「技術が描くモバイルゲームの未来図」と題して、モバイルゲームの歴史や、新たなテクノロジーがモバイルゲームに与える影響などについて考えてきました。今回は最終回。モバイルデベロッパーにとって最も重要といえる収益化モデルについて考察します。

モバイルゲームはいまや、ゲーム業界において最も収益性の高いプラットフォームと言っても過言ではありません。モバイルゲームデベロッパーが収益を得るための選択肢も、以前より増えています。

「買い切り型」とその他の収益化モデル

遡ること約10年。App Storeが登場して以降、モバイルゲームの収益化モデルは劇的に変化しています。当初のモバイルゲームは、コンソールゲームやPCゲームに比べて解像度が低く、ゲームプレイが短いにも関わらず、300円~1,000円程度ダウンロード時に課金する、いわゆる「買い切り型」を採用していました。

この買い切り型のモデルは、現在の主流である広告やサブスクリプションなどの収益化モデルに比べると時代遅れと思われるかもしれません。しかし、短期間に限定的なモバイル体験を重視する一部のニッチなゲーマー向けに、買い切り型を採用しているデベロッパーは少なからず存在しています。

買い切り型のモバイルゲームでは、デベロッパーが初級、中級、上級といったレベルに合わせてゲーム体験を創り出すことが一般的であり、そのような限定的なコンテンツを開発するデベロッパーにとって、買い切り型は最適な収益化モデルといえるでしょう。しかし、プレイヤーへの課金が1回のみであることから、デベロッパーが収益を得る機会が少ないデメリットもあります。

サブスクリプションモデルは定着するのか

一方で、最近主流のアプリ内課金や定額制のサブスクリプションの場合、継続的に収入を確保できる利点が大きいでしょう。ただし、デベロッパーはプレイヤーに長く遊んでもらうために、新たなコンテンツを絶えず提供し続ける必要があります。

特に注目を集めているのは、デベロッパーが安定的かつ継続的な収益を確保でき、ゲームの長期的な成果を予測しやすいサブスクリプションモデル。デロイトの調査によると、1983~1996年生まれの人々の53%はすでにサブスクリプションモデルのゲームサービスに料金を支払っている結果が出ています。今後もモバイルゲームでの成長が見込める収益化モデルではないでしょうか。

実際、テクノロジー業界の2大巨頭であるAppleとGoogleも、サブスクリプションサービスでモバイルゲームの分野に参入しています。Apple Arcadeは、ローンチ時に100タイトル超のゲームをとりそろえ、月額600円でスタートしました。ただし、デベロッパーへの報酬がユーザーのゲームプレイ時間に基づいて算出されることから、メインストリーム層へのアピールが弱いゲームは、収益化に結びつけることが難しいかもしれません。

これに対してGoogleは、ワイドダイナミックレンジ(WDR)を誇る4K / 60fpsのゲームストリーミングサービス「Stadia Pro」を、月額9.99ドルで提供する予定です(2019年11月19日に日本を含まない世界14の国・地域にて提供開始予定)。ローンチ時にプレイできるゲームタイトルは限られていますが、ゲームを購入する場合に割引が適用される仕組みを採用しています。

このように、さらなる盛り上がりをみせるゲームサービスのサブスクリプションモデルですが、この収益化モデルが機能するためには、「遊べるゲームのラインアップまたは特定の人気ゲーム」をそろえ、プレイヤーに価値があると判断してもらう必要があるでしょう。

そのため、一部のモバイルデベロッパーは、週間または月間での定額ゲームサービスを提供し、特典としてゲーム内通貨やボーナスコンテンツなどをプレイヤーに実験的に配布する取り組みを行っています。それぞれのモバイルゲームが単独で定額制の課金を行うことは難しいですが、Apple ArcadeやGoogle Stadia Proのゲームライブラリであれば、熱狂的なゲーマーにとっても十分な価値があるかもしれません。

  • サブスクリプション型の収益モデルが台頭してきています

無料プレイと広告の収益化モデルにおける可能性

このように収益化モデルの選択肢は増えておりますが、現在大半のモバイルゲームデベロッパーが採用しているのは、いわゆる「基本プレイ無料」の収益化モデル。この場合、プレイヤーが初期の段階でお金を払う必要がないため、ゲームをダウンロードするハードルが下がります。つまり、プレイヤーはまずゲームを一度試してから、そのゲームにもっと時間やお金をかけるかどうかを判断できるわけです。

無料プレイにおける収益化モデルでは、デベロッパーは、広告やアプリ内課金のそれぞれ、または両方を組み合わせます。モバイル広告の形式は動画やプレイアブルなど多数あり、ユーザー属性やゲーム内容にあった形を選ぶことができるでしょう。「アプリ内広告入札システム」など新しい技術も生まれています。

近い将来、AR(拡張現実)や5Gなどの新しいテクノロジーによって、無料プレイのゲームで収益を得る方法はさらに多様化していくでしょう。5Gが普及すれば、ゲーム体験そのものはもちろん、広告の品質も向上し、プレイヤーの広告に対するエンゲージメントの向上が期待できます。ARの技術を活用した広告も多く登場するかもしれません。

ですが、適切な収益化モデルは、ゲームの種類によって異なります。エンディングのある限定的なゲームをプレイヤーに提供するのであれば、買い切り型のモデルが適しています。一方、新たなコンテンツを出し続けてプレイヤーのエンゲージメントを維持するのであれば、アプリ内課金や広告、サブスクリプション、あるいはこれらを組み合わせた収益化モデルが適しているといえます。これからは、そのあたりの見極めも重要になってくるでしょう。

最後に

さて、ここまで5回にわたって、モバイルゲームの歴史、ITインフラの最新技術、収益化モデルなど、さまざまな側面について考察してきました。5Gの登場、AIやVRなどの新しいテクノロジーにより、ゲーム業界を取り巻く環境は大きく変わろうとしています。そのなかでモバイルゲームの市場は、コンソールやPCゲームを越えて、近い将来に新しいゲームプラットフォームとして、ゲーム業界全体をけん引する存在となるでしょう。本連載がモバイルゲームに関わる皆さまにとって、少しでもお役に立てたら幸いです。

著者プロフィール
林宣多

林宣多

アプリデベロッパーのサポートを行うAppLovin代表取締役。GREE、Yahoo! Japanを経てAppLovinに参画。カリフォルニアにある本社の営業責任者を務めたのち、2016年4月にAppLovin日本法人の代表取締役に就任する。