シャオミは2021年2月2日に新製品発表会を実施、スマートフォンやスマートウォッチの新機種を国内投入することを発表したが、中でも注目されたのは「Redmi Note 9T」。5G対応でFeliCaを搭載しながら、2万円を切る価格を実現するという非常に高いコストパフォーマンスを実現したRedmi Note 9Tだが、それを提供するシャオミと独占販売するソフトバンクの狙いはどこにあるのだろうか。

2つのサプライズがあったRedmi Note 9Tの発表

世界のスマートフォン出荷台数シェアで3位となった中国のシャオミが、日本に進出してからおよそ1年が経過した。シャオミはその間、4眼カメラを搭載するなど高い性能を備えながら24,800円からという低価格を実現した「Redmi Note 9S」などを投入してSIMフリー市場での地位を急速に高めただけでなく、KDDIのauブランドから「Mi 10 Lite 5G」を投入。参入から1年も立たないうちに携帯大手3社の一角に入り込むなど躍進を遂げてきた。

そのシャオミが2021年2月2日に新製品発表会を実施。スマートフォンやスマートウォッチの新機種などを発表したのだが、中でも大きな驚きをもたらしたのが2021年2月下旬以降に販売される予定の「Redmi Note 9T」である。

  • シャオミの新機種「Redmi Note 9T」。大画面や大容量バッテリーだけでなく、5Gに対応。「おサイフケータイ」も利用できる

    シャオミが発表したスマートフォン新機種の1つ「Redmi Note 9T」。大画面や大容量バッテリーというだけでなく、5Gに対応するほか背面にはFeliCaマークが備わっており、「おサイフケータイ」も利用できる

Redmi Note 9Tは、その名前の通りRedmi Note 9Sの後継というべきモデルであり、約6.53インチの大画面ディスプレイと5000mAhのバッテリーを備えている。それに加えてチップセットにメディアテックの「Dimensity 800U」を採用し、新たに5G通信にも対応させたほか、FeliCaに対応しており「おサイフケータイ」などの利用が可能であるなど、日本向けの対応がしっかりなされている点が大きなポイントとなる。

そして驚きをもたらしたのが、1つにRedmi Note 9Tがソフトバンクの「ソフトバンク」ブランドでの独占販売モデルになるということ。これまで多くの中国メーカーが、携帯大手向けの販売にこぎつけるまで長い時間を要したことを考えると、2年以内に大手2社の販路開拓を実現したことは非常に大きなインパクトがある。

そしてもう1つ価格であり、税抜きで19,637円(税込み21,600円)と2万円を切る価格を実現しているのだ。発表会でシャオミの東アジア担当ジェネラルマネージャーであるスティーブン・ワン氏は「ミドルレンジの5Gスマートフォンを再定義する」と話しており、性能だけでなく価格面をかなり重視した様子がうかがえる。

  • Redmi Note 9Tは「ソフトバンク」ブランドの独占販売モデルで、価格は19,637円。2万円を切ることから電気通信事業法の値引き規制に抵れることなく、乗り換えユーザーに1円で販売できる

さらにソフトバンクでは、番号ポータビリティによる乗り換えで「メリハリプラン」に加入した人などに向け、Redmi Note 9Tを1円で販売するとしている。スマートフォンの値引き販売に関しては、2019年の電気通信事業法改正で値引き額が2万円までに制限されているが、Redmi Note 9Tはそれを下回る価格なので1円販売ができる訳だ。

値引き規制後も「1円」「0円」端末は重要な存在に

だがRedmi Note 9Tは海外で発表された時の価格を見ると、今回日本で投入されたのと同じストレージが64GBのモデルで229ユーロ(約29,000円)とされている。それに加えて海外モデルにはないFeliCa対応のカスタマイズが加えられていることを考えると、日本での販売価格は本来もっと高くなることが想定されるだけに、2万円を切る価格での投入となったのには戦略的な要素が強いのではないかと考えられる。

そして現在のシャオミとソフトバンクの立ち位置を考えた場合、その戦略はかなり明確だといえる。まずシャオミに関してだが、先にも触れた通り同社は日本に進出して間もないだけに、快進撃を続けているとはいえ市場で確固たるポジションを築いている訳ではない。

それゆえ日本市場での存在感を高める上では、販売数が多い携帯3社向けの確固たる販路を獲得することが必須となってくる。そこでシャオミは、日本で重視されるFeliCaへの対応をしながらもRedmi Note 9Tを安価に供給することで、大手の一角を占めるソフトバンクとの関係を強化したい狙いがあったといえよう。

  • FeliCaの搭載は日本向けの独自カスタマイズとなるため値上げ要因となるが、シャオミは日本市場での販売強化のため、それを実現しながらも一層低価格でRedmi Note 9Tを提供するに至っている

一方のソフトバンクにとって、最大の狙いは5G契約の拡大だろう。ソフトバンクは2022年度末までに5Gのエリアを人口カバー率90%にまで急拡大させるとともに、2023年度に5Gスマートフォンの累計契約数を6割にまで広げる計画を立てている。

そうしたことから代表取締役社長の宮内謙氏は、2020年8月4日の決算説明会で「晩秋から来年にかけて5G祭りが始まる」と話しており、ハイエンドやミドルクラスだけでなく、低価格のエントリー帯でも5G対応スマートフォンを投入することで、5G契約の拡大に弾みをつけたい考えを示していた。そのためには低価格帯に強いスマートフォンメーカーとの協力が欠かせないことから、同社はシャオミと協力してRedmi Note 9Tの低価格化を実現するに至ったのではないだろうか。

  • ソフトバンクは2023年度までに5Gスマートフォンの累計契約数を6割に広げる計画を打ち出しており、そのための施策の1つとして低価格の5Gスマートフォン投入を打ち出していた

楽天モバイルが本体価格2万円の「Rakuten Hand」を実質0円で販売するキャンペーンを実施していることからも分かるように、厳しい端末値引き規制がなされている状況下でもなお、実質0円、1円で販売できる端末というのは携帯各社にとって顧客獲得の強力な武器となる、重要な存在であるようだ。そうしたことから今後は競争が激しくなっている携帯電話料金だけでなく、スマートフォンに関しても低価格帯での競争が非常に激しくなる可能性が高いといえそうだ。