第2回目のテーマは「高度プロフェッショナル制度」、通称「高プロ」である。これは、6月28日に採決された働き方改革法案の中の一項目だ。

「生きてる奴は全員働け」

まず働き方改革法案とは、我々労働者が働きやすくするための法案なのだが、別に我々の身を慮っているわけではない。

ご存じの通り日本は少子高齢化であり、今後、深刻な労働力不足に陥ることが予想されている。それを解消するには、少子化の解決を進めると同時に、「今いる奴には全員働いてもらうしかない」のだ。

そのため、現在の労働者や、今まで就業しづらかった女性や高齢者などが働きやすい環境を作ろう、というのが、おそらく働き方改革の真意である。頭数が足りないから「生きてる奴は全員働け」というのだから、ある意味戦前に逆戻りだ。

国の弁としては、「多くの女性や65歳以上が外で働きたいと言っているのだから、それに応えている」ということだ。だが、働くのが好きでたまらないと言う人は極少数で、何で働きたいかというと、働かないと食っていけないからである。

今「働きたい」と言っている人も、本当のところを言うと、できれば働きたくないのではないか。私は35歳にして相当働きたくないので、65歳過ぎたらその2倍は働きたくないと思うに決まっている。

「65歳以上でも働ける社会」以前に「65歳以上でも働かないと餓死する社会」であり、そうしないと国の存続すら危ういのである。

解散しそうなほど遠く感じる「高プロ」の罠

働き方改革の中でも、「残業時間の上限を定める」とか、「正規、非正規の格差をなくす」などの動きはわかるが、「高プロ」については「聞いたことがあるが良く知らない」、という人も多いのではないだろうか。

まず「高プロ」とはどのような人に適用されるかというと、専門的技術を有する、年収約1000万円以上の人である。ここで多くの人が「関係ない、解散!」となってしまうと思う。私も会社員時代の年収が200万円程度だったため、二度と再結成しないほど解散してしまった。「高プロ」があまり知られていないのは、この解散率の高さのせいかもしれない。

関係ないのは百も承知だが、一応この「高プロ」こと「高度プロフェッショナル制度」とは何か確認した。先の条件から「高プロ」にあたる人には、労働時間の規制がない(一週間40時間の原則もない)、休憩時間を与えなくていい、残業や深夜割増を払わなくて良いという制度である。

もしかして、年収1000万稼いでいる奴への嫌がらせ制度なのだろうか、と思うが、健康措置として「年間104日以上、かつ、4週間で4日以上の休日を与えること」になっている。これは一見多いように見えるが、多額の散財を日割りにして安く見せるテクニックの逆で、実際は盆正月祝日抜きの週休二日程度だという。

ここでさすがに、制度を作った側も「高プロさん死んじゃうんじゃね?」と気づいたのか、他にも「勤務間インターバル制度と深夜労働の回数制限制度の導入」「労働時間を1か月又は3か月の期間で一定時間内とする」「1年に1回以上継続した2週間の休日を与える」「時間外労働が80時間を超えたら健康診断を実施する」という、4つの健康措置がある。

これらの措置で「高プロ」さんの命は助かったように見えるが、なんと企業はこのうちの一つを選んでやればOKらしい。おそらく、一番会社にとって楽な「健康診断」を選ぶところが多いのではと言われている。

しかも、「80時間働いたら健康診断」の続きがない。これでは「受けさせたらまた働かせていい」になってしまう。それなら「80時間働かせたあと点滴を打つ」の方がまだ具体的だ。

「今日からお前は高プロ」

一体この制度に何の得が、と思うが、労働時間の規制がない、ということは、仕事が終わったらさっさと帰ることも可能ということだ。報酬が時間に左右されることもなく、生産性が上がり、残業代がないのだから無駄な残業が減る、との意見もある。だが、そのメリットよりも、会社が「能力のある人を定額使い放題」状態になることが懸念されている。

そうは言っても、何せ対象が年収1000万円以上である。通ろうが通るまいが、自分には関係ない、と思っている人も多いと思う。しかし、これは他人事ではない。もちろん「年収が1000万以上になってしまう危険性がある」ということではない。

「高プロ」の定義自体が変えられ、年収はビタイチ上がっていないのに、知らない内に「高プロ」になっているかもしれないのだ。

現時点でも「高プロ」の定義はあいまいで、年収約1000万円というのも確定ではなく、条文の中ではざっくりまとめると「平均給与の3倍以上」と、かなり緩く書かれている。そのため今後確実に基準額が下がると予想されており、過去に「残業代ゼロ」が検討された際に出た「年収400万円」で高プロにされる可能性があるとの指摘もある。

つまり、突然「魔法少女になってよ」のノリで「今日からお前は高プロ」となってしまうかもしれないのである。

今関係なくても、今後関係が出てくる人もいるだろう。私は、会社員の当時は年収200万円で現・無職なので、それでも全然関係ないのだが。