HDRレンダリング第二の効能~露出のシミュレーションが行える

第一の効能は、埋もれていた低い反射率の陰影が見えるようになる……というようなわかりやすい例だったが、逆に、高輝度の光源で高反射率の材質(金属のような鏡面反射など)では当然、陰影処理の結果はディスプレイ表示色を超えた色(輝度)になってしまう。現在、一部のメーカーからハイダイナミックレンジディスプレイ装置というものが発売され始めているが、まだまだ高価で一般向けではない。

よって、HDRレンダリングによって生成されたフレーム(映像)を、一般に普及しているディスプレイで表示するには、どうしても「表示するための調整(≒減色)加工処理」が必要になってくる。この処理系は「トーンマッピング」(Tone Mapping)と呼ばれ、広義には、この処理を含めてHDRレンダリングと呼ぶこともある。

旧BRIGHTSIDE社(現在はDolbyが買収取得)開発、日商エレクトロニクス社発売のHDRディスプレイ「DR37-P」。コントラスト比20万:1、最大輝度3000cd/平方m

さて、前出の「視覚のダイナミックレンジ」の図に示したように人間の視覚において、人間が知覚できるダイナミックレンジは80~120dB前後といわれる。しかし、実際に一度に色として知覚できる範囲は、見ているシーンの最大輝度、あるいは平均輝度に引っ張られてしまう。

例えばこういう経験があるはずだ。携帯電話を室内で開いたときには液晶画面がよく見えるのに、晴れた日の屋外で開くとほとんど見えない。携帯電話の液晶ディスプレイの明るさは変わっていないのに、見えるときと見えないときがある。

これは、人間の目にある光彩(Iris)という部位が、見ている情景全体の輝度に適応して閉じたり開いたりして、眼球内に通す光量を調整しているために起こる現象だ。室内では光彩を開け気味にして網膜に光を多く取り入れていたので、液晶画面の光も明るく見えるが、屋外では光彩が絞られて網膜への光量が減り、液晶画面程度の輝度では網膜に届きにくくなっていたというわけだ。

HDRレンダリングでは、とても暗い輝度領域からとても明るい輝度領域までの陰影を正しくバッファに記録しているので、そのシーンの平均輝度を求めてから、その値を中心としてトーンマッピングを行えばそのシーンを適正輝度で見ることができる。もちろん、適正輝度範囲以下の階調は死んで黒に落ち込んだり、範囲以上の階調は白に飛んだりしてしまうわけだが、実際我々の視覚もそうなのだから、リアルな視界を再現するという意味合いにおいては、それはむしろ好都合となる。このトーンマッピング工程は、目の光彩が見やすい絞りで見る動作を真似たことに相当するのである。

なお、このトーンマッピングを毎フレーム単位で瞬間に行うのではなく、若干の遅延を伴って徐々に行うと、さらにリアリティが増す。

現実世界でも、暗い部屋から明るい屋外へ飛び出すと、一瞬目がくらむ眩しさに包まれるが、次第に目が慣れていき適正な輝度バランスで情景が目に入ってくるようになる。

この、適正輝度に調整する動的なトーンマッピング処理を、わざと若干の遅延を伴って行うようにしてやれば、「明るさ/暗さに目が慣れていく」様子を表現できるのだ。

こうした動的なトーンマッピング処理は、目でいえば光彩、カメラでいえば「絞り」制御に相当し、こうした光量調整による明暗のコントロールはカメラ用語でいうところの「露出補正」に近い。

HDRレンダリングの第二の効能は、こうした露出のシミュレーションが行えるところにあるのだ。(続く)

「HalfLife2:Lost Coast」(VALVE,2005)より。暗い屋内に目が慣れている状態

このまま屋外に飛び出すと屋外の情景が白飛びして見える

次第に目が慣れてくるが奥の石壁のハイライトはやはり白く飛んでしまっている

やっと石壁のハイライトの陰影が正しく見えてくる。これで屋外に露出が適正となった状態だ

(トライゼット西川善司)