2023年2月13日から20日まで、対戦格闘ゲーム『ストリートファイターV CE(SFV)』の世界大会「CAPCOM CUP IX(CCIX)」がアメリカ ハリウッドで開催されました。

  • 日本語実況は、現地の中継を観ながら国内から配信

「CCIX」は、2022年に世界各国で開催された「CAPCOM Pro Tour」の「オンラインプレミア」「オフラインプレミア」「ワールドウォリアー」の3つの大会で優勝した47人と、「CCIX」期間内で行われる「Last Chance Qualifier(LCQ)」を勝ち抜いた1人の計48人が集結し、2022年度の最強プレイヤーを決める大会です。

選手はまず、「グループステージ」として、8つのグループに分かれてリーグ戦を行います。グループで1位と2位のプレイヤーは、ダブルエリミネーション方式のノックアウトトーナメントに進出。1位はウィナーズサイド、2位はルーザーズサイドでスタートします。

さらに、グループステージとトーナメントの間には、ストリートファイターリーグ(SFL)の「ワールドチャンピオンシップ 2022」も開催されました。「ストリートファイターリーグ: Pro-JP」(日本)、「ストリートファイターリーグ: Pro-US」(北米)、「ストリートファイターリーグ: Pro-EUROPE」(欧州)のそれぞれのリーグの覇者チームが世界一の称号をかけて争います。

まさに、1週間『SFV』づくし。サッカーで言えば「ワールドカップ」、『League of Legends』で言えば「Worlds」、『VALORANT』で言えば「Masters」のような感じです。

  • 2日間かけて「LCQ」を行い、3日間かけて「CCIX」ブロックステージを行い、2日間かけて「SFL: ワールドチャンピオンシップ 2022」を行い、最後の1日で「CCIX」のグランドファイナルを行う、計8日間のイベントです

ちなみに日本人選手は、オンラインプレミアの日本大会で優勝したももち選手、オフラインプレミアである「EVO」で優勝したカワノ選手、ワールドウォリアーの日本大会で優勝したぷげら選手が「CCIX」に出場を決めています。

「LCQ」で「CCIX」に出場する48人が決定。まずはグループリーグからスタート

最初に開催されたのは「LCQ」。「CCIX」に出場するための最後の1枠を現地大会で争います。日本からはガチくん選手、キチパ選手、ときど選手、Shuto選手、ネモ選手、リュウセイ選手、板橋ザンギエフ選手などが参加していました。ベスト16に7名の日本人が残り、最後の1枠も日本勢が取得すると思いきや、19歳の若き中国のベガ使いZhen選手が負けなしの快進撃で優勝し、「CCIX」への出場を決めました。

  • 「LCQ」TOP 16のウィナーズサイドには、5人の日本人選手。日本勢の強さを見せつけます

  • アレックスでルーザーズからグランドファイナルまで駆け上がったキチパ選手。Zhen選手のベガに途中からザンギエフで対抗し、一矢報いるも一歩届かず

グループリーグからは最初から名だたる選手たちが激突。どのグループも、『SFV』ファンであれば名前を聞いたことがあるプレイヤーがひしめきあっており、ここを突破するのも至難の業です。

特にグループFは“死のグループ”と言える状態です。ときど選手にして現在最強のユリアン使いと呼び、「SFL:US」でもUYUを優勝に導いたDCQ選手が敗退してしまうほど。勝ち抜いたMister Crimson選手とAngryBird選手が落ちたとしても同じ印象となるほどの実力者ぞろいのグループでした。

日本勢はカワノ選手がグループ1位通過、ぷげら選手が2位通過でトーナメントに挑みます。ももち選手のいるグループGは、ももち選手とBigBird選手の2強で確定かと思われたところ、「LCQ」から勝ち上がったZhen選手が全勝で1位通過を決めます。

しかも、残り1戦で勝利すれば2位抜け確定のももち選手がZhen選手に敗れ崖っぷちに。しかし、勝利するとグループ抜けが決まるBigBird選手がMono選手に敗退したことで、ももち選手がほぼ死に体からトーナメント進出を果たしました。

