シャープは2023年7月3日、国内で販売しているスマートフォン「AQUOS」シリーズを、台湾とインドネシアでフルラインアップ展開することを発表した。スマートフォン市場が非常に厳しい中にあって、あえて海外展開を強化する理由はどこにあるのだろうか。

実は海外市場開拓を継続しているシャープ

2023年5月に国内のスマートフォンメーカーが相次いで撤退・破綻したことで、残る国内の主要なスマートフォンメーカーはソニーとシャープの2社だけとなってしまった。それだけにこれら2社が今後、スマートフォン市場での生き残りをかけてどのような取り組みをするかが注目されているのだが、そこで大きな動きを見せたのがシャープである。

同社は2023年7月3日、新機種「AQUOS R8」シリーズなどのテレビCM完成披露イベントを実施している。その中で通信事業本部長の小林繁氏は、国内のAndroidスマートフォン販売数で6年連続1位を獲得、7年連続の1位獲得に自身を示すとともに、新たな取り組みとして海外市場でのスマートフォン販売強化を打ち出したのだ。

  • 台湾とインドネシアでフルラインアップ展開、シャープの海外展開は今度こそ成功するか

    シャープは2023年7月3日のテレビCM完成披露イベントで、台湾とインドネシアにスマートフォンのフルラインアップを提供することを発表。再び海外展開を強化しようとしている

具体的には台湾、そしてインドネシアにおいて、現在国内で展開しているAQUOSシリーズのスマートフォンをフルラインアップで展開することを明らかにしている。展開するのは2つの国・地域に限られるが、ハイエンドからローエンドまで全てのラインアップを販売するというのはかなり意欲的な取り組みといえるだろう。

あまり知る人は少ないが、実はシャープは長きにわたって携帯電話やスマートフォンの海外展開に断続的にではあるが取り組みを継続している。とりわけここ最近最近力を入れていた国の1つがインドネシアであり、2020年には国内でも販売していた「AQUOS zero2」「AQUOS R3」に加え、海外向けのミドルクラスのスマートフォン「AQUOS V」なども販売している。

  • シャープは海外向けのスマートフォンも開発・提供しており、2020年にはインドネシアに日本未発売の「AQUOS V」を投入。古いハイエンド向けのチップセットを搭載することで、コストを抑えながらもミドルクラスとしては高い性能を実現したモデルとなる

さらに2021年には「AQUOS sense4 plus」の販売も明らかにしており、継続的にスマートフォンを投入し市場開拓を進めていたようだ。それらの取り組みが市場に受け入れられ一定の成果を収めたことから、やはり継続的に端末を投入してきた台湾と共にフルラインアップ展開をするに至ったといえるだろう。

一方で、2018年からは欧州市場に向けてもスマートフォン販売を強化しており、テレビとセットでスマートフォンを販売するなどユニークな販売手法を取るなどして開拓を進めてきたものの、こちらは嗜好の違いなどもあってあまりうまくいっていないようで一度中断している状況にあるとのこと。それゆえ今後は台湾とインドネシアを主体としながら、アジアを主体に海外展開を強化していく方針のようだ。

製品力とスケールメリットの両立が契機に

世界的にスマートフォン市場非常に厳しい状況にあり、新しいメーカーが台頭するのが難しい中にあって、なぜアジアでシャープが海外でのスマートフォンで成果を出しつつあるのか。その理由の1つはシャープのブランド認知が高いことが挙げられる。

日本ではテレビのイメージが強いシャープだが、海外では白物家電でも強さを発揮している。それゆえ元々日本の製品やブランドが受け入れられやすい傾向にある台湾だけでなく、冷蔵庫や洗濯機などで高いシェアを獲得しているインドネシアでも高いブランド認知を誇っているというのだ。白物家電のブランドがスマートフォンの販売につながるのか? という疑問もあるが、小林氏が「最初は私も懐疑的だったが、(実際は)そうでもない」と話すなど、意外と影響力があるようだ。

  • テレビCM完成披露イベントに登壇するシャープの小林氏。海外展開で成果を出した要因の1つに、白物家電でのブランド認知を挙げている

そしてもう1つは、製品に対する海外からの注目の高さにあるようだ。シャープは日本で性能の高いフラッグシップモデルを積極投入しているが、主な販路がほぼ日本であるにもかかわらず、発表の度に海外からも高い注目を集めているという。

実際「AQUOS R8 Pro」を発表した時も、日本語のWebサイトしか用意していなかったにもかかわらず、海外から多くのアクセスが集まってきたとのこと。とりわけアジアからのアクセスが多い上に滞留時間も長く、非常に高い関心が寄せられている様子を示している。

  • シャープは2023年5月にフラッグシップモデルの新機種「AQUOS R8 Pro」を発表したが、日本だけでなくアジアを中心に海外からも高い注目を集めたという

多くの海外メーカーが口をそろえて話すように、日本のスマートフォン市場は製品品質や性能の高さが強く求められる傾向にある。それゆえ実は、日本で販売している日本メーカーのスマートフォンは、元々製品の質やパフォーマンスが非常に高いのだ。ただその分値段も高いので、大幅な端末値引きが適用されないオープン市場が主流となっている海外の多くの国や地域では、高額でオーバースペックになってしまうことから購入してもらえないという失敗を幾度となく繰り返してきた。

だが現在のシャープは台湾の鴻海精密工業の傘下にあり、一定のスケールメリットも持つことからハイエンドだけでなく低価格帯まで幅広くラインアップを揃えることができる。商品力とスケールメリットの双方を持ち合わせたことが、再びスマートフォンの海外販売強化に踏み切る要因になっているといえそうだ。

ただ海外での販売拡大に向けては、現地での販売やサポートをするためのネットワークを構築する必要があり、とりわけオープン市場が主流の国ではいかに現地での販路を開拓するかが重要で、なおかつお金がかかる部分でもある。小林氏によると、他の事業で展開しているシャープの子会社やグループ会社などを活用することで、費用を抑えながら販路開拓を進める工夫をしているとのことだ。

現時点で世界シェアが決して大きい訳ではないシャープが、スマートフォンの販売を世界的に広げるのは容易ではない。ただ一方で現在のシャープは、海外進出に向けてポテンシャルを多く持ち合わせているのもまた確かである。まずは台湾とインドネシアで確固たるポジションと市場シェアを獲得し、それらを軸として東南アジアに販路を広げられるかどうかが、海外進出の成否を見極めるポイントになってくるといえそうだ。