現在は「2.0」としてサービス提供している、KDDIのオンライン専用ブランド「povo」。だが今後同社は、povoを「3.0」にアップデートし、SDKを通じて他の企業にpovoの通信基盤を提供する取り組みを本格化することを明らかにしている。povo 3.0でKDDIは何を見据えているのだろうか。
povoのSDKを導入する企業が明らかに
携帯各社のオンライン専用プランの中でも、ひときわ異彩を放つKDDIの「povo」。2021年3月に提供開始した「povo 1.0」こそ競合のオンライン専用プランに近い内容だったが、同年9月には月額料金が0円で、必要なサービスを購入して追加する「トッピング」の仕組みを取り入れた現在の「povo 2.0」へとリニューアルしている。
このpovo 2.0が従来にはないサービスとして大きな関心を呼び、現在に至るまで人気を獲得しているのだが、同社は2024年2月に実施された世界最大の携帯電話の見本市イベント「MWC Barcelona 2024」で、そのpovoをプラットフォーム化、オープン化する計画を明らかにしていた。
これはpovoの基盤を、SDKを通じて外部のアプリやサービスに提供するというもの。以前にもライブ配信サービスの「SHOWROOM」で、アプリ上からpovo 2.0の通信トッピングを購入できる仕組みを試験的に提供していたことがあるが、同社はこの取り組みをより本格化させていくようだ。
実際、KDDIが実施したビジネス向けカンファレンスイベント「KDDI SUMMIT 2024」の2日目となる2024年9月4日には、povoのサービスを運営しているKDDI Digital Lifeの代表取締役社長である秋山敏郎氏が登壇。povo 2.0から「3.0」へステップアップする取り組みとして、このオープン化戦略の進捗が明らかにされている。
秋山氏が明らかにしたのは、povoのSDKを実際に使用して開発を進めているパートナー企業であり、具体的にはワイヤ・アンド・ワイヤレスと富士ソフトの名前が挙がっている。ワイヤ・アンド・ワイヤレスは公衆Wi-Fiサービスなどを提供している企業であることから、訪日外国人に向けた通信サービスへの活用が検討されているという。
一方の富士ソフトはモバイルWi-Fiルーターを自社開発手がけていることから、povoのSDKを用いて必要な分の通信量を購入し、それを直接同社のWi-Fiルーターで利用する仕組みが検討されているようだ。
そしてもう1社、名前が挙がっているのがサイバーエージェント系の動画配信サービス「ABEMA」である。こちらは現時点では協議をしている最中とのことで、具体的なサービス提供に向けた取り組みが進められている訳ではないようだが、もしサービス提供がなされるとなれば、アプリ上から動画視聴のための通信量を購入できる仕組みなどが考えられるだろう。
ホワイトレーベル化で新たな市場を開拓できるか
povo 3.0によるオープン化戦略においては、povoのブランドを前面に打ち出さず、あくまで導入するサービスの基盤としてpovoを活用してもらう、ホワイトレーベル化を推し進める点も大きな特徴となる。それゆえトッピングの内容からデザインの建付けまで、パートナー企業と相談しながらカスタマイズできる形が取られるという。
そうしたpovo 3.0の内容を見ると、携帯電話会社からネットワークを借りてサービスを提供するMVNO、あるいは通信のノウハウを持たない企業がMVNOとしてサービスするための基盤を提供する、MVNE(Mobile Virtual Network Enabler)に近い印象も受ける。だが秋山氏は、povo 3.0が「(従来のMVNOとは)違うと思っている」と話す。
その理由はKDDIがネットワーク、パートナー企業がサービス提供に集中する仕組みなので、パートナー企業との密な連携がしやすいこと。そして海外展開の可能性だ。実際秋山氏はpovo 3.0の取り組みを今後日本国内で本格化させ、拡大していくとともに、将来的にはそれを海外でも展開していきたい考えも示している。
povoは元々、KDDIがシンガポールのCircles.Lifeと提携し、KDDI Digital Lifeを設立して提供しているもの。それだけにCircles.Lifeと連携しながら、povo 3.0の基盤を海外の通信事業者に提供するなどしてサービス化していく可能性は十分考えられよう。
携帯電話市場は世界的に見ても、5Gの停滞などによって盛り上がりに欠けており、携帯電話会社は設備投資が求められる一方で収益手段が広まらないことが大きな課題となっている。それゆえここ最近モバイル通信の基盤を、APIを通じて外部に提供し、従来とは異なる形で収益手段を得る施策が業界内では広がってきているのだが、それらの取り組みの多くは法人を狙ったもので、コンシューマー向けの新たなサービスを生み出す機運にはつながっていない。
それだけにpovo 3.0の取り組みが実を結び、海外展開が進むとなれば、コンシューマー市場でも新たなモバイル通信の可能性が生まれ、携帯電話会社の新たな収益手段へとつながる可能性も高い。povo 3.0はまだ離陸前という状況だが、業界の今後を考えるうえでも、その本格展開によって消費者がどのような反応を示すかが、非常に注目される所ではないだろうか。