今回は前回に続いて、EVERNOTEを使ったデジタル情報整理の実践方法を考えます。

EVERNOTEをどう使うか?

佐々木 堀さんの場合は、私と違うということでしたが、EVERNOTEをどのようにお使いですか?

僕の場合は、ノートブックが分類の基本になっていて、デフォルトのノートが一番上にくるように、「A. Inbox」というノートが一番上にあります。ここに、基本的にタグも何もつけていないノートが降り注ぎます。

その下に、ウェブページをクリップしたものを入れたノートや、すぐに消すメモ、マインドマップをいれてあるノートが続き、さらにその下に「テーマ別」(研究・ブログ・アイディア・ワインノート・スクラップ)のノートや、「画像」「名刺」といった用途が限られているノートが続き、最後に「永年保存する文書」や「熟成するアイディア」といった長期的に利用するノートが並列しておいてあります。ノートの並び方は時間の長さに従っているのです。

時間スケール順に上から並ぶようにしている

短期記憶に関するノートブックは

・行き先案内、コンサートなどの情報といった、時間がたてば無意味になる情報
・ブログの走り書き。記事にしてしまえばもう使わないノート
・すぐに記事にしない物。つまり「タイトルが思い浮かばないもの」については、ただのアイディアノートブックに入れて熟成を待つ。外山滋比古先生の「アイディアを寝かせる」にとても考えが近いです。

それに対して比較的長く保存する記録は

・けっして捨てられないもの
・時間の概念がない情報。たとえば名刺など、いついらなくなるのかわからないので、ひとまず永続しておいて、いずれ「1年以上放置されているものはないか」といった検索でレビューすれば足りるもの。
・ 蓄積することに意味があるもの。ワインノート、税金や給与の記録、名刺がここ。

ノートブックの分類例

佐々木 基本的にはどの程度記憶保持するかを分類基準にすると、「アイディア」などは雑多な思いつきが集積しそうですが、それで不都合はありませんか?

僕の場合は、アイディアはすべて「ブログ」か「自分の執筆活動」に関係するものなのでひとつにまとめておいて、問題はないのです。活動の境界条件が決まっている人は、ノートで整理した方が、「国語」「数学」のノートのように、制限を加えることでかえって整理が楽になると思います。

佐々木 「Inbox」は私もつくっていて、ここはタグなしのノートですね。「まず」あらゆるデータが最初に集まるところですね。

タグで分流するか、ノートで分流するか。

僕の場合タグは、もっと思い出しにくい属性に対して与えられているので、やたらとたくさんありますが、1回しか使われていないものが大半なのです。思い出すときに、「あの数カ月前のNHK特集の話」と思い出したくなるときのためだけに、1個しか使われていないNHKタグが存在しています。だから、「このメモはいったいどう分類すべき?」と悩んだときほど、一度きりのタグがやたらと増える。

佐々木 タグに関しては、数を絞るべきだという人と、いくらでも好きなようにつけろ、という人とがいますね。

タグが生まれたときに、これは分類学・系統学の伝統に則ってtaxonomyをしっかりしなくてはいけないという一派と、即興でどんどんつけろという一派があって、私は後者だったのです。そうすることで概念が完全化していく。

佐々木 それはどういう意味ですか?

たとえばシマウマという生き物を知らない場合、タグを付加していくことで表現していくというのが、即興派の考え方。「4つ足」「ほ乳類」「白黒のしま」ととりあえずつけていって、適当なところで妥協する。その人のマニアック度合いに従って「草ばかり食べている」とか「馬みたい」といった情報を付け加えても、付け加えなくてもいい。

佐々木 なるほど! それはよくわかります。私もはじめは間違いなく「即興派」で、「そのうちうまい分類に落ち着くだろう」と期待してやっていました。ただなかなかそれがうまく機能しなかったので、第4回で話したような、「思い出すタイミング」を中心にまとめ始めたのですが。

うーん。ここだけは、一番利用するコア・ノートブック、コア・タグみたいなものを考えた方がいいのかもしれませんね。タグが広がった部分は、Evernoteにしかない機能である「タグの階層化」でタグに網をかけるのがよい戦略かもしれません。次回以降で、その辺りのことももっと考えてみましょう。

佐々木正悟の心理学ノート

心理学の用語で、「短期記憶」と「長期記憶」がありますが、堀さんはEVERNOTEで、その「長期記憶」をさらに分解して、「熟成するもの」と「半永久に保存するもの」とに分けているようです。ここで「熟成」とはいわば「記憶の個性化」で、知識に「自分らしさ」や「取り込み」の程度が深まっていく課程と考えられます。一方で「永続」の方は、私的なデータベース化でしょう。これは蓄積後に価値が高まると考えられます。

対談後記

今回のような話は、使われているほどには議論されていない話だと思います。実際、はてなブックマークや、その他のソーシャルブックマークも、便利ですが、使いこなせず困っている人もたくさんいるでしょう。あっさりと、「使い物にならない」と断じる人もいますが、もっと議論されて、利用方法を試行錯誤してみる価値があると思います。

佐々木 正悟(ささき しょうご)
心理学ジャーナリスト

「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。 1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。 著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほかに『ブレインハックス』(毎日コミュニケーションズ) 『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などある。

ブログ「ライフハックス心理学」を主催

堀 E. 正岳(ほり まさたけ)
ブロガー・気候学者

1973 年アメリカ・イリノイ州エヴァンストン生まれ。筑波大学地球科学研究科(単位取得退学)。理学博士。地球温暖化の影響評価と気候モデル解析を中心として研究活動を続けている。その一方でアメリカでライフハックが誕生したころからその流行を追い続け、最新のハックやツール、仕事術や自己啓発に至る幅広いテーマをブログ Lifehacking.jp で紹介している。 著書に、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)、「英語ハックス」 (日本実業出版社、佐々木正悟氏との共著)、Lifehacks PRESS vol2 (技術評論社、共著)がある。「ブログ Lifehacking.jp を主催」。