国内のパソコン市場にブレーキがかかっている。
業界団体である一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した2021年度第1四半期(2021年4~6月)の国内パソコン出荷台数は前年同期比9.3%減の182万台、出荷金額は15.7%減の1,696億円となった。出荷台数では2桁近いマイナスとなり、出荷金額では2桁台の落ち込みになった。
台数、金額ともに前年実績を下回ったのは、4四半期ぶりのことだ。直前の2020年度第4四半期(2021年1~3月)は、出荷台数で前年同期比83.3%増の358万台、出荷金額で21.8%増の2,475億円と、大幅な伸びをみせていたのとは対照的な結果となっている。
記録的な伸びをみせた2020年度第4四半期は、年度末需要という要因があり、出荷台数が増加する傾向にあるが、それに続く第1四半期の出荷台数が、比較して半分程度にまで落ち込むというのは異例だ。2020年度第4四半期と比較すると、第1四半期は出荷台数で49.2%減と半減。出荷金額は31.5%減と、約3分の2の水準にまで縮小している。
あまりも大きい「GIGAスクール」の影響
2021年度第1四半期の大幅な減少の要因は、2020年度に教育分野へのパソコン導入を促進した政府主導のGIGAスクール構想の反動だ。
政府は、小中学校への1人1台環境の整備を目指して、GIGAスクール構想を策定。当初は、2023年度までの整備を予定していたが、コロナ禍での在宅教育環境の実現を視野に入れたことで、2021年度中に前倒しで整備する方針へと転換。業界の試算では、年間約800万台の需要があったとされる。
これが2020年度第4四半期に集中して導入された結果、異例の伸びを示したことが見逃せない。
実際、文部科学省の発表によると、端末の調達に関しては、2020年度第4四半期に納品が完了すると回答したのは、全国1,812自治体のうち1,337自治体となり、全体の73.8%がここに集中している。
前年同期には、Windows 7のサポート終了を迎えており(2020年1月14日)、買い替え特需が発生していたが、GIGAスクール構想の最後の駆け込みによって、それを大幅に上回る空前ともいえる出荷台数が記録されたわけだ。
そして、2021年度第1四半期の減少は、こうした特需が終わった反動のなかにあるのだ。
ちなみに、JEITAの調査では、月別の出荷台数でも、2021年4月以降、3カ月連続のマイナス成長となっている。2021年4月は前年同月比9.6%減の63万1,000台、5月は13.4%減の46万7,000台、6月は6.1%減の72万2,000台と、低迷が続いている。
JEITAのパソコン出荷統計を、カテゴリー別に見てみよう。
2021年第1四半期のノートパソコンの出荷台数は、前年同期比6.8%減の154万9,000台。出荷金額は14.8%減の1,412億円となっている。だが、モバイルノートを見てみると、出荷台数は29.2%増の619万台、出荷金額は7.2%増の504億円と、前年実績を大きく上回っている。
モバイルノートは、ノートパソコンの内数として集計され、液晶ディスプレイのサイズが14インチ以下のノートパソコンを指す。これ以外のノートパソコンは、ノート型その他として集計され、2021年度第1四半期の実績は、出荷台数が21.4%減の930万台、出荷金額が23.5%減の908億円と大幅な減少となっている。
関係者に取材してみると、モバイルノートとノートその他の対照的な結果は、やはりGIGAスクールの影響が残っているのが要因といえそうだ。
モバイルノートのカテゴリーには、GIGAスクール構想で定められた9~14インチまで(とくに11~13インチが最適)とされた仕様に合致しており、GIGAスクール構想によって整備されたパソコンは、すべてこのカテゴリーに含まれる。
文部科学省のデータでは、2021年4月以降に端末が納品されるとした自治体は、全体の3.5%とあたる64自治体となっているが、そのなかには、東京都江戸川区、足立区、千葉県市川市、愛知県名古屋市などの大規模な自治体も含まれる。これらの自治体が導入した教育分野向けパソコンが、この集計のなかに入っているという見方ができるのだ。
