中古車販売の「FLEX」、中古車買取専門の「アップル」といった自動車関連事業を全国展開するフレックスでは、商品や顧客の情報を一元管理するITシステムを構築。店舗と本社をネットワークで結び、リアルタイムな情報共有による販売・買取の機会増や事務処理の効率化を推進している。

この新システム構築で重要な取り組みの1つが、「アップル」店舗スタッフへのiPad mini導入だった。ITによる査定価格算出作業の効率化により、成約率は10%以上も伸張している。

アップル桶川店。常時20~25台の展示スペースがあるため、買取中古車の小売りにも力を入れている

システム化された査定の実施で顧客の安心感が向上

買取査定の業務フローでiPad miniを利用するのは、顧客の車に関するデータの入力だ。現在の車検証にはQRコードが記載されており、iPad miniのカメラ機能を使ってQRコードを読み取ると、車種、グレードの絞り込み、年式、車台番号といった「諸元」情報を取得できる。以前は紙の買取査定メモに、車検証を手差しコピーしていた。それがQRコードから取り込めるようになり、グレードは絞り込みをした中からの選択になったことで省力化ができ、その他の車両情報に関しても記載ミスや記載漏れを削減できた。現在、手入力するのはシフト(AT/マニュアル)とボディカラー、走行距離くらいに軽減されている。

買取査定アプリ「FIT」(Flex Used Car Inspection terminal)の操作画面。車検証のQRコードから読み取った諸元(左)、外観のチェック個所には写真も貼り付けられる(右)

エアコンやカーナビなどのオプション品や付属品などの「装備」は該当する項目にチェックを入れていき、内外装の状態をアプリ画面に従って記録していく。iPad miniの導入効果について、アップル桶川店の店長、荒公志氏は次のように語る。

アップル桶川店 店長 荒公志氏

「最大の改善点は、カメラ機能を使って画像を残せるようになったこと。中古車は一台ごとに状態は違います。それを紙に書いたメモだけで伝えるのは難しいのです。今回、自社開発した買取査定アプリでは、最大10枚の画像を記録できるようになっています。その結果、店舗で実車を見ている営業担当者と査定価格を算出する担当者が、車の状態について共通認識を持てるようになりました」(荒氏)

iPad miniから入力された車のデータは、その場からネットワークを経由して同社のプライシングセンターへ送られる。最近ニーズが増えている出張査定では、ネットワークによる素早い査定依頼はスマートデバイスならではのサービスとなった。以前は、携帯電話による口頭での情報伝達と写メールで対応していたのに比べ、より詳細な情報を扱える。

「iPad miniを使うもう1つのメリットは、お客様に与える視覚的な効果です。以前は手書きされた査定結果をFAXで受け取って、それをお見せして買取価格を提示していましたが、その価格になった裏付けを説明するのが難しいこともありました。今はiPad miniに入力したデータがいったんプライシングセンターに送信され、現場の営業担当者ではない専門の買取査定スタッフから買取価格が返信されることで、安心してもらえるようになりました」(荒氏)

査定結果の画面

手書きされた査定価格と、iPadの画面で見せるのとでは数字の納得感が違う。アップル桶川店では、中古車買取の成約率はiPad miniの導入後に10%ほど向上した月もあるという。最初の価格提示で即決する顧客も増え、成約までのリードタイムも短縮している。

「即断されないお客様でも、もう少しアップルと商談を進めてみようと思われる方が増えています」と、荒氏は満足そうに語った。

買取査定はiPad miniとペンライトを持って、細部まで綿密にチェックする

iPad miniを入力ツールとした会社全体のシステム化

同社が導入した新システムは、中古車の買取査定にスマートデバイスを導入するだけのものではない。従来より課題としていた情報共有の迅速化を実現すべく、情報インフラを全面的に刷新してリアルタイムな情報共有化と有効活用化を進めることが全社的なテーマだった。

