鳥取県安来市とアクアは、2023年2月17日、「高齢者福祉へのセルフランドリー活用に向けた連携に関する協定」を締結した。アクアが、自治体と連携協定を結ぶのは今回が初めてとなる。
高齢者福祉の観点から、日常生活における洗濯作業の軽減、清潔衛生向上を図るための公共の生活支援ランドリーサービスの可能性について、実証および構築に取り組むことになる。島根県の推進事業である「小さな拠点づくり」のモデル地区に選定されている安来市比田地区において、事業のひとつとして、公共ランドリーの導入を決定。2023年秋に公共ランドリーを設置し、2024年から運用を開始することになる。
また、アクアは、安来市に対して、企業版ふるさと納税として630万円を寄付した。アクアは、2022年に創立10周年を迎えており、記念事業案のひとつに企業版ふるさと納税の活用を検討しており、今回の納税に至ったという。
安来市は、島根県と鳥取県の県境にあり、山陰の中央に位置する、人口約3万6,700人の自治体だ。どじょうすくい踊りで知られる「安来節」が有名であるほか、高級特殊鋼である「ヤスキハガネ」は安来市の主要産業のひとつとなっている。出雲国風土記では、神代の昔、スサノオノミコトがこの地を訪れ、「吾が御心は安平(やす)けくなりぬ」と語ったことから「安来(やすぎ)」と呼ぶようになった伝えられている。また、世界中から多くの観光客が訪れる「足立美術館」も安来市にある。
一方、アクアは、旧三洋電機の白物家電事業を継承した会社であり、現在、中国ハイアールの傘下にある。1965年から業務用ランドリー事業を開始。この分野では、国内トップシェアを持っている。こうした経験と企画力をベースに、地域コミュニティ型コインランドリーによる地域貢献の可能性を検討してきた経緯があり、公共施設にコインランドリーを設置することで、高齢者などの生活の質の向上や、地域コミュニティの活性化、公共施設の利活用促進などの実現に向けて、行政との連携を模索してきたという。
今回の連携協定では、両者の目的が一致したことから締結に至ったもので、「公共施設におけるセルフ式洗濯手段の設置実証(モデルケース化)と効果確認」、「実証に向けての各種準備段階における協議などの相互連携」、「洗濯手段の設置と運営方法に関する協議などの相互連携」、「モデル化後の運営状況の共有」、「メディア発信や見学者への受け入れなどの実施」が行われる。
2月17日午前11時から、安来市役所で行われた協定書締結式で挨拶した安来市の田中市長は、「安来市は、65歳以上の人口が約37%を占めており、高齢者福祉向上への取り組みが急がれている。そうしたなか、65歳人口が50%を超える比田および東比田地区においては、島根県の『小さな拠点づくり』のモデル地区として、生活の質の確保に向けた活動を推進しているところである。地域交通支援や高齢者生活支援などを行う組織を、地域住民自らが運営し、持続可能な地域づくりに取り組んでいる」とし、「比田地区は、南部の山間部に位置し、積雪量が多く、冬期には高齢者が外出しにくく、日常生活に支障をきたすといった問題が生じている。高齢者同士でも安心安全に生活ができるように、同地区内にある宿泊温泉施設の湯田山荘を、高齢者の冬期一時居住施設として活用することにした。この事業をより有効なものにするための検討を行っている際に、地域コミュニティランドリーの可能性を模索するアクアの提案を受け、湯田山荘内にコインランドリーを設置し、公共ランドリー支援サービスを共同で運用することになった。一時居住時の洗濯スペースとして活用するだけでなく、地域の人たちや湯田山荘の利用者、観光客にも幅広く活用してもらいたい。地域活性化や、高齢者が住み慣れた場所で、安心して、楽しく住み続けられるように共同で取り組みたい」と述べた。
一方、アクア 執行役員副社長 業務用洗濯機事業本部長の麻野信弘氏は、「アクアは、1965年からコインランドリーの事業を開始している。それ以来、国内ナンバーワンのシェアを維持し、約70%という圧倒的なシェアがある。洗濯は日常生活にとって欠かせない。それを新たな地域創生に組み込み、清潔、衛生でゆとりのある暮らしに貢献したいと考えた。コインランドリー事業では、これまでにも様々な企業と協業をしてきたが、自治体との協業は今回が初めてである。企業版ふるさと納税という方法を用いて、安来市とともに、実現に向けた取り組みが行えることをうれしく思っている。公共性が高い高齢者生活支援型のランドリーサービスにより社会に貢献したい」としたほか、「コインランドリーは、日本全国に2万4,500店舗あり、ここ10年で店舗が大型化している。学生や独身者の利用だけでなく、共働き世帯では、週末にたくさんの量の洗濯物を、買い物をしている時間を使って、短時間で洗濯するために、コインランドリーを利用するといったことが増えている。また、近年の清潔意識の高まりにより、家では洗えない大物を洗濯するといった用途や、自宅では乾燥ができないため、乾燥だけを利用するといった用途も増加しており、用途が多種多様になっている。さらに、高齢者からは、洗濯はできても、干す作業が体力的に難しいという声もあり、高齢者の利用も増加している。こうした生活課題の解決において、コインランドリーが貢献でき、ライフラインコミュニティとしての役割も果たせないかと考えた。湯田山荘は、長期滞在型施設という点で、コインランドリー事業にとってはユニークな取り組みになる。公共ランドリーをより多くの人に利用してもらい、コインランドリーの新たな形としてお役に立ちたい」と語った。
都市部では、コインランドリーでの洗濯時間を利用して、インターネットに接続して仕事をしたり、地域コミュニケーションの場として利用するケースも広がっているという。「コインランドリーに行ってみたいと思うような場づくりにもつなげたい」としている。
自治体との連携による公共ランドリーの取り組みは、アクアにとっても新たな挑戦となる。コインランドリーが地域活性化や高齢者の生活支援、地域コミュニティづくりにも貢献するという新たな役割を果たすことになりそうだ。