一方、デスクトップパソコンは、出荷台数が前年同期比21.4%減の27万1,000台、出荷金額は19.9%減の284億円。そのうち、オールインワンの出荷台数が28.2%減の7万4,000台、出荷金額が26.0%減の116億円。単体の出荷台数が18.5%減の19万7,000台、出荷金額は15.1%減の168億円となっており、デスクトップ全体で、前年同期の実績を大幅に下回っている。
個人向け市場の低迷、テレワーク需要に陰り
これまで触れたように、JEITAの調査では、GIGAスクール構想の一部整備の遅れの影響によって、モバイルノートが前年実績を上回っている。JEITAは「法人向けは好調に推移したものの、個人向けが低調になった」とコメント。法人向けのなかには、GIGAスクール構想によるパソコンが含まれている。また、個人向けが低調であったことを理由に、「台数、金額ともに3カ月連続で前年を下回った」とする。つまり、個人向け市場の低迷ぶりが、この3カ月間の需要低迷につながっているというわけだ。
では、個人向けパソコン市場はどの程度、落ち込んでいるのだろうか。
全国の量販店などのPOSデータを集計しているBCNによると、2021年度第1四半期のパソコンの販売台数は20.2%減と、前年実績を大幅に下回っている。
しかも、ノートパソコンは、前年同期比21.5%減と落ち込みが大きい。ちなみに、デスクトップパソコンは同6.1%減と1桁台の落ち込みに留まっている。
この3カ月間の月別の推移を見ても結果は同様だ。
2021年4月は、全体で21.1%減。そのうち、ノートバソコンは22.2%減、デスクトップパソコンは5.6%減。2021年5月は、全体で21.3%減。そのうち、ノートバソコンは23.0%減、デスクトップパソコンは3.1%減。2021年6月は、全体で17.9%減。そのうち、ノートバソコンは17.9%減、デスクトップパソコンは9.2%減。6月はやや盛り返したものの、2桁減の状況が続いている。
前年同期には、テレワーク需要もあり、ノートパソコンの品薄が発生するほどの状況だったが、今年の第1四半期が大幅なマイナス成長になっている状況をみると、テレワーク需要が一巡したといっていいだろう。
Photosynth(フォトシンス)が、全国の累計5,000社以上に導入している「Akerun入退室管理システム」のIoTデータを集計したオフィス出勤状況によると、東京都の出勤率は、昨年の1回目の緊急事態宣言時には30.4%だったものが、2回目には48.5%、3回目には54.4%と増加。大阪府ではそれぞれ34.9%、57.2%、50.9となったほか、東京都と大阪府を除く45道府県でも、それぞれ49.1%、62.3%、67.8%と、1回目の緊急事態宣言の発出時と比べて、いずれも出社率が大幅に増加している。
現在、東京都には4回目の緊急事態宣言が発令されているほか、沖縄県にも緊急事態宣言が発令。大阪府、埼玉県、千葉県、神奈川県には、まん延防止等重点措置が発出されている。同社によると、最新データとなる7月18日の週においても、東京の出社率は58.5%と高い水準に留まっていることを示す。言い換えれば、今回の緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置が発出されているなかでも、テレワークの利用率は伸びていないということになる。
今後の国内パソコン市場の状況をみると、2021年7月以降は、GIGAスクール需要については、一部自治体で、2学期以降に導入がずれ込むケースがあるものの、需要として上乗せされる数字はより縮小する。そして、テレワーク利用が伸びないことを考えると、テレワーク需要は、すでに一巡したといったいいだろう。
BCNによると、7月1日~20日までの集計値では、前年同期比22.9%減となり、ノートパソコンは23.0%減、デスクトップパソコンは22.1%減と、これまで以上に落ち込みが激しい。
2021年秋以降には、Windows 11の正式リリースが予定され、買い替え対象になるパソコンは、国内稼働数全体の半数に達するという試算があるなど、パソコン業界内では、これによる需要喚起を期待する声もあるが、買い替え需要が喚起されるのは、2025年10月のWindows 10のサポート終了時まで待たなくてはならないという見方が支配的だ。
GIGAスクール構想で導入されパソコンの買い替えや、Windows 10のサポート終了に伴う買い替え需要が想定されるのが2025年度以降ということを考えると、国内パソコン市場は、しばらくの間、冬の時代を迎えることになりそうだ。