今回は、我々が考える企業ができる具体的なソーシャルリスク対策の2つ目、「体制構築と準備」について具体的に触れていきたい。

責任者不在が一番危険!事案がたらい回しに!?

最も危惧を感じるのは、炎上事象の当該業務を担う担当者・責任者の不在である。炎上事象発生時にその場に「居ない」という意味ではない。判断を下す担当者・部署があやふや、もしくは未確定であるということである。

炎上という事象自体が企業経営を脅かすに至ったのは、ここ数年の出来事である。そのため、炎上に対する社内体制が整っていない、知見や知識のインプットにまだ着手していない企業も多くみられる。

その場合、炎上内容に関わる各部署・各担当者がそれぞれ違った動きをすることになり、対応が遅れ、必要以上に炎上が拡散してしまうという事態に陥る。 炎上という問題に対し、企業内の各部署で「管轄外」であると認識されることもある。責任を押し付け合うような形になり、さらに対応が遅れることになるだろう。決して各部署は、責任回避を望んでいるわけではなく、炎上事案に対する社内体制の構築がなされていないことがそもそもの原因なのである。

社内体制の構築をしていく上で、最低限必要とされるのは、日々の情報収集からデータ蓄積を担う部署、いわば「チーム」である。炎上事象が発生した際に即座に判断を担う責任者を明確にすることにより、各部署との連携も容易になる。

各部署の中でも、プレスリリースの配信を想定した「広報」。また顧客からの問い合わせを想定した「お客様相談室」。この2つの部署は、炎上事象対策において重要視されなければならず、連携に必要不可欠である。

特に「お客様相談室」は、重篤な炎上事案が発生した場合において、重要なポジションとなり得る。顧客との対応(会話・内容・態度)がソーシャルメディア上に投稿されることが多いからである。

「お客様相談室」のオペレーションスタッフ(中には外部委託しているケースもある)自体が、「企業の考え」と受け取られるケースもある。その為、顧客からの問い合わせが入ることを事前に予測した上で、社内の対応方針を早期に決め必要がある。これは、炎上を回避する1つの手法になる。

その「炎上」事象は、企業にとって「インシデント」?

現状、多数の企業がさまざまな事業リスク(SNS上の炎上を除く)発生時の対応策をある程度構築していると考えている。SNS上の炎上事象も基本的には同様のリスクであると考え、その内容が企業にとっての「インシデント」であるか否かを見極める必要がある。つまり、社内体制の構築の後、企業側は、どのような事案・状況に対して「炎上」と位置付けるのか水準や基本を整えなければならない。

企業の判断軸が不明確である場合、経過観察や無問といった根拠無き判断が発生してしまう。いつか、沈静化するであろうという安易な考えは、炎上対策では対応の遅れを招き、さらに拡散され、結果、取り返しのつかない自体になりかねない。

炎上事案の取扱水準・基準とは?

「炎上」事案の取扱水準・基準においては、各企業様によって日々変化するべきものである。ここで、我々が考える判断軸について述べていきたい。

SNS上における「炎上」の判断軸は、大きくわけて「定量的な事象」「定性的な事象」の2つに分けられる。1つ目の「定量的な事象」は、言葉の通りクチコミの件数である。

通常時(何も問題が起きていない、広告活動を実施していないなどの状態)におけるクチコミの投稿量を把握し、各企業が定量水準とする。それぞれの事案により投稿量が変動するため一概には言えないものの2倍、3倍など急激に増大した場合は炎上事象と取られ、緊急体制に移行するべきである。

2つ目の「定性的な事象」は、投稿の内容のリスクを捉える基準である。1件の投稿が、先々炎上事象に繋がることもありうる。よって、定量的な判断だけを重視してはならない。このたった1件の投稿を見つけ出すには、これまで説明している「目視パトロール」が活きてくるのだ。

一例として、異物混入の投稿である。たった1件の投稿であったとしても安易に見過ごしてはいけない。未拡散事象として放置するのではなく、企業リスクになりうる投稿であると判断し、日々投稿の動きを目視パトロールしなければならない。その中で、企業側の対応策を練っておくことが重要で、先々の企業評価に影響してくると言っても過言ではない。

炎上の引き金は年々変化している

「定量的な事象」、「定性的な事象」を把握した上で企業体制構築の準備ができていれば、炎上事象発生時の対応判断速度にスピード感が出る。

炎上事例の引き金になる投稿は年々変化しており、今後も変化すると考えている。企業側は、今までに発生した「炎上事例」や、その後の対策方法の情報をインプットしておくことが非常に重要である。ただし、サービス内容や自社で抱えている顧客の性質は企業によって大きく異なる。同様な炎上事例であっても、自社では「初めて発生した問題」といて捉えるべきである。他社の対応と同様にすれば解決に至る訳ではない。炎上事象の担当部署は、日々の動向の変化を把握し、蓄積していくことが求められる。

炎上の訓練も必要?

炎上事象発生時の準備として、「訓練」を自社で実施、または委託している企業もある。目視パトロールをしているチームから炎上発生を「緊急事案」として社内に通知し、情報の連携がスムーズに行われるかを訓練するのだ。訓練を行うことで、自社の弱い部分が見え始め、見直しを図ることもできる。そのようにして、炎上事象発生時の整備を実施していくことが重要であると考える。

訓練を実施する企業は、まだ少数ではあるが、今後の体制整備の準備として1つの有効な手段になるであろう。次回は、2017年の炎上の動向予測について触れていきたい。

佐伯朋嗣

大手IT広告代理店にて100名規模のSEM部署、特にSEO領域の責任者やジョイントベンチャーによる子会社の営業統轄を歴任。その後クラウド業界を経て2011年イーガーディアン入社、2015年に取締役就任。 現在はイーガーディアングループ全体の営業責任者として、監視、SNS、広告BPOなど数多くの大型案件に関わる。 企業のSNS使用方法や炎上のメカニズム、その対策などのソーシャル対応や分析を得意とする。