先日、花王の生理用品ブランド・ロリエが打ち出した「生理は個性」というパワーワードに、ツイッターが良い色に焼けた。
その短くもアツいお言葉に、受け取った側も「個性じゃねえよ」と極めてシンプルかつアツい反応を示したのだ。確かに、生理の話をタブー視するのではなく、もっとカジュアルに悩みや情報を共有できるようにしよう、という動きは高まってきている。
その動き自体にも未だに賛否があり、「例え同性であろうと生理の話はしたくない」という人もいるので、そんな人にとって「それじゃ！ 今宵も生理トーーーーク！ と洒落こみますか！」と肩を抱かれて逃げられなくなるような世の中は逆に生きづらいのだ。
ただ、オープンにするかどうかは置いておいて、生理中でもできるだけ快適にすごせる製品の開発や医療による症状の軽減、生理に対して理解のある社会や環境作りは大事である。
だが、どれだけ生理用品のCMで「生理だけど私は元気です！ 」と美人タレントが笑顔で激しく反復横飛びして見せても、女にとって生理は「煩わしいもの」ということは変わらず、酷い生理痛や不安定になる情緒に苦しんでいる人も多いので、とても「個性」などというポジティブなものとして考えられないのも確かである。
しかし、「生理は個性」という強い言葉の切り取りだけを見てバチギレてしまうというのは典型的なツイッター炎上仕草だ。全体や詳細を見たら「全く真逆の意図だった」ということも少なくない。
そんなわけで、「生理は個性」にだけ文句を言うのはフェアではないので、ロリエの特設ページを見に行ってみた。
だがまず「まだページがある」ということに驚いた。最近は企業も炎上に対する火消しが早くなっており、炎上したら即謝罪、企画中止、ページ削除、という超高速ケツまくりを見せるところも少なくない。つまり、ロリエはロリエでこの企画に信念があるのだということが伺える。
……と、これを書いていた段階ではページがあったのだが、その後間もなくプロジェクトは「終了」を告知し、ページも閉じてしまった。そのため、これは在りし日の回顧録となることをご承知おきいただきたい。
そこらの企業炎上とは一味違った“kosei-ful”プロジェクト
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カレー沢さんが炎上の本丸に突撃したところ、そこにあったのは輝く「宝石」でした……
この「生理は個性」企画の正式名称は「“kosei-ful”プロジェクト」と言うそうだ。
「生理」と一言でいっても、人によって千差万別、むしろ女ゆえに己の生理を基準にしてしまい、他人の生理に不理解になってしまうこともある。各々の生理の違いを個性と捉えて受け入れ合い、フォローし合えるようになれば良いというのが意図らしい。
「個性」という言葉にはやはり引っかかるが、自分の生理が軽いゆえに、重い人が生理で休もうとすると「私は生理でも頑張っているのに」などと無神経なことを言ってしまうことはあるかもしれない。自分の生理と他人の生理は違う、ということを理解するのは大事である。
よって、まず「生理に対する8の質問」に答え、己の生理のカタチを知ろうという話になり、診断ツール的なものが設置されている。確かに、生理を分析して、自分にあった製品とか対処法とかを示してもらえるというならありがたいのだが、ロリエがやろうとしているのは、それとはちょっと違うようだ。
「Laurier kosei-ful Finderは、あなただけの生理のカタチを生み出します。生理期間や生理中の様子など、生理に関する8つの質問から『カラー』と『シェイプ』を導き出し、天然石のように美しい”kosei-ful gem”を生み出します。」
これがロリエの企画サイトに書いてある原文ままだ。確かに、詳細を見たことにより、「生理は個性」という言葉の切り取りに対する苛立ちは「恐怖」で消すことができた。
ここで引き返すべきかと思ったが、質問に答えることにより「あなたにお勧めなのは《よもぎ蒸し》股間をガンガンに蒸しましょう」というような有益アドバイスが出て来る可能性もある。
どうやらスマートフォンでしかTRYできないようなので、わざわざQRコードを読み取って起動させてみた。はじまるや否や「音声をonにしろ」と言われたので、もうガンジーばりの無抵抗主義でonにしたところ、当然のように良い感じのヒーリングミュージックが流れ出した。
ここまでくると「Q：子宮で宇宙を感じますか？」という質問が来ても驚かないのだが、質問内容は案外普通であり、重さとか周期とか精神状態や考え方などの自身の生理に関する基本的な質問のみである。
それに答え終わると「あなたのkosei-ful gemができました」という言葉と共に、5角形グラフをモチーフとした、文字通り「天然石のように美しい“kosei-ful gem”」が表示される。
ちなみによもぎ蒸し的なアドバイスは全くなく、本当に「kosei-ful gem」が表示されるだけなのだ。
この「kosei-ful gem」は当たり前のようにSNSへ投稿できるようになっているので、俺が今感じている恐怖をフォロワーにも味あわせてやろうか、と思ったが、こんなことでフォロワー数を減らしたくはないのでやめた。
つまりこれは、企業炎上に良くある「コンプラに対する意識の甘さ」や「消費者との認識のズレ」だとか、そんなチャチなもんではなく、もっと恐ろしい事がロリエに起こっていると考えた方がいいかもしれない。
「個性」は人からもらうもんじゃないよね
この件に関しては、我々がどんなに抗議しても無駄という無力感を感じるが、「生理は個性」という言葉が意図せぬ形で広まり、生理に対する無理解を助長することは心配である。
「個性」という前向きな言葉を使うことにより、生理が本当に辛い人の悩みがカジュアル化され、軽視されてしまう恐れがあるからだ。
本人が己の重い生理を「個性」と受け入れ、前向きに考えるのは良い。しかし他人に「それがあなたの個性！ 神様がくれたギフト！」と言われたら、全身の血管が爆発してさらに血が失われてしまうだろう。
どう考えてもマイナスなものを無理にポジティブ化して他人に受け入れさせようとする動きには、有吉氏が旧ベッキーに送った伝説のあだ名「元気の押し売り」という言葉を捧げたい。