最高性能のフラッグシップスマートフォンが軒並み20万円近い価格になり、あまりにも高すぎて売れなくなってしまったことから、2024年夏商戦の新機種は各社とも5万~10万円の現実的な価格で購入できるミドル~ミドルハイクラスに力を入れる傾向が強まっています。ですがこのゾーンには、ここ最近メーカー各社の脅威となっているグーグルの「Pixel」シリーズが待ち受けており、“茨の道”となっていることもまた確かです。

新生FCNTはレノボの力を生かした新製品で勝負

スマートフォンの発表ラッシュが続いた5月、大きな動きを見せて注目を集めたのがFCNTです。FCNTといえば、円安などの影響によって2023年に経営破綻し、大きな衝撃を与えたことが記憶に新しいところですが、その後中国レノボ・グループが一部を除く事業を承継。米モトローラ・モビリティと同様に、レノボ・グループ傘下のスマートフォン企業として再スタートを切っています。

その新生FCNTが、2024年5月16日に新製品発表会を実施し、スマートフォン新機種「arrows We2」と「arrows We2 Plus」を発表しています。「arrows We」といえば、日本メーカーのFCNTが手掛ける2万円台の低価格ローエンドモデルということもあって非常に高い人気を誇ったモデル。FCNTの説明によると総出荷台数は280万台で、日本のAndroidスマートフォンの中では出荷台数が歴代1位を誇る人気機種として知られていました。

  • レノボ・グループ傘下となったFCNTは、2024年5月16日に新製品発表会を実施。エントリークラスの後継機種「arrows We2」と、ミドルクラスの「arrows We2 Plus」の発売を発表した

ですが、arrows Weはその低価格ゆえ、発売後に円安や半導体不足による部材高騰が直撃して利益が出せなくなり、FCNTが経営破綻へと至った要因の1つになったと見る向きもあります。それだけに、同社が再びarrows Weシリーズの後継機種を出したことには驚きもありますが、非常に大きなスケールメリットを持つレノボ・グループの部材調達力を得たことが、その実現に大きく貢献したといえそうです。

  • arrows We2は利益が出しにくい低価格モデルだけに、その投入にはレノボ・グループの調達力が大きく影響したと考えられる

ただ、今回の新機種発表でFCNTがアピールに力を入れていたのは、arrows We2 Plusの方でした。こちらはarrows We2より性能が高いミドルクラスに位置するスマートフォンで、レノボ・グループの調達力を生かしてチップセットにはクアルコム製のミドルハイクラス向けとなる「Snapdragon 7s Gen2」を搭載するなど、ミドルクラスとしては高い性能を持つことが分かります。

それに加えてarrows We2 Plusには、スマートフォンとして世界初となる自律神経測定機能を搭載。京都大学の名誉教授である森谷敏夫氏の監修のもと、独自のアルゴリズムで自律神経の活性度を測定し、健康管理に役立てる機能が備わっており、こうした点は従来のFCNTらしさを感じさせる部分といえます。

  • ミドルクラスのarrows We2 Plusは、レノボ・グループの調達力を生かした性能の高さに加え、自律神経測定機能を備え健康管理に役立てられるなど、FCNTらしい機能も備わっている

ミドルクラスに集中する新製品を待ち受ける「Pixel 8a」

そして実は、2024年5月以降に発表されたスマートフォン新機種を改めて振り返ると、arrows We2 Plusと同様にミドル~ミドルハイクラスに位置するスマートフォンが非常に多い印象を受けます。実際、同じレノボ・グループ傘下のモトローラ・モビリティも、ミドルクラスに位置する「motorola edge 40 neo」を5月に、「motorola edge 50 pro」「motorola edge 50s pro」を7月に発表しています。

