2025年11月、通信大手3社の決算が相次いで発表されましたが、各社の説明内容からは、契約数を増やすことを重視してきたこれまでの携帯電話サービスの競争を変え、契約数はあまり追わず、長期利用者を重視するよう戦略を明確に転換する方針を示しています。一体なぜでしょうか?
競争激化に苦しんだNTTドコモ、10月には改善傾向
2025年11月初頭、NTT、KDDI、ソフトバンクの通信大手3社の7~9月期決算が相次いで発表されました。その内容を見るに、3社ともに増収増益となっているものの、NTTグループで携帯電話事業を担うNTTドコモは増収減益となっており、モバイル通信が増収増益となっている他の2社と比べると差が出ている印象です。
NTTドコモの減益の理由は、やはり携帯電話事業にあるようで、同社のコンシューマ通信事業だけを見ると減収減益。それを金融やコンテンツなどのスマートライフ事業、そしてNTTドコモビジネスが主体となる法人事業の好調でカバーしている様子がうかがえます。
なぜNTTドコモがそれだけ不調なのかといいますと、ユーザーからの不満が多いネットワークの通信品質改善に向けた取り組みを強化しており、そのための設備投資がかかっていることが1つ。そしてもう1つの大きな要因となっているのが、競争環境が激化した影響です。
実際、2025年11月4日のNTT決算会見に登壇した、NTTドコモの代表取締役社長である前田義晃氏は「これまでになく競争が激化した」と話していました。この時期に競合他社が契約獲得で攻勢を強めたようで、「昨年のトレンドから言っても120%ポートアウト(転出)で取られている。(競合が販促で)突っ込んだ取り組みをしていると理解している」と前田氏は説明します。
その結果、NTTドコモの個人ハンドセット純増数が対前年比で悪化。番号ポータビリティ(MNP)でも転出増となったことが、業績悪化要因の1つとなったようです。
ただ一方で、前田氏は10月に入るとMNPで転入超過となり、解約率も低水準で落ち着いているとも説明。高価格帯の「ドコモMAX」が10月には150万超に達するなど好調で、競争環境は改善傾向にある様子も示していました。
しかしなぜ、9月まで苦戦していたNTTドコモが、10月になって改善傾向にあるのでしょうか。それを示しているのが競合他社の動きです。
市場飽和で顧客獲得にコストをかけるメリットが小さい
2025年11月5日に実施したソフトバンク決算説明会では、代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏が、短期契約者を獲得する従来の施策は効率が悪いと説明。今後は、ブロードバンドサービスや電力サービス等とセットで契約し、長期で利用する顧客に注力する意向を示しました。
2025年11月6日に実施したKDDIの決算会見では、代表取締役社長の松田浩路氏が「一部特定の目的で短期解約を誘発する売り方を見直してきている」と説明。やはり長期利用者を重視し、解約率を引き下げることに重きを置く姿勢を示しています。
そうしたことから、急速に激化していた短期解約目的のユーザーも取り込んで契約数を増やす競争が、各社の方針転換によって急速に落ち着きを見せ、流動性が低下したことで10月に入りNTTドコモの流出も落ち着いたのではないかと考えられます。
確かに、スマートフォンの割引や高額のポイント還元などを目的として、短期間での契約・解約を繰り返す「ホッピング」行為は以前から問題視されており、一連の方針転換はそのホッピングを防ぐ狙いもあると考えられます。ですが、各社が方針転換に至ったより大きな要因は別にあります。
それは、少子高齢化による市場飽和で、国内の携帯電話契約者数が今後大きく伸びる見込みがないこと。従来のようにコストをかけて他社から顧客を奪っても、獲得できるのはホッピング目的のユーザーばかりで、継続利用につながる顧客の獲得にあまりつながらなくなってきていることから、獲得にコストをかける必然性が薄くなっていることは確かでしょう。
一方で、各社が今後の注力を打ち出しているのが、既存契約者に対していかに上位のプランを契約してもらい、その上でさらに多くのサービスを利用してもらうかということです。上位プランの契約が売り上げ増加につながるのはもちろんですが、複数のサービスを契約してもらえれば、売り上げが増えるだけでなく、解約もしづらくなり長期利用にもつながる、といったメリットも生まれてきます。
すでに多くの顧客を抱えている大手3社にとって、市場が縮小している局面においては、獲得よりも既存顧客向けサービス強化にコストをかけた方がメリットが大きいわけです。
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KDDIはID、つまり契約数はこれまで通り重視するとしているが、一方で「au」の価値を高めて「UQ mobile」からの移行を促進し、サービスの価値を高めて長期利用してもらうことに重きを置くとしている(出所:KDDI)
ただ、大手3社が既存顧客重視の戦略を取れば顧客の流動性が落ちるのもまた確かで、とりわけ顧客を増やしたい新興の楽天モバイルなどには不利に働くことになるでしょう。そして、競争の停滞で大手3社から顧客が動かなくなることは、競争促進に重きを置く総務省が最も懸念するところでもあるだけに、一連の戦略転換によって3社の競合、そして行政がどのような動きを見せるのか関心を呼ぶことになりそうです。



