政府主導による料金引き下げの影響に苦しむ携帯大手3社だが、ここ最近の業績を見ると、依然厳しさは残るが徐々に業績改善の兆しも見えてきている。だが一方で、急浮上した新たな課題が各社の業績に大きな影響を与えつつある様子を見て取ることができる。

依然厳しいが復調の様子を見せる3社

菅義偉前首相の政権下にあった2020~2021年、政治主導で進められた携帯電話料金の大幅引き下げ。その影響によってNTTドコモの「ahamo」など新しいスタイルの料金プランが登場するなど、携帯電話料金は確かに安くなったが、一方で料金を引き下げた携帯電話会社、とりわけ政治的圧力で料金引き下げを迫られた携帯大手3社の業績は大幅に悪化することとなった。

実際、大手3社は2022年度、通信料収入の大幅減により700~1,100億円程度の減益を見込んでいたし、各社の上期決算を見ると、モバイル通信事業は各社予想のおよそ半分となる500億円前後の減益となっているようだ。企業体力のある3社とはいえ、首相のひと声で年間1,000億円もの利益が吹き飛ぶことの影響は決して小さなものではないだろう。

だがそれでも3社は業績回復に向けさまざまな策を打っているようで、ここ最近の業績を見ると徐々に回復傾向にある様子を見て取ることができる。依然料金引き下げの影響が各社の業績を苦しめていることに変わりはないのだが、ソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は決算説明会で、その影響が底を打ったと説明。「魔の3年の終わりが見えてきた」と話している。

  • 料金引き下げ影響を克服しつつある携帯大手3社の業績を悪化させる新たな火種とは

    ソフトバンクは通信量引き下げの影響が底を打ったとしており、2022年度をピークに今後は影響が大幅に縮小すると見ているようだ

またNTTドコモは、「YouTube」など動画ニーズの拡大によって中容量の「ahamo」や大容量の「5Gギガホ プレミア」などの契約数が前年同期比で3割の伸びを示すなど、想定以上の伸びを見せているそうで、それに伴いARPUの下げ止まりが見えてきたのこと。2022年7月の大規模通信障害で業績に大きな影響を受けたKDDIも、楽天モバイルの月額0円施策終了などの影響もあって一時的に減少していた契約数が回復するなど、復調の様子を見せている。

  • KDDIは大規模通信障害の影響で一時契約数が減少していたが、その後持ち直して2022年9月には通信障害発生前の水準に戻している

そしてもう1つ、各社の業績回復には非通信分野の事業成長も大きく影響しているようだ。実際NTTドコモやKDDIの決算内容を見ると、成長事業と位置付ける法人事業や金融事業などが順調に伸びていることが、モバイル通信事業の落ち込みをカバーしている様子を見て取れるし、ソフトバンクに至ってはスマートフォン決済の「PayPay」を子会社化したことで、業績の上方修正を発表している。

  • ソフトバンクはPayPayを子会社化したことにより、業績の上方修正を発表している

急浮上した電気代高騰、長期化に懸念

だが各社の2022年度上期の業績を見ると、料金引き下げとは別に各社の業績を苦しめる新たな問題が浮上しつつあるようで、それがエネルギー問題だ。ロシアによるウクライナへの侵攻以降エネルギー価格が高騰し、急速に円安が進んだこともあってて電気代が高騰していることはご存知の人も多いだろうが、その影響は携帯電話業界にも少なからず及んでいるのだ。

各社は全国に携帯電話基地局など多くの設備を保有しているが、それらを運用するには多くの電力が必要で、携帯電話事業は非常に電力を消費する事業でもある。それゆえ電気代の高騰は、各社の業績にもダイレクトに影響を与えているのだ。

その様子は各社の決算内容から見て取ることができる。NTTドコモの代表取締役社長である井伊基之氏は、電気代の高騰で上期に100億円の影響が生じたと説明。NTTグループ全体では影響が300億円にまで拡大しており、東日本電信電話(NTT東日本)・西日本電信電話(NTT西日本)などの「地域通信事業」セグメントに至っては、電気代高騰が大きく影響して減収減益となるなど業績が大幅に悪化しているようだ。

  • 日本電信電話(NTT持株)のセグメント別業績。NTT東西を軸とした地域通信事業の業績が悪化しているが、そこには電気代の高騰が大きく影響したとのこと

KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏も、通信障害の影響で上期に98億円の減益要因が発生したのに加え、燃料費高騰に伴う電気代の高騰で上期に50億円の減益要因が上乗せされ、それが145億円の減益へとつながったと話していた。またソフトバンクの宮内氏も具体的な額には言及しなかったものの、やはり電気代高騰が業績に少なからず影響しつつあると話している。

  • KDDIは2022年度上期に145億円の減益となったが、通信障害だけでなく電気代の高騰も大きく影響したという

もちろん各社ともに電気代を抑えるための取り組みは進めており、例えばNTTドコモは利用状況に応じて基地局をスリープさせ、電力消費を削減する仕組みの導入や、リモートワークの推進によるオフィスの電力削減などを進めているという。ただ一方で、事業のニーズが拡大しているデータセンターなどは逆に設備を増やさなければならず、それが電気代が増える要因にもなってしまうとのこと。電気代を考慮すると事業拡大が悩ましい部分もあるようだ。

  • NTTドコモはカーボンニュートラルなどの観点からも基地局の電力消費を抑える取り組みが進められているが、それだけでは対処できない部分もあるようだ

電気代高騰の問題は国際政治が大きく絡んでいる問題となっていることから、企業だけで対処できる問題ではない。それゆえ今後も電気代の高騰が続くようであれば、電気代が各社の業績に一層の悪影響を与える可能性も大いにあり得る。政府の要請に続いて電気代の高騰と、事業者同士の競争とは直接関係ない所で業績が悪化する要因が相次いで生まれている現状が、3社にとって非常に悩ましいことは間違いないだろう。