前回は、マーケティング施策という観点でインターネット広告やLPO、メールといったマーケティング手法を見てきました。そして、プライベートDMPによりそれらのデータとチャネルを統合することで、消費者に合わせたOne-to-Oneコミュニケーションが可能になるとお伝えしました。

では、具体的にどのような施策が考えられるのでしょうか。本稿では、インターネット広告にフォーカスして考えてみたいと思います。

データの統合で精度の高いターゲティング配信を実現!

ここではインターネット広告の中でも、リターゲティング広告を例に紹介します。リターゲティング広告とは、企業のWebサイトに訪れたことがある消費者を対象に、再度訪問するよう促す広告を配信するサービスです。

通常、同広告手法では、サイト内での行動履歴や広告への反応といったデータを元に広告を配信します。この場合、クッキーデータがベースとなるので、性別や年齢といったデモグラフィック属性までは把握することができません。これにより、広告を見て初めて訪れた会社員の男性や、定期的に利用している主婦など細かな属性別に、レコメンデーションバナーや動画広告、静止バナーを組み合わせて最適なメッセージを配信することは難しくなってしまいます。

では、このデータと自社のCRMデータを統合するとどうでしょうか。デモグラフィック属性と、過去に自社で購入した商品データなどを組み合わせ、消費者ごとに最適なメッセージを配信できるようになります。さらに外部の3rd Party Dataも連携すると、趣味や嗜好といったインタレスト属性や外部サイトでの購入履歴などを紐付けることも可能になり、よりパーソナライズされたコミュニケーションを実現することができるわけです。そして、このデータ統合を行うのがDMPとなります。

このように、DMPはマーケティング精度の向上を図ることがミッションとなる一方で、さまざまなデータで個人を識別することにより、個人を特定できてしまうリスクがあります。そのため、ここで少し個人情報保護法について説明したいと思います。

個人情報保護法、改正

今の個人情報保護法では、第23条において、個人情報の「本人の同意のない第三者への提供は禁止」されています。個人情報を扱う事業者は「どんな目的」で「どんなデータ」を管理しているか、委託する場合は「どこに委託するか」を明示し、消費者の同意を得る必要があります。また、何を個人情報として扱うのか曖昧であるという問題もあり、これらがDMPにおける外部データの活用が進んでいない理由となります。

そこで、データをより積極的に活用していくため、2015年9月3日、個人情報保護法改正案が可決されました。これにより、2016年1月には個人情報保護委員会が発足し、この委員会の中で個人情報と紐付く行動履歴情報の取り扱いなどのルールが順次整備される予定となっています。今後、日本でもデータの活用に向けた動きが加速すると予想しています。個人情報を活用する側として、これらの動向に注目しておく必要があるでしょう。

さて、これまで3回にわたりDMPについて説明してきましたが、最後に、近年急速に普及しているチャネル「スマートフォン(スマホ)」について考えてみたいと思います。

スマートフォンという現代のチャネル

みなさんもご存知の通り、スマホが急速に普及し、これまでの消費者の行動は大きく変化しました。電話やメールといったコミュニケーションツールはLINEやFacebookといったSNSへ、メディアもテレビからYoutubeなどの動画サービスへ変わりました。

利用状況に関しては2015年に総務省が発表した調査で、20代のスマートフォン所有率は94%となっており、またニールセンによると、2014年7月時点では、アプリはスマホの利用時間の72%を占め、Webブラウザの2.5倍の利用時間と報告されています。これらのことから、パソコン中心であった消費行動はスマホ中心にシフトし、企業のマーケティング活動においてアプリがより重要なチャネルになると考えられます。

Webとアプリに大きな差はないと思われるかもしれません。しかし、アプリというチャネルはWebサイトと異なった特性を持っています。つまり、位置情報が利用でき、リアルタイムなプッシュ型コミュニケーションが可能であるということです。マーケティングにおいても、この特性を理解した施策が必要になります。位置情報を活用してオンライン行動をオフラインへ結びつける、つまりO2Oとして有効なチャネルとしての活用です。

大手ドラッグストアでは、店舗の近くを通ったタイミングでそのユーザーの性別や年代、購入履歴を活用し、ユーザーに合わせてクーポンや情報の発信を行っています。このように、最近ではアプリを活用してリアルな店舗への誘導を行う事例が増えつつあります。

もちろん、位置情報の利用が可能だといっても、個人情報の観点から消費者の許可を得る必要があり、すべての消費者のデータが取れるものではありません。しかし、これから位置情報を使ったサービスが増えるにつれ、サービスを利用するために位置情報を提供する人が増えると予想されます。そして、アプリとDMPを連携することで、Web上での行動を含むさまざまなデータを活用し、オンライン・オフラインを包括したマーケティングが行われる未来も、もうすぐそこまで来ているのです。

執筆者紹介

京セラコミュニケーションシステム 高橋 樹理

2012年3月、京セラコミュニケーションシステムに入社。現在は、インターネットメディア事業本部 技術開発部に所属し、デジタルマーケティングソリューション「KANADE」で展開する広告配信サービス「KANADE DSP」や、データマネジメントプラットフォーム「Rocket Fuel Origin DMP」などの研究開発 / 商品開発を担当する。