グーグルは2024年8月14日、新しいスマートフォン「Pixel 9」シリーズ4機種などを発表しました。標準サイズの「Pixel 9」に加え、同じサイズの上位モデル「Pixel 9 Pro」とその大画面モデル「Pixel 9 Pro XL」、そして折りたたみタイプの「Pixel 9 Pro Fold」の4機種が投入されますが、なぜグーグルはPixel 9シリーズでラインナップを増やしたのでしょうか?
「Pro」がスタンダードと大画面の2機種に
日本時間の2024年8月14日早朝、グーグルは米国で新製品発表イベントを実施。新たに「Pixel 9」シリーズ4機種などを発表しました。
前年のスマートフォン新機種「Pixel 8」シリーズは2023年10月に発表されたことを考えると、Pixel 9シリーズは2カ月近くも前倒しして発表されたわけで、かなり早期の新機種発表となったことには驚きがあります。ですが、実はグーグルは2024年7月、「Pixel 9 Pro」「Pixel 9 Pro Fold」が日本時間の8月14日に登場することを明らかにしていたことから、ある意味でサプライズは少なかったといえるかもしれません。
ですが、今回のイベントでは、それら2機種に加えて「Pixel 9」と「Pixel 9 Pro XL」の2機種も追加で発表がなされており、合計で4機種が市場に投入されることが明らかにされています。ほかにも、スマートウォッチ「Pixel Watch 3」やワイヤレスイヤホン「Pixel Buds Pro 2」も発表されていますが、やはりグーグルがスマートフォンのラインナップを4つに増やしたことには意外性がありました。
そのラインナップの内容を見ると、その意外性が一層強く感じられます。従来のPixelシリーズと同様、4機種はともにグーグルが開発した新しいチップセット「Tensor G4」を搭載。同じシーンで2度撮影することで、撮影者も一緒に写った集合写真を撮影できる「一緒に写る」や、AI技術で最適なフレームを実現する編集機能「オートフレーム」、そして「Gemini」による音声アシスタントなど、AI技術を活用した多彩な機能が特徴となっています。
4機種のうち、最も低価格のスタンダードモデルに位置付けられるのがPixel 9です。Pixel 9は他の3機種と違って、背面が光沢のある加工となっているほか、カラーもウィンターグリーンやピオニーなど、明るい色を用意しカジュアルな印象を与えるものとなっています。一方で、カメラは広角・超広角の2眼構成で「動画ブースト」「ビデオ夜景モード」などは利用できず、RAMも12GBと、4機種の中では最小となっています。
上位モデルに位置付けられるPixel 9 ProとPixel 9 Pro XLは、背面がマットな加工でカラーも比較的落ち着いたものとなっていますが、RAMは16GBでカメラは広角・超広角・望遠の3眼構成。動画ブーストやビデオ夜景モードにも対応するほか、フロントカメラの画素数も4200万画素と、Pixel 9が1050万画素であるのと比べると強化がなされていることが分かります。Pixel 9 ProとPixel 9 Pro XLの違いは画面サイズで、Pixel 9 ProはPixel 9と同じ6.3インチ、Pixel 9 Pro XLは6.8インチとなります。
もう1つのPixel 9 Pro Foldは、名前の通り「Pixel Fold」の後継というべき横折りタイプの折りたたみスマートフォン。Pixel 9 Proシリーズの機能・性能をベースにしながらも、閉じた状態で6.3インチ、開いた状態で8インチの大画面で利用することが可能です。
RAMが必要な生成AIの利用を広げたいグーグル
これら4機種を以前の機種に当てはめると、先にも触れた通りPixel 9 Pro FoldはPixel Foldの後継となりますが、Pixel 9はスタンダードモデルという位置付けの「Pixel 8」の後継、そしてPixel 9 Pro XLは大画面かつ高い性能を誇る「Pixel 8 Pro」の後継ということになるでしょう。
一方で従来のラインナップになかったのが、「Pro」の性能を持ちながらスタンダードモデルと同じサイズのPixel 9 Proとなります。それゆえPixel 9シリーズは、Pixel 9 Proの存在がグーグルの戦略上非常に大きな鍵を握るといえそうです。
筆者が考えるに、その狙いは「生成AI」と「日本市場」にあると考えられます。グーグルは、生成AI技術の開発とその活用に力を入れており、Pixelシリーズに関していえば生成AIの技術を、クラウドを使わずデバイスで動作させられるグーグルの大規模言語モデル(LLM)「Gemini Nano」を動作させることで、機能の強化を図ろうとしています。
ですが、高いコンピューティングパワーが求められる生成AIを高速に動作させるには、チップセットに加えRAMの容量も必要とされています。実際、グーグルはPixel 8シリーズに関して、当初Gemini NanoをRAMが16GBのPixel 8 Proにのみ提供し、RAMが8GBのPixel 8には提供しない予定でした(のちに撤回して両機種に提供)。
ただ、Pixel 8シリーズのようなラインナップを継続した場合、今後RAMを重視してLLMの強化を図るとなると、性能の高い大画面モデルだけアップデートを優先せざるを得なくなってしまいます。一方で、必ずしも多くの人が大画面モデルを欲しているわけではなく、スタンダードなサイズ感のモデルで最新のAI技術を活用したいと思っている人も少なくないでしょう。
とりわけ日本では、徐々に大画面のニーズが高まりつつあるとはいえ、現在も画面サイズはあまり大きくないが片手で持ちやすい、比較的コンパクトなモデルが好まれる傾向にあります。そして、Pixelシリーズは日本市場で急速にシェアを高めていることから、グーグルにとってその重要性が高まっていることは間違いありません。
それだけに、高度な生成AIを活用したサービスの利用を、日本をはじめ多くの国で広げるには、Proシリーズのラインナップを広げる必要があると判断。その結果として、Pixel 9 Proが開発されるに至ったのではないか、と考えられるわけです。
そうした戦略自体は、とりわけ日本市場では歓迎されるものではありますが、消費者がそれを理解して具体的な購入につながるかは未知数な部分もあります。それは価格です。Pixel 9シリーズも、昨今の円安の影響などから値上がり傾向にあり、Googleストアでの販売価格は最も安いPixel 9で128,900円と、Pixel 8の発売当初の価格である112,900円と比べると16,000円も値上がりしてしまっています。
Pixel 9 Proの価格は159,900円と、Pixel 9よりおよそ3万円高く設定されているうえ、Pixel 9やPixel 9 Pro XLより発売が遅れるとされています。日本では円安による値上げラッシュが家計を苦しめているだけに、生成AIの進化のためとはいえ発売が遅れるモデルに3万円をプラスしてPixel 9 Proを購入する人がどれだけいるのか?という点が非常に気になるところ。そのためにも、グーグルには今後、生成AIを活用した機能の魅力を高めるサービス開発とそのアピールが求められることになりそうです。