  • グループステージの組み合わせ。「LCQ」のZhen選手が抽選の結果、グループGに入り、一気に混戦模様に

  • ももち選手は、最終戦を落として絶望的状況になるも、Mono選手がBigBird選手を破りトーナメント進出を果たします

3つのプロリーグが激突する「SFL: ワールドチャンピオンシップ 2022」

「SFL: ワールドチャンピオンシップ 2022」は、2日間で行われ、初日に予選、2日目に決勝大会が行われます。予選は3チーム総当たりで順位を決めていきます。その結果、1位が「ストリートファイターリーグ: Pro-US」の「UYU」、2位が「ストリートファイターリーグ: Pro-JP」の「Good 8 Squad」、3位が「ストリートファイターリーグ: Pro-EUROPE」の「Mouz」となりました。

2日目は2位と3位が準決勝を戦い、勝ったチームが1位の「UYU」と対戦。そこで勝利したチームが優勝です。対戦形式は日本で行われたグランドファイナルと同様に、上位チームのホームから始まるホ「ホーム&アウェイ事前オーダー制」の3on3対戦です。

アウェイ側は先に出場選手3人を発表し、ホーム側は対戦ごとに選手を発表します。先鋒、中堅勝利で10ポイント、大将戦勝利で20ポイント、同点となった場合は、5ポイントの延長戦で決着を付けます。

これを1セットとし、2セット選手したチームの勝利。「ストリートファイターリーグ: Pro-JP」のグランドファイナルでは、70ポイント先取で決着でしたが、今回は「ストリートファイターリーグ: Pro-US」、「ストリートファイターリーグ: Pro-EUROPE」で採用されたルールで行われます。

  • 1日目の結果により、「Good 8 Squad」は2位スタート。初戦はホームから、決勝戦はアウェイから対戦が始まります

2日目の「GRAND FINALS」では、「Good 8 Squad」と「Mouz」の対戦から始まります。順位が上の「Good 8 Squad」はホーム側からのスタート。2戦目のアウェイで負けても、3戦目でまたホームとして挑むことができます。

1セット目を取った「Good 8 Squad」は、2セット目も先鋒、中堅を取る大健闘。大将戦を取れば勝利でしたが、大将のぷげら選手のバイソンのカウンターキャラ・ララを使うShakz選手が登場し、イーブンに持ち込みます。しかし、延長戦を制した「Good 8 Squad」が決勝へとコマを進めました。

決勝戦の相手は「UYU」。シンガポールの英雄XIAN、韓国の強豪NL、台湾の重鎮OIL KING、そし中国の巨星DCQとアジアのオールスターをそろえた布陣です。

決勝戦は順位が上の「UYU」のホームからスタート。カワノ選手がXIAN選手を倒して先行するも、中堅、大将戦を勝利した「UYU」が1セット目を取ります。続く2セット目は、ホームの「Good 8 Squad」が3連勝で取り返しました。

そして迎えた3セット目。アウェイの不利をものともせず、3連勝を決めた「Good 8 Squad」がみごと優勝。特に、カワノ選手は1セット目でXIAN選手、2セット目でDCQ選手、3セット目でNL選手と、すべて違う対戦相手を撃破です。しかも2、3セット目は大将戦を任されており、優勝の立役者と言える活躍でした。

  • カワノ選手は、3戦目で大将を任せられ、NL選手に被せられたルークミラー戦となりました。負けても延長戦となる戦いでしたが、しっかり勝ちきり、優勝を手にしました

  • 優勝を決めた「Good 8 Squad」のメンバー

日本勢の結果は? 最終日は「CCIX」TOP16のトーナメント

イベント最終日の8日目は、いよいよ「CCIX」のTOP16のトーナメントです。これですべての決着が付きます。2023年のシーズンは『ストリートファイター6』での大会開催が予定されているので、ここで勝ったプレイヤーが『SFV』最後の王者です。

