台湾HTCの日本法人であるHTC NIPPONは2022年9月1日、およそ4年ぶりとなるスマートフォン新機種「HTC Desire 22 pro」を日本で発売することを発表した。FeliCaに加え、オープン市場向けモデルの多くが対応していない5Gのバンドn79(NTTドコモの4.5GHz帯)に対応するなどローカライズに力を入れる一方で、性能的に見ればミドルクラスで飛びぬけた機能・性能を持つ訳ではない。にもかかわらず、HTCがこのタイミングで再びスマートフォン新機種を投入するに至ったのはなぜだろうか。

日本向けカスタマイズを重視した「HTC Desire 22 Pro」

かつてはスマートフォンメーカー大手の一角を占め、日本市場でも大きな存在感を示してきたHTC。だが中国メーカーの価格攻勢によって業績が大幅に悪化、スマートフォン事業の一部をグーグルに売却し、なおかつ事業の主体をVRデバイス「VIVE」へ徐々に移行するなど、スマートフォンメーカーとしての存在感は非常に小さなものとなっている。

実際日本においても、HTCのスマートフォンは2018年に発売された「HTC U12+」以降、新機種の投入はなされていなかった。だが2022年9月1日に同社は新製品発表会を実施し、スマートフォン新機種「HTC Desire 22 Pro」を発表。およそ4年ぶりにスマートフォン新機種を発表するとあって、驚きがあったようだ。

  • スマホ事業の縮小を続けるHTCが4年ぶりに日本でスマートフォン新機種を発売した理由

    長らく日本市場にスマートフォンを投入していなかったHTCだが、2022年9月1日に約4年ぶりとなる新機種「HTC Desire 22 Pro」の投入を発表している

HTC Desire 22 Proのスマートフォンとしての内容を見ると、20:9比率の6.6インチディスプレイと、チップセットにクアルコム製の「Snapdragon 695 5G」を搭載。カメラは64000万画素の広角カメラなど3眼構成となっており幅広い画角をフォローできるほか、8GBのRAMを搭載するなど性能向上が図られている部分も見られるが、内容としてはミドルクラス相応のスマートフォンといえる。

  • HTC Desire 22 Proは6.6インチディスプレイを搭載したスマートフォンで、性能的に見ればミドルクラス相応となる

ただHTCはかつて日本市場に非常に力を入れてきただけに、日本市場向けのローカライズにはかなり力を入れているようだ。実際HTC Desire 22 ProはFeliCaを搭載し「おサイフケータイ」が利用できるだけでなく、日本独自のカラーとしてかつてのHTC製スマートフォンを象徴する赤を取り入れた「サルサ・レッド」を追加している。

それに加えてHTC Desire 22 Proは、オープン市場向けに投入されるスマートフォンのほとんどが対応を見送っている5Gの「バンドn79」、要はNTTドコモが5Gの主要周波数帯として活用している4.5GHz帯にも対応するとしている。防水・防塵性能に関してはIP67と耐水レベルにとどまっているが、日本市場に向けたカスタマイズに力を入れていることは確かだろう。

  • FeliCaの搭載に加え、オープン市場向けスマートフォンの多くが対応していないNTTドコモの4.5GHz帯に対応するなど、日本市場向けのカスタマイズには力が入れられている

だが先にも触れた通り、スマートフォンとしての内容はあくまでミドルクラスであり、突出した性能が備わっている訳ではない。価格も6万4,900円となっており、同クラスのチップセットを搭載したスマートフォンを見た場合、機能・性能に違いはあるものの、シャオミの「Redmi Note 11 Pro 5G」やオッポの「OPPO Reno7 A」などがオープン市場で4万円台で販売されているのと比べると、やはり割高感がある。

主軸はあくまでVRデバイス、それだけに販売には課題が

HTCとしてもそうした市場環境はよく理解していると思うのだが、にもかかわらず現在のタイミングでHTC Desire 22 Proを投入したのはなぜかと考えると、その理由はHTCが同機種の最大の特徴として打ち出している「VIVE Flow」との連携にあるといえよう。

VIVE FlowはHTCが提供している、VRコンテンツを楽しむためのグラス型デバイスであり、現在一般的なゴーグル型のデバイスと比べ軽量かつコンパクトであることが大きな特徴。スマートフォンとワイヤレスで接続し、スマートフォンの映像を出力したり、コントローラーとして利用したりすることも可能であるなど、スマートフォンとの連携に力が入れられているのもポイントとなっている。

  • HTC Desire 22 ProはVRグラスの「VIVE Flow」との連携を重視しており、VIVE Flowと接続してさまざまなVRコンテンツを楽しめるようになる

そうしたことからHTC Desire 22 ProはVIVE Flowと連携し、VR関連サービスとして注目が高まっている「メタバース」関連のサービスが利用しやすいアプリや、メタバース系サービスでの利用が高まっているNFTを利用しやすい専用アプリをあらかじめ用意。さらに購入者には、HTCが提供するメタバースサービス「VIVERSE World」の中の空間「マイワールド」を限定でプレゼントする施策も打ち出しており、VIVE Flowを活用したメタバースの利活用促進に力が入れられている様子がうかがえる。

そしてもう1つ、特徴的なのはHTC Desire 22 ProがVIVE Flowに給電する機能を備えていること。VIVE Flowはバッテリーを搭載していないことから利用する際は外部からの給電が必要になるのだが、HTC Desire 22 Proに接続すれば別途バッテリーなどを用意する必要なく、2つのデバイスとケーブルを用意するだけでVR体験ができるようになるという。

そうしたことを考えると、HTCはHTC Desire 22 ProをVIVE Flowの周辺デバイスとして販売することで、現在の主力となっているVRデバイスの利用・販売促進につなげる狙いが大きいのではないかと考えられる。裏を返せば同社がVRデバイスを展開していなければ、HTC Desire 22 Proが日本市場に投入されることもなかったかもしれない。

ただ実際のHTC Desire 22 Proに触れてみると、そうしたHTCの思惑通り市場に受け入れられるかは未知数な部分も多い。なぜならメタバースやNFT関連のアプリがプリインストールされているとはいえ、メタバースなどに馴染みのない一般のスマートフォンユーザーに向けて利用しやすくする仕組みなどは用意されておらず、一定の知識を持っている人でなければ十分に活用できないからだ。

  • NFTコンテンツなどを管理する「VIVE Wallet」アプリ等も用意されているが、既にNFTや仮想通貨などのサービスを利用している人でなければ利用のハードルは高い

HTC Desire 22 Proの販路は当初、自社サイト内が主体になるとのことなので、当面はHTC製デバイスやVRに興味のある人達が主なターゲットとなることから、そうした内容でも問題はないのかもしれない。ただ今後販路を広げる上では、最大の特徴となるメタバースやNFTなどの部分を生かす取り組みが求められるだろうし、そうでなければミドルクラスのスマートフォンとして再び価格競争に巻き込まれてしまいかねない。4年ぶりの復活を果たしたHTCだが、その道が厳しいことに変わりないといえそうだ。