主力の「AQUOS sense」シリーズで国内Androidスマートフォンメーカーとしてトップシェアを獲得してきたシャープだが、急速な市場変化によってその地位が盤石ではなくなりつつある。2022年9月26日に発表したAQUOS senseシリーズの新機種「AQUOS sense7」「AQUOS sense7 plus」で挽回できるだろうか。
急速な市場変化などで盤石の地位が危うく
国内のスマートフォンシェアで圧倒的トップを図っているのは米アップルというのは多くの人が知る所だが、それに続くシェアを獲得しているのがシャープである。シャープといえば最近では、1インチの大型イメージセンサーを搭載したカメラを搭載した「「AQUOS R」が知られているが、シェア獲得に貢献しているのはミドルクラスの「AQUOS sense」シリーズだ。
AQUOS senseシリーズはミドルクラスということもあって目立つ機能が備わっている訳ではないが、購入しやすい価格、なおかつ必要十分な機能・性能を備えていること、そして国内メーカーというブランド力と安心感もあって高い支持を獲得。長らくAndroidスマートフォンのシェアで1位を獲得してきたのだ。
だがここ最近の動向を見ると、同社のシェアが盤石とは言えなくなってきている印象を受ける。「BCNランキング」を基にシャープが調査したシェアではAndroidスマートフォン販売台数トップシェアを5年連続で獲得したとしているが、他の調査会社の調査を見ると、2021年はシャープを抜いて韓国サムスン電子が2位のシェアを獲得したとされていることが多い。
なぜシャープのシェアが全ての調査会社の評価で「Android国内1位」とならなかったのか。その主因は市場の急速な変化にある。
2021年は3Gからの巻き取り需要が拡大したことなどもあり、低価格スマートフォンの相場が3万円台から、より安価な2万円台へと急速に下がっているのだ。シャープは当時この価格帯をカバーするラインアップを持っておらず、「Galaxy A21」「Galaxy A22 5G」などでこの価格帯をカバーできたサムスン電子や、4Gのみの対応ながら2万円台という価格を実現した「Xperia Ace II」で躍進したソニーなどにシェアを奪われてしまったのだ。
そしてもう1つ、2021年はAQUOS senseシリーズでも評価を落とした部分がある。2021年2月発売の「AQUOS sense5G」はユーザーから問題の報告が相次ぐなど高い評価を得たとは言えず、11月に発売された「AQUOS sense6」は自社開発の有機ELディスプレイを採用するなど大きな進化を遂げた一方、NTTドコモ版では当初の販売価格が一括で5万円を超えるなど高額化が進んだことで、価格重視のユーザーから評価を落としていた。
新機種の評価は悪くないが勝負は販売後
こうした状況から、Androidシェアナンバーワンというシャープのポジションが盤石ではなくなってきているのが現状なのだが、シャープも販売回復に向けミドル~ローエンドの領域でさまざまな手を打ってきている。まずは2022年初頭にAQUOS senseシリーズより低価格の「AQUOS wish」シリーズを新たに追加、隙が生じていた低価格帯の領域をカバーしている。
そしてもう1つの策となるのが、2022年9月26日に発表したAQUOS senseシリーズの新機種「AQUOS sense7」である。こちらは自社開発の省電力性に優れた6.1インチの有機ELディスプレイを搭載するなどAQOUS sense6の特徴を継承しながらも、新たにカメラの大幅な強化を図ったモデルとなっている。
実際AQUOS sense7は標準・広角の2眼構成となっているのだが、メインで使用する標準カメラはAQUOS sense6と比べイメージセンサーの大型化が図られており、より暗い場所での撮影に強くなったのに加え、 全ての画素を用いての像面位相差方式オートフォーカスを採用、オートフォーカスの速度がAQUOS sense6の2倍高速となっている。
それに加えて米国の国防総省が定めた「MIL規格」準拠の耐衝撃性を備えるほか、新たにマスク対応の顔認証機能も搭載するなど、より安心して利用できる点にも力が入れられている。幅広い層の人達が利用することを考慮した改善がなされている様子を見て取ることができるだろう。
また今回はもう1機種、より大画面の「AQUOS sense7 plus」も追加されている。AQUOS senseシリーズに「plus」モデルが用意されるのは2020年の「AQUOS sense4 plus」以来となるが、AQUOS sense7 plus約6.4インチとより大きなディスプレイを搭載しただけでなく、より大口径のスピーカーを搭載したり、120Hzでの映像に黒のフレームを保管してより滑らかな映像を実現するリフレッシュレート240Hz表示を採用したりするなど、映像を楽しむことを主体とした性能向上がなされている。
なお発売当初、AQUOS sense7はNTTドコモとKDDI(au、UQ mobile)から、AQUOS sense7 plusはソフトバンクから販売されるとのこと。前者は今後オープン市場向けモデルが追加される可能性もあるが、後者はソフトバンク独占販売となるそうで、従来モデルと同様携帯電話会社向けが販路の主軸となるようだ。
一連の新機種の内容を見るに、AQUOS sense7が引き続き幅広いスマートフォンユーザーをカバーするためバランスのよい進化を遂げたと感じるし、その評価も悪くない印象だ。ただ現時点の内容だけでは、AQUOS senseシリーズの改善が進んだと判断しづらいというのも正直な所で、先にも触れた通り2021年にAQUOS senseシリーズが評価を落としていたのは、端末の機能や性能ではなく、価格や品質といった部分であるからだ。
まず価格に関してだが、AQUOS sense7の発売日は2022年11月上旬、AQUOS sense7 plusは10月上旬となっており、現時点では販売する携帯各社が価格が明らかにされていない。シャープとしてはAQUOS sense7は従来のAQUOS senseシリーズと同じ変わらないポジションと評価しているようだが、ベース性能の強化に加え急速な円安の影響などもあり、価格面では厳しい部分が出てくるかもしれない。
そして品質面に関しては、実際にユーザーが手に取って使い始めないと分からず現時点では評価が難しい。シャープの販売シェア回復に向けてはむしろこれからが大きな勝負所になってくるといえそうだ。