日本勢はカワノ選手がウィナーズサイド、ももち選手とぷげら選手がルーザーズサイドに残っています。カワノ選手の初戦は「LCQ」から勝ち上がった中国の超新星Zhen選手。「ストリートファイターリーグ: Pro-JP」のグランドファイナル決勝戦と同じく秘密兵器のルークで挑むかと思いきや、選んだのはコーリンです。1セット取るも、敗れてルーザーズサイドに移ります。

ルーザーズサイドのぷげら選手は、使用キャラであるバイソンにとって相性の悪いララを使用するIDOM選手との対戦。前日の「SFL: ワールドチャンピオンシップ 2022」でも、MouzのShakzララに敗北していたので、ぷげら選手が苦手としているのが分かります。そのShakz以上のララ使いと言われるIDOM選手の前では、やはり終始辛い戦いを強いられ、敗北となりました。

ももち選手は、Phenom選手に先に2セットを取られるも逆転で勝利を収めますが、次の対戦相手であるNL選手に敗北してしまいます。

そして、ルーザーズサイドに移ったカワノ選手もVegaPatch選手に敗れ、日本勢はすべて敗退となりました。

優勝したのは、ドミニカ共和国のMenaRD選手。グループステージとトーナメントで無敗の優勝を決めました。2017年大会以来の2度目の戴冠です。

  • 「CCIX」のTOP16のトーナメントでは、ももち選手が日本勢で唯一1勝をあげました

  • 2度目の優勝を果たしたMenaRD選手

大会終了後には、辻本社長が登壇し、2023年度のカプコンプロツアー、CAPCOM CUPの開催について発表がありました。

2023年度は新作タイトル『ストリートファイター6』での開催です。さらに『ストリートファイター6』の発売を記念し、CAPCOM CUPの優勝賞金を100万ドル、賞金総額を200万ドル以上にすると言及しました。

今回のCAPCOM CUPの優勝賞金が12万ドルだったので、2023年シーズンの優勝賞金が破格であることがわかります。賞金の高さは話題性にもなりますし、『ストリートファイター6』やCAPCOM CUPなどの競技シーンがより注目されるきっかけになることを期待しています。

  • 大会終了後には辻本社長が登壇。特別大会である2023年シーズンのCAPCOM CUPは優勝賞金を100万ドルにすると発表しました

CAPCOM CUPで感じた世界との差異

さて、今回の大会を通じて感じたことは、常識は一夜にして覆るということです。これまで『SFV』の常識、eスポーツの常識とされていたことの数々が今大会によって変えられてしまったと言えます。

その1つが日本勢の圧倒的な優勢です。対戦格闘ゲームは世界的にみるとそこまで浸透しておらず、『SFV』に限っては日本を中心とする東アジア圏、北米、欧州の一部でプレイされていると考えられていました。なかでも、北米と日本が飛び抜けている印象です。

そのため、CAPCOM CUPの日本人選手出場枠が2つしかないことに対して、「少ない」と言われることがあります。しかし、今回オンラインプレミア、ワールドウォリアーの大会区分が細かくなり、多くの国や地域のプレイヤーが参戦できるようになったことで、見知らぬ強豪を目にする機会が増えました。

「CCIX」のグランドファイナルでは、『SFV』になってから初めてベスト8に日本勢が残れませんでした。もちろん、「SFL: ワールドチャンピオンシップ 2022」では、日本が優勝していますし、日本勢は決して弱いわけではありませんが、世界が思った以上に強いことがわかったのではないでしょうか。

  • 「CCIX」TOP16の途中経過。左側に書かれている8人がTOP8の選手たち。ここに日本勢の名前はありませんでした

次に、日本の最適解が必ずしも世界の最適解ではないこと。日本で『SFV』は守り重視の戦い方が勝利しやすいとみられ、時間をフルに使い切る戦いが多く見られています。

しかし、今回のCAPCOM CUPでは、多くのプレイヤーがアグレッシブな攻めに重点をおいており、残りタイムが40秒を切ることが珍しいくらい、早めの決着をみせていました。戦闘スタイルで言うと、リスクを軽減し、少ないダメージで乗りきる日本スタイルに対して、リスクを冒してでも大きなリターンを得るのが世界のスタイル。遠距離で戦うことが一般的なダルシムですら、Mister Crimson選手に使わせると、前へ前へと攻め込むスタイルになっていました。

