テクノロジーからファンタジーまで

グーグルが米国ナスダック市場に上場してから10年がたちました。一見無敵のグーグルにも弱点はあり、Facebookの対抗馬と騒がれたSNS「グーグル+」は、AKB48グループとそのファンの憩いの場以上の活躍は見せていません。また、欧州では「忘れる権利」が主張され、検索に連動する関連語の削除を迫られています。とはいえ、失敗と現実との妥協の繰り返しもまたグーグルの歴史そのものであり、他方でグーグルグラス、スマホOS「アンドロイド」、自動車の自動運転など「革新」へと挑み続け、超巨大複合IT企業へと成長を続けています。

グーグル帝国の隆盛に、ことあるごとに

「どうして日本にグーグル(のような企業)は生まれないのか」

という議論が起こります。テクノロジーからファンタジーまで、様々な解釈がなされていますが、冷静に現状を分析すれば、答えは2つに集約されます。ひとつは「誤解」で、もうひとつは「グーグル0.2」です。

戦後の焼け野原から

「グーグルのような企業」を、革新的なサービスや製品を、世界的規模で提供する企業と定義します。グーグル以前はヤフーやマイクロソフトがそれにあたり、日本からはこうした企業が生まれていない、と嘆くのですが「誤解」です。

トヨタ、ホンダ、ソニーなどなど、世界を席巻した日本企業の名前を挙げれば切りがありません。エコカーの先鞭をつけた「ハイブリッドカー」はトヨタとホンダ、そのホンダのバイク「スーパーカブ」は、脅威の燃費性能と、優れた耐久性により、いまも世界中で愛されています。音楽を街に持ち出した最初はソニーの「ウォークマン」で「iPod」ではありません。そのソニーのプレイステーション4はむしろ海外で人気を博し、テレビゲーム機なら任天堂も忘れてはなりません。さらに世界のお尻をキレイにしている温水洗浄便座「ウォシュレット」はTOTOの登録商標です。

約70年前に焼け野原となった日本から「世界」に飛び立った企業は多く、「グーグルが生まれない」と嘆くのは現実を見ず、日本を卑下する自虐主義者といっても良いでしょう。

日本のIT企業の正体

一方でIT系の企業に絞ったとき、これまでグーグル的な企業が生まれていないのは事実です。それは「グーグル0.2」な会社が、「IT企業」を名乗り、そう呼ばれていることによります。例えばITバブルを謳歌した「ソフトバンク」。いまはすっかり携帯電話の会社になりましたが、かつてはソフトウェアの「問屋」で、次にベンチャー企業への出資でひと山あてた「投資会社」です。「アメブロ」や「ピグ」のサイバーエージェントもネット広告の代理店で、体育会系の営業会社であることは創業者が自伝で告白しています。どちらもグーグルにおける「検索エンジン」のような、コアな技術をもたなくても、ネット周辺にいるだけでIT企業と呼ばれた「グーグル0.2」なのです。但し、ソフトバンクはスマホというIT環境の提供会社として、サイバーエージェントは、先に挙げたネットサービスにより、名前に追いついたと見ることはできますが。

ところがG社のような企業もあります。祖業は伝言ダイヤルで、一種の情報インフラとみればIT企業といえなくもありません。時流に乗り、順調に事業を拡大していき、ヤフーの登場、グーグルの躍進により、ネットの主役が「検索」になったとき、自前の検索サービスを提供し、そこでの検索結果において上位表示を約束するサービスを開始します。その仕組みは広告費の額により表示順が決まるものです。そんな検索結果を利用するユーザーは少なく、検索市場でのシェアは奪えずに尻つぼみとなっていきましたが気にしません。広告出稿は年間契約の先払いなので、契約にさえ漕ぎ着ければ利益はゲットできるからです。広告効果が乏しくて、損をするのは広告主だけです。

日本初の世界企業へ?

G社の手口はグレーゾーンにまで達しています。グーグルは「リンク」されている数を、コンテンツの人気指標としていますが「購入したリンク」を厳しく規制しています。「購入したリンク」とは、お金を払ってリンクを貼って貰う行為で、これを見逃せば検索結果は歪められてしまうからです。この規制が実際されてから、リンクの販売業者は激減しました。しかし、G社はいまも元気に販売中です。営業トークは「違法じゃない」。グーグルの内規ですから、確かに国内法に触れることはありませんが、購入が発覚した場合、グーグルの検索結果から追放されることをお客に説明しません。

利益のために顧客の利益に目をつぶり、詐欺的ロジックを駆使して契約をゲットするG社。そして程度の差こそあれ、日本で「IT企業」を名乗る会社によく見る光景です。グーグル0.2がどれだけ増えても、進化し続ける本家グーグルに追いつけるわけがありません。

あえて国内のIT企業で、もっともグーグルに近い存在を挙げるなら『LINE』でしょうか。東南アジアを中心に拡がりをみせ4億人を突破したとかしないとか。韓国で人気だったSNS『カカオトーク』にそっくりであったり、そもそも韓国資本で、開発の陣頭指揮を取ったのも韓国人経営者という噂があっても「日本産」と言い張るなら、という条件付きですが。

エンタープライズ1.0への箴言


「技術を持たない『IT企業』がグーグルになれるワケがない」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」