CXメディカルジャパンは、2012年4月27日に設立されたCRO(Contract Research Organization=医薬品開発業務受託機関)だ。「女性が多いこの業界で結婚や出産後も働ける環境を、また定年を迎えたエキスパートの方に技能を生かす新たなチャンスを創出したい」。同社の代表取締役、間瀬正三氏のこんな思いからiPadを使った業務改革が始まった。

同社はCRA(Clinical Research Associate=医療機関で治験が適正に行われているか監視、確認するスペシャリスト。一般的には「モニター」と呼ばれる)の特定派遣や、教育研修代行を行っている。登録型の一般派遣とは異なり、特定派遣の場合は、派遣元との雇用関係が維持されたまま派遣先での業務に就くことになる。

CXメディカルジャパン 代表取締役 間瀬正三氏

「このとき課題になるのは、基本的に派遣先へ常駐する社員とのコミュニケーションが希薄になることです。これを避けるのに、iPadなどのITツールを活用できないかと考えました」(間瀬氏)

モニターの多くは20~30代の女性で、働きたい気持ちがあっても子育てと仕事の両立が厳しく、思うように働けない場合も多い。また、定年を迎えて都心から離れたところで生活している元エキスパートもいる。こうした人々が働きやすい環境を作るのに同社では在宅勤務を認めたが、この時にもコミュニケーション不足が懸念された。

まずはiPadに慣れるところから

こういった課題をITで解決できないか、という考えから導入されたのがiPadだった。社員全員に15台が配付され、離れた場所にいても密なコミュニケーションが可能な、FaceTimeやSkypeを使った会議が行われることになった。

「社員同士がコミュニケーションを取るうえで最も大事なのは、Face to Faceで話すことですが、例えば子育て中で在宅勤務をしており、出社するのは週に2、3回という方もいます。月に一度は全員の顔を合わせる場を設けつつ、ほかの会議はFaceTimeで行うことで在宅勤務者とも会議できます。画像は鮮明で、議論するのにストレスは感じません」(間瀬氏)

社員の中には年配者もおり、全員が積極的にiPadを使うようになるまで、きめ細かくサポートを続けたという。

「最初に全体説明会を実施し、そのあとは随時質問を受け付けて呼ばれれば、いつでも駆けつけて対応します。せっかく導入したのに使ってもらえない状況を避けたかったので、そうならないために時間を惜しまず対応するよう心がけました」と話すのは、Web事業推進部担当者だ。

労務・総務処理から些細な連絡など多機能なコミュニケーションシステム「Linkage」

「Linkage」はGoogle AppsのアカウントでログインしてWebブラウザのSafariで利用できるコミュニケーションシステムだ。サイフォンの開発により、同社の抱えていた課題を解決するのに一役買った。

Linkageでは、「電話があったので対応してください」「朝の会議は○○さんが休みです」といった簡単な連絡事項を書き込み、共有ができる。社内でも外出中でもパソコンやiPadで利用できるので、手軽なコミュニケーションが実現。その手軽さから些細なことも投稿できるので、抜け漏れのない情報共有ができている。

「在宅勤務の社員、派遣先にいる社員、若い人や年配の人とさまざまな社員がいますが、全員がiPadを使って気軽に交流できるようになり、事務所に頻繁には来られない社員とのコミュニケーション不足が解消しました」(間瀬氏)

メールだと気負って形式的になり、打つのに時間を要してしまうが、Facebookやtwitterの投稿のように気軽にメッセージを送れ、また投稿相手にメッセージが来たことを知らせる「ウィンク」という機能がコミュニケーション活性化に役立っている。メッセージの入力には、キーボードより早く入力可能なSiriを積極的に活用することで、時間短縮に繋げている。

