「データ通信使い放題」をうたい、芸能人を起用した大規模プロモーションを実施するなどして注目されたモバイルWi-Fiのサービスですが、ここ最近相次いでサービス内容の変更を打ち出し、使い放題ではなくなっています。一体何が原因なのでしょうか。
派手なテレビCMで注目を集めるも、サービス内容変更が相次ぐ
月額料金が4,000円前後にもかかわらず、データ通信が無制限で利用できるというモバイルWi-Fiルーターを活用したサービスが、2019年より急増していました。しかも、こうしたサービスの多くは国内大手3キャリアの通信回線が利用できることを売りにしており、有名タレントを起用したテレビCMを積極展開する企業も少なくないなど、かなり大規模なプロモーションで短期間のうちに知名度を高めていたようです。
そうしたことから、これらの「使い放題Wi-Fi」というべきサービスは、低価格でデータ通信し放題という非常にお得なサービスとして注目されてきました。ですが一方で、運営しているのは携帯電話会社ではなく、どうやってデータ通信使い放題を実現しているのか?という疑問を抱いた人も少なからずいたと思います。
実は、その使い放題Wi-Fiに異変が起きており、相次いでサービス変更を打ち出して使い放題ではなくなっているのです。例えば、俳優の佐藤二朗さんと今田美桜さんをCMキャラクターに起用していたグッド・ラックの「どんなときもWiFi」は、2020年10月31日の無制限プランの提供終了を発表しています。
お笑い芸人の加藤浩次さんを起用していたスマートモバイルコミュニケーションズの「THE WiFi」も、2020年8月26日以降に申し込んだ利用者は高速データ通信量が1日4GB、月間最大124GBに制限されるとしています。歌手の氷川きよしさんを起用していたエックスモバイルの「限界突破WiFi」も、2020年4月1日からは1日10GB以上利用すると速度が128kbpsに低下する制約を設けるにいたっています。
なぜ、使い放題を大々的にうたっていたサービスが、短期間のうちにサービス内容変更を余儀なくされたのでしょうか。そこには、これらのサービスが採用していた仕組みが大きく影響しているようです。
需要と供給の読み違えで十分なサービスを提供できず
これらの使い放題Wi-Fiサービスは、実はいずれも「クラウドSIM」という技術を活用しているのが特徴です。クラウドSIMは、中国のuCloudlink社が持つ技術であり、サーバー上にあるさまざまなSIMカードの情報を端末に書き込むことで、自分がいる国や地域に応じた通信サービスを利用できるようにするものです。
そうした仕組みから、従来クラウドSIMを活用していたのは、おもに海外渡航者向けのサービスでした。「FREETEL」ブランドなどを持つMAYA SYSTEMの「jetfi」「jetfon」シリーズなどがその代表例といえ、端末内のSIM情報をサーバー内にある訪れた国のSIMのものに書き換えることで、海外でも現地の通信会社に近い低価格で通話や通信が利用できるのが特徴となっています。
ですが、使い放題Wi-Fiはサーバー上に国内大手3社のSIMを多数用意し、それらを切り替えながら使うことで疑似的な容量無制限のサービスを実現していたようです。当然、これらのSIMを調達するのはuCloudlinkではなく使い放題Wi-Fiを提供する事業者なのですが、ユーザーが増えるにしたがってトラブルが増えていたようです。
どんなときもWiFiを提供しているグッド・ラックの場合、通信量無制限でサービスを提供したことで、テラバイトを超える大容量の通信をする利用者が現れるなど、通信量が同社の想定をはるかに上回る事態に陥ったとのこと。その結果、調達したSIMが通信容量を使い果たして通信速度制限がかかってしまい、そのSIMが別の利用者に割り当てられたことで通信速度が著しく低下する、という事象が多く発生したようです。
またその結果、サーバー上でのSIMの切り替えが大量に発生したことでサーバーが混雑し、SIMの割り当てができなくなる事態も引き起こしたことで、2020年2月は複数の日にわたって障害が発生していたようです。その結果、グッド・ラックは総務省から行政指導を受けるにいたり、それが使い放題サービスの終了につながる要因となったようです。
グッド・ラックほど大規模ではないにせよ、同様の事象は他の使い放題Wi-Fiサービスでも少なからず起きていたとみられ、それが無制限サービスを止めざるを得ない要因となったのではないかと考えられます。携帯電話会社から大容量通信ができるSIMを調達し続けなければ使い放題を維持できない、というリスクの大きい構造であるにもかかわらず、積極的なプロモーションで短期間のうちに多くの利用者を獲得する手段に打って出たことが、かえって裏目に出たといえそうです。
そもそも、多くの人と電波を共有して通信するモバイル通信で使い放題のサービスを提供するのは、非常に難しいこと。みずからインフラを持つ携帯電話会社でさえ、使い放題サービスを提供するにあたっては通信量に一定の制限を設けたり、期間限定のキャンペーンとして展開したりするなど、通信障害に至らないよう何らかの回避策を設けて展開するのが一般的なのです。
それだけに、携帯電話会社から回線を借りてサービスを提供する事業者が、携帯電話会社でさえ難しい使い放題を実現する場合、著しい速度低下を覚悟する必要があるなど、何らかのリスクがあると見るべきでしょう。トラブルに巻き込まれないためには、サービスを利用する側の見極めも必要なことを覚えておくべきです。