フレックス株式会社 買取事業部 業務課 課長 佐藤信一郎氏

「紙の査定メモを使っていた頃は、お客様や車の情報を各店舗でパソコンからローカルファイルのExcelに入力して管理していました。買取契約が成立すると査定メモは経理部門に送られ、契約の手続きが始まりますが、店舗とは別に各種情報をパソコンに入力して管理していました。こうした重複作業を解消させることもシステム化を実施した狙いの1つです」と語るのは、システム化プロジェクトに携わった買取事業部 業務課 課長の佐藤信一郎氏だ。

紙ベースの書類に基づいて部門ごとにデータ化していると、全社的な情報集約が難しくなる。また、ある店舗で査定中の情報は、店舗ごとに個別管理していては他店舗と情報共有できない。リアルタイムで店舗間の情報共有を行いたいという希望もあったという。

ITによる情報の共有化を進めるには、中古車の買取からオークションおよび自社店舗での売却という業務フローの入り口に当たる買取部分をシステム化する必要があった。幸い、グループ関係にある日本ビジネステレビジョン社が自動車ディーラー向けにiPhoneを使った中古車検査アプリを開発した実績があったので、そのノウハウを活用してiPad向けの買取査定アプリを開発した。

情報の入口をiPad miniで電子化すると同時に、全社の情報基盤となるサーバーシステムも構築して、各部門からWebブラウザでさまざまな情報をリアルタイムに共有できるようになった。

「全社の売上推移を集計するにも、以前は月ごとに24店舗分のExcelファイルを集めて集計データを作成していましたが、今では各店舗で入力した実績データは基幹システムに集約されるので、いつでもリアルタイムに確認できるようになりました。店舗のiPad miniやパソコンを使って入力したデータは、そのまま経理部門でも利用できるようになり、データの二重入力も解消されています」(佐藤氏)

iPad miniの実際の店舗活用方法は以下の動画の通りだ。


システム化による販売力向上

iPadを入力ツールとする全社的なシステム刷新により、店舗間でのリアルタイムな情報共有が可能になり、中古車販売の部分でも売上向上の効果が上がっている。同社は基本的に買い取った車両はオークションで販売するが、店舗での小売りも展開している。

「来店されたお客様の探しているモデルがグループ店に在庫しているか、iPad miniやパソコンから検索すれば、その場でお答えできるようになり、販売機会の損失を防ぐ効果があります。以前なら、特定のモデルの在庫を調べるには、全店舗にメール配信で問合せをして確認していました。それに比べると、お客様へのレスポンスは格段に速くなりました」(荒店長)

他店舗の通常在庫にとどまらず、オークションに出品予定の情報でも来店客との商談で提示できるので、もしそのまま成約に至れば、オークションで売却するよりも顧客との結びつきを強化できる。また、以前は買取契約の不成立案件は店舗に紙の資料とローカルのExcelデータとして保管されるだけだったが、システム化によってグループ内で情報共有できるため、いったんは買取契約が不成立となった案件も、他店舗の顧客ニーズに合えば商談を復活させられるようになった。

今後はB to Cへの取り組み強化を視野に

中古車買取部門にiPadを導入して、全社的なITシステムを構築した同社では、今後は買い取った車の自社店舗での販売に力を入れたいと佐藤氏は語る。

「買取査定アプリで入力した情報を自社店舗での販売に活用したいと考えています。例えば、入力した情報が自動的に中古車情報誌やサイトに掲載されるような仕組みです。現状では、買取査定のための写真撮影に限っているので、小売りに使える写真をどうするかなど、まだ解決すべき課題はありますが、現状のシステムをより積極的に活用していきたいと思います」(佐藤氏)

一方、荒氏は「自社在庫をお客様に紹介するのに、現状のスペックだけでなく、見積書まで自動で作成されているような機能追加があると、商談がスムーズに運んで助かります」と要望を語った。

最近は中古車のインターネット情報が非常に充実しているので、価格を比較検討する顧客が多い。しかし、「同じモデルの車であっても、一台ごとに状態が違うのが中古車だから、安易に価格だけで選んで欲しくありません」と荒氏は語る。

「写真やスペックだけでは伝えられない、その車ならではの美点まで精度よく伝えられたらと思います」

そうした決め細やかな情報発信ツールとして、iPadの活用範囲を広げていく取り組みに期待したい。