気軽に業務連絡を投稿しやすいインタフェースのコミュニケーションシステム「Linkage」

また、勤怠の登録や交通費申請もLinkageで処理している。

総務部 笠松志保氏

「こうした日々発生する事務処理機能が搭載されたことで、Linkageを使わざるを得ない状況になります。最初は慣れなくても、使っているうちに皆、便利だと感じるようになりました。旅費・交通費は月ごとにCSV出力できるので、給与計算の際にはこのデータを活用します」と話すのは、総務部の笠松志保氏だ。

LinkageではiPadの位置情報と連動し、居場所の共有もできる。離れていてもお互いがどこで何をしているか共有できることで効率的に待ち合わせ場所を決められたり、取引先に「今向かっているところです」とスムーズに回答できる。不測の事態にもオンタイムで対応できることが一番のメリットだ。

また「間瀬さんが今ここにいる!」といったことも見える化され、位置情報の共有そのものが社員にとって楽しく感じられることからiPadの活用も進んだという。

勤怠の登録(左)、交通費申請(中)、現在地情報の共有(右)など、さまざまなことがLinkageでできる

営業ツールやセミナーでもiPadを活用、通話はPHSにして経費削減

Linkageだけでなく、営業ツールとしてもiPadは活用されている。

「今まで紙で行っていたプレゼンをiPadで代替しています。企業案内のパンフレットなどはPDF化してiPadに入れ、iBooksで管理しています。また、セミナーなどではPowerPointで作った資料をPDF化し、iPadで表示させたものをプロジェクタを通して投影しています」(笠松氏)

最初は敬遠していた社員もペーパーレス効果を実感し、iBooksの使い方を覚えて利用している。今ではパソコンより場所を取らず、起動の速いiPadが常に手の届くところにある状態だ。

社員の机の上にはiPadが置かれ、外出中以外でもメモやメール閲覧などで日常的に利用されている

研修ではPDF化された資料をiPadに保存し、iPadとプロジェクタを繋いで投影している

Google Appsの利用にも積極的で、メール、カレンダーのほかに業務報告などをGoogleドライブで共有している。各業務ごとにフォルダを作成し、ユーザー権限を設定することで閲覧者を特定して運用しているという。当然iPadからもフォルダにアクセスできるので、随時アップロードされる営業報告書などは社外からの閲覧も可能だ。こうすることで急遽、体調不良で休んでも、誰もがフォロー可能な環境が整っている。

同社ではiPadを使うのと並行して、音声通話にPHSを利用している。主な顧客の1つである病院ではさまざまな医療機器への影響や患者への配慮から携帯電話の利用を禁止しているため、PHSは必然的な選択肢だったと間瀬氏。また、固定電話のほか、どの携帯キャリアへも一定の条件のもとで国内通話がすべて無料になる料金プランを利用しているため、通信費を節約しながらのコミュニケーションおよびビジネスの活性化も実現している。

iPadと「Linkage」を核とした同社独自のワークスタイル確立へ

今はSafariで利用されているLinkageだが、今後は同社が挙げる改善要望を取り入れたうえで、iPad向けのネイティブアプリケーション化がサイフォンによって計画されている。Linkage上でメッセージを受け取ると通知音を鳴らすなど、アプリにすることで多くの機能追加が可能になり細かな使用感向上が見込めるとWeb事業推進部担当者も期待する。万が一の端末紛失時にも、アプリを遠隔消去することで情報漏えいのリスクを抑えることができる。

また、現在Linkageで利用できるのは勤怠や交通費、旅費精算だが、「今後は人事・給与システムとも連携させたいですね。また当社の業務である人材派遣管理自体も、Linkage上でできればと考えています」(Web事業推進部担当者)

「私は普段、たくさんの荷物を持ち歩いていますが、このようにiPadでできることが増えて、持ち物がiPadとPHSだけになる近未来を楽しみにしています」と間瀬氏はIT活用への意気込みを見せた。

iPadとPHSの導入で全社員のコミュニケーションが活発化した同社では、派遣社員や在宅勤務者も会社にいるのと同じような環境のもと、Linkage機能強化でさらなる業務効率化を目指す。