最終的に、どちらが正解という答えは出せないのかもしれませんが、日本に浸透しているスタイルが必ずしも正解ではないことがわかるいい機会になったと言えるでしょう。

  • ほとんどの試合でタイムアップはなく、残り40~50秒で決着がついていました

戦い方と同様に、キャラクターティア、いわゆるキャラクターの強さも日本と世界で違いがありました。ベスト16に残った選手が使用するキャラクターの中には、日本では弱体化が著しく、競技シーンでは使いにくいとされたキャラクターも多く見かけました。

Takamura選手が使用する豪鬼、EndingWalker選手が使うED、IDOM選手が使うララ、M.Lizard選手が使うバルログ、AngryBird選手が使うケン、Vegapatch選手が使うファンは、最近の日本のプロシーン、競技シーンではあまり見かけないキャラクターです。

「SFL: ワールドチャンピオンシップ 2022」でも、OIL KING選手やXIAN選手がセスを使っており、その強さを証明していました。

また、キャラクターだけでなく、Vトリガーの選択についても違います。ケンを使う日本人プレイヤーの多くはVトリガー2の神龍拳を使用する印象ですが、AngryBird選手をはじめとするCAPCOM CUP出場のケン使いのほとんどがVトリガー1のヒートラッシュを使っています。

  • 日本ではキャラクターティアが下から数えたほうが早いと言われる豪鬼。その豪鬼を使って、TOP16のウィナーズに残ったTakamura選手

  • トリガー発動で逆転が見込めるキャラとしての存在感すら示したAngryBird選手のケン

最後に若手の台頭です。対戦格闘ゲームはほかのeスポーツタイトルに比べ、ベテランが活躍するタイトルと言われています。しかし、今大会ではプレイ歴3年で16歳のEndingWalker選手が5位タイに、19歳のZhen選手が2位になっています。

ベスト16に進出した選手の多くは20代と若返りの気配もみせています。日本でもひぐち選手、ヤマグチ選手など若手が台頭していますが、ももち選手の弟子企画で弟子入りしてから8年程度経っており、若手といえどもそこそこの経験を積んできているわけです。わずか3年で世界5位まで登り詰めた選手がいることは、新たな潮流となりそうな気配です。

  • ヨーロッパのワールドウォリアーの予選5戦と決勝をすべて勝利し、「CCIX」への出場を決めたEndingWalker選手。グループステージでも無類の強さを発揮し、一気にスターダムへのし上がりました

  • 「LCQ」から負けなしTOP16まで駆け上がったZhen選手。ガチくん選手、キチパ選手、Shuto選手、ももち選手と、日本人強豪選手を倒し「CCIX」で2位の成績を収めました

おまけとして、他ジャンルからの参戦も新たな常識となるかも知れません。DCQ選手は元々『League of Legends』のプレイヤーです。ほかの対戦格闘ゲームから『SFV』に移ってきた例は多々ありますが、まったくの異なるジャンルの選手、しかもMOVAからはあまり聞かれない事例でした。

日本でもササモ選手が『League of Legends』のプレイヤーからの転向組ですが、今後はシューティングゲーマーはシューティングのみ、MOVAはMOVAのみでタイトル間移行する常識から、「ゲームがうまいやつはなんでもうまい」といった例が生まれるかもしれません。1つのタイトルで「良いところまでいっても頭打ち」になってしまったとしても、ほかのジャンル、タイトルに移行することで活躍できる可能性もあるのではないでしょうか。

ともあれ、壮大な“カプコンウィーク”となった1週間が終了しました。『SFV』史上でもっとも盛り上がった大会になった気がします。このままの勢いで『ストリートファイター6』に移行し、競技シーンがより盛り上がっていくことを楽しみにしています。

©CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.