NTTドコモが「ドコモでんき」を2022年3月より開始すると発表、最後発ながら電力事業への参入を打ち出している。一部携帯電話会社のサービスでは電力サービスとの契約で割引が受けられるなど、携帯各社が電力サービスに力を入れる動きが強まっているのだが、その背景には何があるのだろうか。

環境への配慮を打ち出す「ドコモでんき」

政府要請による携帯電話料金の引き下げで悪化している業績をカバーするため、ここ最近モバイル通信以外の事業に力を注いでいる携帯各社。NTTドコモもその例にもれず、NTTコミュニケーションズの子会社化で法人事業を強化するなど、モバイル通信以外の事業強化を急いでいる。

そうした取り組みの1つとなるのが電力事業への参入であり、NTTドコモは2022年3月1日より、個人向けの電力サービス「ドコモでんき」の提供を開始することを明らかにしている。ただ電力事業への参入は携帯大手3社の中では最後発となるだけに、明確な特徴を打ち出すことに力を入れているようだ。

そのことを象徴しているのが「ドコモでんき Green」である。これは再生可能エネルギー由来の電力サービスで、CO2の排出量を抑え環境に配慮した電力を利用できるというもの。その分料金は、通常の地域電力会社の料金に500円上乗せされる形となるが、一方で「ギガホ」「ギガライト」「ahamo」といったNTTドコモの回線契約プランと、「dカード GOLD」を利用しているユーザーであればdポイントが最大10%還元される特典も付与されることとなる。

  • 「ドコモでんき Green」の概要。再生エネルギー由来の電力を使い環境への配慮をアピールするだけでなく、NTTドコモ回線契約者へのdポイント還元優遇もポイントとなっている

    「ドコモでんき Green」の概要。再生エネルギー由来の電力を使い環境への配慮をアピールするだけでなく、NTTドコモ回線契約者へのdポイント還元優遇もポイントとなっている

NTTドコモなどNTTグループは、2021年9月に環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」を打ち出し、2040年度までにカーボンニュートラルの実現を目指すとしている。昨今、SDGsやサステナビリティなど環境に対する取り組みへの注目が高まっていることから、ドコモでんき Greenの提供もそうしたグループのビジョンや周辺環境を強く意識したものといえるだろう。

ただドコモでんきにはもう1つ、「ドコモでんき Basic」というサービスも用意されている。こちらは地域電力会社と同等の料金ながら、NTTドコモの回線契約プランを契約していれば最大3%のポイント還元が受けられるというもので、ドコモでんき Greenと比べインパクトは弱いものの、その分手軽に契約し適度なお得感が得られることもあり、より幅広いユーザーの利用を見込んで提供されるサービスといえるだろう。

  • 「ドコモでんき Basic」の概要。料金は地域電力会社と同じだが、dポイントが付与される分お得度合いが高い

NTTドコモはドコモでんき全体で2022年度末までに150万以上の契約を獲得、さらに収益規模としても早期に1,000億円以上を目指すとしている。その数字を見れば、NTTドコモが電力事業にかなり期待している様子がうかがえるだろう。

  • ドコモでんきは2022年度末までに150万契約以上の獲得を目指しており、収益規模も早期に1,000億円以上を実現したいとしている

収益だけでなく携帯回線の解約防止の期待も大きい

ただ電力サービスに力を入れているのは他社も同様だ。実際KDDIは、自社の電力サービス「auでんき」の契約数を、生活系サービスの「ライフデザイン領域」の主要KPIとしているほか、2021年にはサブブランドの「UQ mobile」で、auでんきなどを契約することで割引が受けられる「でんきセット割」(後に固定ブロードバンドにも対象を広げ、「自宅セット割」に改称)を提供し、話題となっている。

  • KDDIの2022年3月期第1四半期決算説明会資料より。「auでんき」などの電力サービス契約数は、同社のライフデザイン領域の主要KPIとなっている

携帯各社が電力サービスに力を入れるのには、1つはもちろん収益面での貢献であろう。NTTドコモの例を見ると、ドコモでんきの収益は「dカード」「dブック」など、個人向けの通信外サービス「スマートライフ事業」に含まれるものと考えられるが、2020年度の同事業の収益は約4,700億円。仮にドコモでんきが目標としている1,000億円の収益が上乗せされれば、大きな伸びが期待できることは間違いない。

だがそれよりも大きいのは、携帯電話回線とのセット契約で解約を減らす狙いであろう。というのも、2019年の電気通信事業法改正により、携帯各社はかつてのように、携帯電話料金の割引で利用者を2年、4年といった長期間、契約を縛ることができなくなっているのだ。

それに加えて菅義偉前首相の政権下で進められた料金引き下げ施策で競争が激化したことから、ここ最近携帯各社の回線解約率は上昇傾向にある。そこで携帯各社としては、自社サービスを長く使ってくれる優良な顧客を繋ぎとめるためにも、生活に密接したサービスと携帯電話回線を結び付けてお得になる仕組みで解約を防止する取り組みを強化しているのだ。

その代表例としては、KDDIの「auスマートバリュー」に代表される固定ブロードバンド回線とのセット契約で受けられる割引が挙げられるが、先のUQ mobileの事例のように、ここ最近は電力サービスその対象となるケースが増えているようだ。ドコモでんきがNTTドコモ回線契約者に対してポイント優遇策を打ち出しているというのも、お得さを打ち出し携帯電話回線を防止する施策の1つと見ることができるだろう。

ただ総務省は、あくまで乗り換え障壁を減らして事業者間競争を促し、さらなる携帯電話料金低廉化の実現を目指していることから、有識者会議などでは以前から、こうしたセット契約による解約防止策に懸念を示す声が多く挙がっている。それだけに携帯各社は今後、総務省に“縛り”と捉えられない範囲で、いかにセット契約による割引を強化していけるかというさじ加減に苦慮することとなりそうだ。