連載の第1回では、モバイルゲーム業界が巨大市場になるまでの20年について紹介しました。今回は、第5世代移動通信システム「5G」の登場やITインフラの変化がモバイルゲームにもたらすインパクトについて考察します。
5Gでモバイルゲームのマルチプレイが加速する
今、私たちの目の前にある最大のインフラの変化といえば、次世代モバイル通信規格の5Gではないでしょうか。5Gは、現行の「4G」の10~100倍の通信スピードかつ圧倒的な低遅延性を誇っており、これまでなかったモバイルゲーム体験ができるようになると、ゲームデベロッパーから大きな期待が持たれています。
まず、5G時代に突入すれば、ダウンロードやアップロードをより高速で行えるようになるため、100メガバイト以上の大容量ゲームを外出先ですぐにダウンロードできるようになります。プレイ中にたびたび新しいデータをダウンロードする必要のあるタイトルでも、ストレスなく楽しめるようになるでしょう。
もちろん、5Gがもたらすインパクトは、通信スピードだけではありません。通信リクエストがサーバに届くまでに発生するタイムラグ、つまり遅延時間が短くなります。現行の4Gでは、モバイルネットワークでのリアルタイム・マルチプレイは難しいといわれていますが、遅延時間の短い5Gの世界では、モバイルゲームでのマルチプレイ体験がより加速するでしょう。バトルロイヤルゲーム『Fortnite』では、1つのセッションに参加できる人数が最大100人ですが、5Gになればさらに大規模な人数でプレイ可能になります。これに、eスポーツなどの要素が組み合わされば、モバイルゲーム市場は爆発的に拡大するかもしれません。
また5Gの登場で、動画広告やプレイアブル広告(実際にアプリを疑似体験できる広告)も、消費者の期待に合わせて進化する必要があります。より高度な技術を活用した没入型のユーザー体験を提供する広告が、業界のスタンダートになっていくでしょう。例えばプレイアブル広告は、現状、低解像度かつ組み込みでは2Dでしか表現できませんが、5G時代には、フル3Dで表現できるようになるはずです。
ゲーミングスマートフォンとゲームストリーミングの登場
5Gの普及に合わせて、モバイルゲームのハードウェアも変化しています。その一例として挙げられるのが、ゲーミングスマートフォンの登場。Razerが発売した「Razer Phone2」は、4,000mAhの大容量バッテリーに、リフレッシュレート最大120Hzのディスプレイ、CPU「Qualcomm Snapdragon 845」を搭載した、ゲームをプレイするために生まれたスマートフォンといえます。
ほかにも、ゲーム機のボタンのような操作性を実現する「AirTrigger」機能を搭載したASUSの「ROG Phone」や、ゲームプレイに専念できる「Sharkキー」、圧力感知の「マスタータッチ」を備えた「Black Shark 2」など、ゲーミングスマートフォンが続々と登場しています。
このように、ゲームに特化するスマートフォンが登場する一方で、Googleが構想を発表したクラウドゲームプラットフォーム「Stadia」のような、ハードウェアに大きく依存しないゲームストリーミングサービスも活性化。定額の利用料金を支払うだけでさまざまなゲームタイトルを楽しめるようになります。
将来的に、こうしたサービスが5Gと組み合わされば、モバイルゲーマーはどんな端末でも、コンソールやPCと同様のクオリティのゲームに、いつでもアクセスできるようになるのです。すでに、『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)』や『Fortnite』など、コンソールで人気のゲームは、モバイル展開でも成功していますが、「ゲームストリーミング」と「5G」が普及すれば、ダウンロード時間やファイル容量を気にする必要もなくなります。
「ゲーミングスマートフォン」と「ゲームストリーミングサービス」。両者は別々の方向を向いているようにも見えますが、決して相反するものではありません。ゲームストリーミングは、その利便性ゆえにライト層を含む圧倒的な数のユーザーに支持されるでしょうし、同時に、ゲーミングスマートフォンを使って、より本格的にプレイしたいと考える熱心なファンも増えていくでしょう。両者は1つのゲーム市場での共存していけるのです。
5Gの登場とITインフラの変化により、モバイルゲーム業界は大きな転換期を迎えるでしょう。今後、デベロッパーはより高品質なモバイルゲームを提供できるようになり、広告主は大胆なクリエイティブを打ち出せるようになります。そして、未来のゲーマーは今までよりも高いクオリティと没入感を享受できるようになるのです。
また、モバイルアプリ市場において、現在は「Google Play」と「App Store」がほぼ市場を独占している状態ですが、中国では「Qihoo 360」「Xiaomi Market」「Baidu」「Huawei app store」など、アプリストアの細分化が進行中。『Fortnite』の開発企業であるEpic Gamesは、Googleに支払う手数料の高さを理由に、Google Play以外でゲームを配信しており、独占市場が少しずつ崩れ始めています。「今後5年でアプリの配信方法がどのように変化するか」についても注目したいところです。
著者プロフィール
林宣多
アプリデベロッパーのサポートを行うAppLovin代表取締役。GREE、Yahoo! Japanを経てAppLovinに参画。カリフォルニアにある本社の営業責任者を務めたのち、2016年4月にAppLovin日本法人の代表取締役に就任する。