KDDIは2021年1月13日に新料金プランを発表したが、中でも注目を集めたのがオンライン専用の料金プラン「povo」である。povoはベースとなるプランをシンプルにして必要なサービスを必要なだけ“トッピング”できるのが特徴のプランであり、これまで料金プランとサービスをセットで提供するバンドルプランに力を入れてきたKDDIの方針と相反するように見える。povoで同社の方料金戦略は大きく変わるのだろうか。

必要なサービスを自由に追加できるpovo

NTTドコモが2020年12月にオンライン専用で複雑な仕組みがなく、リーズナブルな料金プラン「ahamo」を打ち出して以降、携帯各社の料金を巡る動きが急速に慌ただしくなっている。そうした中、大手3社の中では最後発で新料金プランを打ち出したのがKDDIだ。

同社は2021年1月13日に新料金プランを発表。「au」「UQ mobile」など同社が提供する携帯電話サービス全体の見直しを図るに至ったのだが、中でも注目を集めたのはahamo対抗のプランとなる「povo」であろう。

  • KDDIは2021年1月13日に新料金プランを発表。中でもオンライン専用の「povo」が、ahamo対抗プランとして大きな注目を集めたようだ

    KDDIは2021年1月13日に新料金プランを発表。中でもオンライン専用の「povo」が、ahamo対抗プランとして大きな注目を集めたようだ

povoはKDDIのメインブランドである「au」のオンライン専用料金プランという位置付けで、料金は月額2,480円とahamoより500円安く高速データ通信量も20GBだが、1回当たり5分間の通話定額は付属しておらず、音声通話が30秒20円の従量制だという点が大きな違いの1つとなる。

だがより大きな違いとなるのが“トッピング”だ。これは必要に応じてオプションサービスを追加できる仕組みで、スマートフォン上の操作で自由に付け外しできることから、必要な時にサービスを追加し、不要になったら外すことが簡単にできる。

  • povoはベースとなるサービスに、自分でスマートフォン上から必要なだけサービスを追加する“トッピング”という仕組みが大きな特徴となっている

そのトッピングとしては、1回当たり5分間の通話が無料になる「5分以内通話かけ放題」などベーシックなもののほか、24時間だけデータ通信が使い放題になる「データ使い放題」などの特色のあるものも用意されている。今後は通信だけでなく、コンテンツやサービスと連携したトッピングの提供も検討されているとのことで、どのようなトッピングを追加して魅力を高めていくかが注目される。

povoはシンガポールのCircles Asiaとの協業によるサービスで、同社がシンガポールなどでMVNOとして提供しているサービスのノウハウが多く取り入れられており、トッピングもその特徴の1つだ。実はKDDIは2020年11月に子会社を設立しており、Circles Asia社のノウハウを活用し、eSIMを活用したデジタルネイティブ層向けのオンライン専用サービスを、その子会社を通じMVNOとして2021年春に提供する予定だったのだ。

  • KDDIは2020年10月30日の決算説明会で、子会社「KDDI Digital Life」を設立し、Circles Asiaとの協業によるデジタルネイティブ層向けのオンライン専用通信サービスをMVNOとして提供することを打ち出していた

それがahamoの登場によって競争環境が変化したことを受け、急遽KDDI本体で提供するに至ったのがpovoとなるようだ。プランの発表としてはKDDIが最後発になったとはいえ、一連の動向を見れば同社がオンライン専用のサービス提供に向けて準備をしていたことが分かるだろう。

スマホに詳しくない人にはバンドルプランの安心感が大きい

だがKDDIはauブランドで、これまで「Netflix」などのサービスを携帯電話料金とセットにしたバンドルプランに力を入れてきたはずだ。それがなぜ、povoではバンドルプランとは異なる方向性を持つCircles Asiaのサービスを取り入れ、オプションサービスをバンドルするのではなく、トッピングするという方針を取ったのだろうか。

その理由はターゲット層の設定にあるといえそうだ。povoが狙うのはあくまでデジタルネイティブの若い世代で、スマートフォンの扱いに非常に長けていることから自分にどのサービスが必要かを判断し、取捨選択できる人が多い。

  • povoはキービジュアルでも、スマートフォンに詳しい若い世代向けのサービスであることを強く意識している様子がうかがえる

そうした人達にとってあらかじめ特定のサービスをセットしたバンドルプランは、複数のサービスをセットでお得に利用できるメリットよりも、利用したいサービスを自由に選べないデメリットの方が大きい。ベースとなるサービスはシンプルにして可能な限り無駄を省き、必要なものを必要な分だけ追加して安く賢く使いたいという若い世代のニーズを獲得するため、KDDIは海外でそうしたサービスを提供して人気を得ていたCircles Asiaに目を付けたといえるだろう。

ゆえにpovoがトッピングで好評を得たからといって、auのバンドルプランがなくなったり、複数のサービスから利用したいものを自由に選べるアラカルト方式に変わったりするのかというと、必ずしもそうとは限らない。なぜならスマートフォンに詳しくない人は逆に自分で必要なサービスを選ぶのが難しいので、選ぶ手間を減らしてお得感を得られるバンドルプランの方が安心感が高く、選びやすいからだ。

ただKDDIはpovoの発表と同時に、従来の使い放題プランを見直した新プラン「使い放題MAX 5G/4G」を発表しており、それに合わせる形で2021年3月までにはバンドルプランの見直しも進める方針を示している。それだけに見直されたプランが現状のバンドルプランを維持したものになるのか、これを機にアラカルト方式へと大きく舵を切るのかという点は、今後のKDDIの方針を見据える上でも関心を呼ぶ所かもしれない。