  • FCNTと同じレノボ・グループ傘下のモトローラ・モビリティも、「motorola edge 50 pro」など複数のミドルクラスの新機種を発表している

他のメーカーの新製品を見ても、ソニーの「Xperia 10 VI」やサムスン電子の「Galaxy A55 5G」、そしてシャオミの「Redmi Note 13 Pro 5G」「Redmi Note 13 Pro+ 5G」と、ミドルクラスが多く並んでいることが分かります。また、シャープが発表した上位モデル「AQUOS R9」も、搭載するチップセットがクアルコム製の「Snapdragon 7 Gen 3」で、オープン市場向けモデルの価格も10万円前後が予定されていることを考慮すると、ミドルハイクラスに位置するものと考えてよいでしょう。

その一方で、シャープは2024年は最上位のフラッグシップモデルの投入を見送っていますし、ソニーもフラッグシップモデルの「Xperia 1 VI」でディスプレイの解像度を引き下げるなどして、販売を増やすためユーザーニーズに応えることに重点を置くなど苦慮している様子がうかがえます。

なぜ、各社の新製品がミドル~ミドルハイクラスに集中しているのかといえば、要はハイエンドのスマートフォンが高くなりすぎて売れないためです。円安などによってフラッグシップモデルが軒並み20万円台を記録しているのに加え、政府のスマートフォン値引き規制によって携帯各社による値引きも期待できなくなってしまいました。

そのため、消費者が高額なフラッグシップモデルを敬遠する傾向が強まっているというのは、これまでにも何度か触れている通りなのですが、それだけにメーカー側も、日本市場にフラッグシップモデルを投入してもあまり売れないと判断している様子で、確実に売れるミドル~ミドルハイクラスに重点を置くようになったといえるでしょう。

arrows We2 Plusの価格はまだ明らかにされていませんが、motorola edge 40 neoの価格は54,800円、motorola edge 50 proの価格は79,800円とされていますし、それ以外のミドル~ミドルハイクラス新機種の価格もおおむね5万~10万円台といったところのようです。とても安いわけではありませんが、ハイエンドモデルと比べれば現実的に購入可能な価格であることは確かでしょう。

ただ、これだけ製品が多いと競争が激しくなるのも確かですし、何よりこの価格帯には一層強力なライバルの新製品が控えていることを忘れてはいけません。それは、グーグルが2024年5月8日に発表した「Pixel 8a」です。

Pixel 8aは、同社のスマートフォン「Pixel」シリーズの中では低価格モデルに位置しますが、チップセットは上位モデルの「Pixel 8」などと同じ「Tensor G3」を搭載、グーグルのAI技術を活用した豊富な機能を使うことができます。それでいて価格は72,600円と、ミドル~ミドルハイクラスに相応しいものとなっています。

  • グーグルも2024年5月8日にPixelシリーズの低価格モデル新機種「Pixel 8a」を発表。「Pixel 7a」と比べると値段は1万円近く上がってしまったが、上位モデルと同じチップセットを搭載するなどコストパフォーマンスの高さは健在だ

ただ、Pixel 8aも円安の影響を大きく受けており、2023年発売の前機種「Pixel 7a」と比べるとおよそ1万円価格が上がってしまっています。それゆえ、以前と比べれば価格競争力は落ちているのですが、それでも競合他社の脅威となる理由は、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯大手3社が取り扱いを表明しており、これら3社の販売支援が受けられることにあります。

日本において、携帯3社のスマートフォンの販売数は非常に多く、3社向けの販路開拓がメーカーにとって非常に重要になっているのですが、一方で3社もここ最近はスマートフォンの販売数が減少していることから、調達を減らす傾向にあります。実際、Pixel 8a以外のミドルクラス新製品で3社すべてが取り扱うのは、現在のところXperia 10 VIくらい。それだけに、携帯3社すべてがPixel 8aを扱うことの脅威は、競合にとって決して小さなものではないのです。

そうしたことから、ミドル~ミドルハイクラスに活路を見いだしたメーカー各社の販売も、決して安泰とはいえないのが正直なところ。円安と政府の値引き規制が続く以上、スマートフォンメーカーにとって日本市場が“茨の道”であることは変わらず、生き残りのための更なる戦略が各社には問われます。