平安の女流作家「紫式部」の生涯にスポットを当てた大河ドラマ「光る君へ」の放送が開始され、式部や代表作である「源氏物語」への注目が集まっている。
そして紫式部の話になると、その対比として「清少納言」の話題が挙がってくることが多い。
だが紫式部は小説家であり、清少納言は随筆家である。
ジャンルだけで言えば林真理子とナンシー関を比較しているようなもので、「どうしてもその二人を比べなきゃダメか」な気もするが、何せこの時代の二大女流作家であり、逆に言えばこの二人しかおらず、歴史の授業でも大体二人をセットで教えられるのだ。
同空間に男が二人いれば左右を決さなければ気が済まないように、そこに女が二人いれば雌雄を決したくなるのは人間のサガと言ったところなのかもしれない。
平安時代からいた「オタク女子」
だがジャンルはともかく、清少納言は一条天皇の皇后である定子の女房で、紫式部は同じく皇后の彰子の女房という広義のライバル関係であったのは事実なので、この二人に反目のイメージがつくのも必然と言えるし、実際、紫式部が清少納言の悪口を書いていたという話も聞いたことがある。
しかし、この二人の相容れない感は、単にほぼ同時代の女流作家で立場的に対立していたからではなく、やはり作風の違いであると端的に説明したポストがXで話題になっていた。
「凄いざっくりいうと、紫式部が夢女子で清少納言は推しの部屋の壁になりたい女子」
それがそのポストの一部だ。
この説明に対し、多くのオタク女が「こころえた」という表情を見せ、それ以外は春があけぼのになったような顔をしていた。
ちなみに私は高校の時「紫式部と清少納言、どっち派?」という、文系クラスのイケてないグループでしか発生しない問いに対し「清少納言派」と答えた記憶がある。
しかし、ソシャゲのFGOでも清少納言はパリピ風に描かれたのに対し、紫式部は陰キャ寄りの文学女子として描かれている。
その解釈も正しいかどうかはわからないが、どう考えても自分はわざわざ清少納言の悪口を書いて残すような式部側の人間なはずだ。
それにも関わらず何故か本能的に「清少納言派」と答えてしまったのだが、今回の式部と納言の解釈を聞いて合点がいった。私も間違いなく推しの部屋の壁派であり清少納言側の人間だからだ。
ただ細かく言うなら私は「推しの部屋の壁のシミ派」である。
推しの部屋の壁1枚を占拠してしまうと、推しが寄りかかった時点で推し×壁が成立してしまい、夢になってしまうのではないか、という心配があるからだ。
歴史曰く、同担でなくてよかった
そんなことより、非オタにもわかるように1から説明しろというあけぼの派も多いと思うが、本当に全部説明しようとすると源氏物語より長くなるがお時間は大丈夫だろうか。
しかも説明の途中で「その夢の解釈は違う」と、必ず他の識者の物言いが入って話が長引くと思ってほしい。
簡単に言えば、両者は自分の「推し」に対するスタンスが全く違い、紫式部は自分が推しと絡みたい派で、清少納言は推しをただ遠くから応援したい派じゃないか、ということである。
確かに枕草子からは納言の推しである定子を見守り慈しんでいる感が見て取れ、源氏物語も紫式部本人が出てきて藤原道長に「おもしれー女」と溺愛される話ではないが、光源氏は紫式部の推しを美化して作ったキャラであり、それを自作ヒロインたちと恋愛させているところが夢小説っぽいと解釈する人もいる。
もしそうだとしたら、確かに二人は「魂からして違う」と言わざるを得ない相容れなさだ。 だが、推し方が違うというだけで、幸い二人は同担というわけではない。
清少納言は言わずもがな定子神推しだが、紫式部の推しの投影とされている光源氏のモデルは諸説あるが、少なくとも推し被りはしていない。
特定の二次元キャラの部屋の壁のなりたいと思っている人間が、アメリカギンヤンマとの夢小説を書いている人を見ても「いろんな人がいる」と思うだけで、「ぶっつぶしてやる」という憤怒が起こるわけではない。
清少納言と紫式部もお互いの作品を読んで「こいつの推し方キモいな」と、そこはかとない不気味さ感じ「何となく気に入らない相手」として認識したかもしれないが、バチバチにやり合うほどの作品や癖が敵対しているというわけでもない。
逆に言えば、式部と納言が推し被りしていたら歴史で習う「戦争」の数が1個増えていたかもしれないということである。
まさか千年も読まれ続けたら、本人身悶えしてるかも
このように今も様々な解釈がされ続けている源氏物語と枕草子だが、現在は大河やFGOのように、作品ではなくその作者をキャラとして作品が作られることも増えてきている。
もし紫式部が夢女子だったとしたら、まさに自分がヒロインとなったドラマを作られるのはまんざらではないかもしれないが、壁派の清少納言は「俺を壁から出すんじゃない」と憤っているかもしれない。
ちなみに、今でも漫画の新人賞にはおそらく作者の考える最高のイイ男や女と恋愛をする「ある意味源氏物語」が多数送られてくるそうだ。
だがそれらの投稿作が「現代の源氏物語」として受賞することはほとんどないようである。
誰だって自分が理想とするキャラが活躍する作品を描きたいし、それで評価されたい。
だが、その道には紫式部パイセンというあまりにもでかい壁が立ちふさがっているのである。