設置することができるようになり、従来モデルでは設置できなかった家庭にも設置できるメリットが生まれる」とする。貯湯タンクの容量は減少するが、システムとして従来モデルと同等の省エネ性を実現しているという。
3つめは、J-クレジットの認証取得に必要なデータを無線通信で収集。自治体や電力会社の証書化を支援する。エネファームは、現行製品から、LPWAを用いて、すべてのエネファームのデータを自動的に収集する機能を追加している。新製品でもこの機能を継承。これを活用することで、CO2排出量の削減量を算出することができ、J-クレジットの認証を取得することが可能になる。
「家庭用燃料電池は、1台あたりのCO2排出量の削減量が少ないため、自治体やガス事業者が証書を有効に活用するには、多くの台数を束ねなくてはならない。新たなエネファームでは、累積発電量を遠隔で取得、提出でき、自治体やガス事業者の活動を支援できる」という。
4つめ目は、自然災害などの影響による断水時においても、これまでよりも手軽に水を取り出せるように作業性を改善。2カ所に水取り出し口を設置した。最大で約96リットルの水を取り出すことができ、トイレならば約24回分、ペットボトルでは約48本分を取り出せる。飲料には利用できない。
「コロナ禍においては、在宅避難を推奨する動きもあり、そこでもエネファームが注目されている。停電発生時の発電機能、ガス供給遮断時の給湯機能に加えて、断水時の水取り出しも容易にした」という。
5つめが性能向上だ。新製品では、発電効率を1%高め、都市ガス機では発電効率は41%、総合効率98%。LPガス機では発電効率40%、総合効率101%となっている。「総合効率は、様々なコジェネレーションシステムと比較しても高い水準にある」と自信をみせた。
世界150カ国以上で、将来のカーボンニュートラルが表明されるなど、「環境」や「脱炭素」に向けた動きが世界中で加速している。
そのなかで、水素や燃料電池は重要な技術のひとつに位置づけられ、欧州では「グリーンディール」を推進し、水素拡大に向けた戦略投資を進め、中国では水素エネルギー中期発展計画を策定し、水素をカーボンニュートラルの重要手段に捉えている。日本でも「グリーン成長戦略」を打ち出し、そのなかで水素の利活用を明記している。
パナソニック エレクトリックワークス社スマートエネルギーシステム事業部燃料電池水素事業総括担当の加藤正雄氏は、「カーボンニュートラルを達成するには、非化石エネルギーの導入を拡大する再エネと、消費電力を削減する省エネの両輪による取り組みが必要になる」とし、「パナソニックグループでは、Panasonic GREEN IMPACTを発信し、カーボンニュートラルの取り組みを推進している。2050年に全世界のCO2総排出量の約1%にあたる3億トン以上の削減インパクトを目指しており、その中核事業のひとつが水素・燃料電池事業になる」とする。パナソニックグループでは、水素をよって、2030年に600万トンのCO2削減効果を目指している。
「改良型燃料電池であるエネファームによって、家庭における省エネに貢献し、純水素型燃料電池で産業部門における非化石エネルギーの導入拡大に貢献する」という。
パナソニックは、世界に先駆けて、2009年から家庭用燃料電池コジェネレーションシステムであるエネファームの一般販売を開始。2022年12月までの累計出荷台数は21万6,000台に達している。
日本の省エネおよび再エネの導入に関する制度面での義務化や支援策に対応した製品になっており、「日本では、ZEHの義務化、CO2削減取り組み支援策の充実、エネルギー安定供給のための技術や制度確立が進められており、エネファームはこれらの動きにしっかりと連携しながら導入を促進していくことになる」とする。
2025年には省エネ基準への適合が義務化され、2030年には省エネ基準がさらに強化され、新築住宅ではZEH水準での建築が求められている。そこにエネファームが貢献できるほか、住宅省エネ2023キャンペーンによるエネファーム補助金15万円の活用や証書化への対応、自然災害時のレジリエンスの実現、分散型エネルギー源(DER)や仮想発電所(VPP)への対応などにも貢献できるとする。
「新築では戸建て住宅のZEHに加えて、集合住宅でのZEHへの取り組みが進むことになる。エネファームでは、今後、マンションへの採用拡大を後押しする商品づくりが必要になる。そこでは、機器連携を進めることが必要になる」とし、「中長期的に見ても、エネルギーコストは上昇する傾向にあり、住宅のエネルギーコスト負担の削減が課題になってくる。ここに魅力的な製品を提供したい」と述べた。
また、「エネファームは、カーボンニュートラルを実現するための省エネルギー機器としてだけでなく、くらしのウェルビーイングにも貢献でき、レジリエンス機器としても社会に貢献できる。パナソニックグループは、燃料電池の普及拡大を通じて、水素社会の実現、カーボンニュートラルの達成に貢献したい」と述べた。
環境に対する意識が高まる一方で、ウクライナ情勢をはじめとした地政学的リスクを背景に、世界的なエネルギー価格の高騰につながる動きが見られるなど、エネルギーに対する関心が一気に高まっている。そして、エネルギー問題が避けては通れないテーマであることを多くの人が認識している。住宅におけるエネルギー問題に対応する手段として、エネファームへの注目度が高まりそうだ。