スマートフォンカメラの高画素化競争が激しさを増す中、あえて画素数競争には乗らずにカメラの強化を推し進めているのがソニーモバイルコミュニケーションズだ。カメラ用のイメージセンサーに強みを持つソニーグループの同社が画素数競争に乗らない理由はどこにあるのか、発表されたばかりの新機種「Xperia 1 III」から確認してみよう。

「Xperia 1 III」のイメージセンサーは1200万画素

スマートフォンメーカーが力を入れて開発を進めているカメラ機能。現在では共通のチップセットを採用するメーカーが多く基本性能部分での差異化が難しくなっていることから、とりわけカメラで独自性を打ち出すメーカーが増えている印象だ。

そしてここ最近、多くのスマートフォンメーカーが打ち出しているのが、カメラの画素数の高さである。実際サムスン電子やシャオミなどが、ハイエンドモデルを中心に1億800万画素の画素数を誇るカメラを搭載したスマートフォンを相次いで投入しているが、最近では2、3万円台のミドルクラスの端末でも4800万、6400万画素といった高画素のカメラを搭載するスマートフォンが増えている。

センサー自体の進化と低コスト化に加え、画素数が増えればそれだけ高精細な写真を撮影できるだけあって、数字の大きさが消費者にとって分かりやすい指標となっていることが、高画素のイメージセンサーを採用する背景にあるだろう。だが逆に、あえてそうした画素数競争に乗らない選択をしているのがソニーモバイルコミュニケーションズである。

同社が2021年4月14日に発表した最新のフラッグシップモデル「Xperia 1 III」は、焦点距離が16mmと24mm、そして新たに70mmと105mmの2段階に可変するレンズを搭載した3つのカメラを搭載。前機種「Xperia 1 II」と同様、専用のカメラアプリ「Photography Pro」を搭載し、ソニーの一眼レフカメラ「α」の使い勝手を踏襲するなどカメラ機能に力を注いでいるのが特徴となっている。

  • ソニーモバイルが2021年4月14日に発表した「Xperia 1 III」

    ソニーモバイルが2021年4月14日に発表した「Xperia 1 III」。120Hz駆動の4K HDR対応有機ELディスプレイと、最新の「Snapdragon 888」を搭載する高性能が大きな特徴となる

ただカメラの画素数を見ると、3つのカメラともに画素数は1200万画素と、今となっては決して高いとは言えない画素数だ。なぜソニーモバイルはカメラ機能に強いこだわりを見せているにもかかわらず、画素数競争には追従しようとしないのだろうか。

  • 背面のカメラは3眼構成だが、一番下のカメラはペリスコープ構造を採用し、70mmと105mmの2段階に切り替えることが可能。より遠方を綺麗に撮影できるようになった

大型化と「デュアルPD」で高速撮影にこだわり

その理由は前機種のXperia 1 IIから見て取ることができる。Xperia 1 IIは焦点距離が16mmと24mm、そして70mmの3つのカメラを搭載しており、いずれのカメラのイメージセンサーも1200万画素なのだが、このうち16mmと24mmのセンサーは「デュアルPD」という構造を採用、さらに24mmのカメラは1/1.7インチという大型のイメージセンサーを採用していた。

イメージセンサーのサイズが大きいほど多くの光を取り込むことができ、暗い所での撮影に強くなる。そしてデュアルPD(フォトダイオード)は、光を電気信号に変えるフォトダイオードを1つの画素に2つ備える技術であり、その1つで撮像、もう1つを位相差AF(オートフォーカス)に用いることで、高速なAFを可能にするものだ。

そうしたことからイメージセンサーにこれらの要素を備えたXperia 1 IIのカメラは動く被写体の撮影にとても強く、AF/AE(自動露出)が追従する秒間20コマの高速連写など、高度な撮影ができることを大きな特徴としていたのである。

  • 前機種の「Xperia 1 II」は、大型のイメージセンサーとデュアルPDで、動く被写体にも高速でフォーカスを合わせて追従しながら撮影できることを特徴としていた

そしてXperia 1 IIIでは、全てのカメラのイメージセンサーをデュアルPD対応にしたほか、70/105mmの望遠撮影用カメラにも1/2.9インチと、比較的大型のセンサーを搭載。3つのカメラ全てで被写体を追従したAFが可能となり、幅広いシーンで動きのある被写体に一層強いカメラを実現しているのだ。

  • Xperia 1 IIIは全てのカメラのイメージセンサーがデュアルPD対応となったことで、あらゆるシーンで動く被写体の撮影に強くなっている

その高速性に対するこだわりが、同社が高い画素数のイメージセンサーを採用しない理由といえるだろう。イメージセンサーが大きいほど高精細になるし、複数のピクセルを1つに合わせて暗い場所でも綺麗に撮影することなども可能ではあるのだが、画素数が増えるほど撮像するのに時間がかかってしまうという弱点もある。

筆者も何度か高画素をうたうスマートフォンで撮影したことがあるが、それをフルに活用した撮影をするには、スマートフォンの性能にもよるがシャッターを押してから少し待つ必要があり、その分ブレも発生してしまいやすい。高い画素数のイメージセンサーは止まっている被写体を綺麗に撮るのには有効だが、素早さが求められるシーンでは活用が難しいのである。

ただ高速連写ができることは、数字で違いを示しやすい画素数と比べると消費者が違いをイメージしにくい。ソニーモバイルがそれでも画素数より高速性を取るのには、αシリーズで培ったカメラ技術へのこだわりに加え、Xperiaシリーズが現在、カメラの“玄人”に向けたアピールを強めていることもあるだろう。ある意味マス層を追わず、明確にターゲットを絞ったスマートフォンに力を入れているからこそ、画素数とは異なるアプローチができるようになったともいえそうだ。