製造業におけるDX推進組織の在り姿
鈴木: 次に、DXの推進を担う機能をどこに持つべきかという議論をしたいと思います。製造業においては複数の事業領域にまたがって経営をしている企業が多いと思いますが、そうした観点では、DX推進を担う機能ないし組織はどのような持ち方をするべきでしょうか。
相磯: 複数の事業領域にまたがる製造業の企業においては、事業部ごとで製品コードやデータ管理といった情報面での仕事のやり方が異なるため、コーポレート側が主導でDXを推進するよりも、事業部側が主導して、DXを推進した方が早く物事が進むと考えられがちです。しかし、事業部側が主導でスタートしてはみたものの、社長をはじめとした経営層からは意義や成果などの取りまとめも要求されますので、そうした対応を行うためにもコーポレート側に取りまとめ機能が必要になってくると考えます。
鈴木: 事業領域が多岐にわたる製造業では、事業部側がDX推進の主体的な機能を担い、コーポレート側で取りまとめ機能を担うという形が一案ということですね。まさに「中央による整合」(※)というタイプかと思います。
※ 第2回に掲載した「デジタル成熟度に応じたDXMOの4タイプ」でせつめい。中央/コーポレートに小規模なデジタルチームが存在し、事業部で進行するDX関連の取り組みを横並びでモニタリングし、必要に応じて整合させたり、アドバイスをしたりするDX推進組織のタイプ。
相磯: そうですね。しかし、コーポレート側のDX推進担当に昔ながらの情報システム部門の人材しかいないことが多く、事業部側と十分なコミュニケーションが取れずに検討が進みにくいという課題も内在していると考えます。
鈴木: 先ほども話のあった人材面での課題ということですね。
能登: また別の企業では、DX推進担当が現場の叩き上げであり、かつDXへの勉強意欲も高いという、DX推進がうまくいくパターンであったものの、実際には自前でやりきれない部分があり、ソリューションベンダー等と体制を組んでいるといったこともありました。
鈴木: とりわけ製造業という文脈においては、DX推進組織に必要な人材に関して、一義的には内部登用をしつつ、外部登用によって信頼性や拡張性、また知見等を補うという形になりそうでしょうか。
能登: とはいえ、注意が必要な点もあると考えています。これは他業界にも当てはまりますが、特に製造業においては、自分たちとは異なる出自の意見を聞いてもらえない文化である可能性があって、そのような場合は人材に関して、外部調達よりも時間はかかりますが、内部育成に注力したほうが良いケースもあるかもしれません。内部で人材を育成し、コーポレートと事業部のDX推進部署を行き来するような仕組みを作るのも一案と考えます。
今後の製造業におけるDX推進
鈴木: 最後に、今後の製造業におけるDX推進のあり方について取りまとめていきたいと思います。
能登: 個別の部門でDXの推進を始めているものの、コーポレートの観点として、全体像をつかめていないという状況が散見されます。そのような問題意識から、CDO(Chief Data Officer)のような、データ活用を目的とした組織を立ち上げる企業もあり、その立ち上げ支援や、立ち上がってからの組織運用支援も、PwCが行う事例として出てきています。
相磯: DXを推進する雰囲気は醸成されつつあるものと見立てています。マネジメント層やコーポレート部門はBtoBという自らの業態のみならず、BtoCの発想/アイデアを活用することも一案と考えており、そうした際にPwCのような外部機関が支援していければと考えています。
丹羽: BtoBを主とする製造業がBtoCの発送を持つことは確かに重要です。例えば、国内外の大手ECサイトにおけるデリバリーや物流に対する消費者の意識が高まっていることは、物流部門において応用できることもあるはずです。消費者の視点からも物事を見据え、変革を進められるようなストーリーをメッセージとして出していくことも、重要な施策の一つかもしれません。
製造業、とりわけ重工業メーカーでいえば、何らかの契機により一気に動き出す業界と考えています。今まではトランスフォーメーションとトランジション、2つの観点で進め切れていない部分がありましたが、一方で今後実現できることが多分にあるのではないかという期待があります。また人材の調達に関して、自前主義である必要はなく、適宜外部の会社とコラボレーションしながら進めていくというのが肝要となってくるものと考えます
今回は、製造業という特定の業界にフォーカスをあて、そこでのDX課題と今後の推進に関わるあり方を紹介してきました。次回は、先般PwCコンサルティングが実施した「日本企業のDX推進実態調査2022」の結果から見えてくる、DX推進上のキーアジェンダについて紹介します。
著者プロフィール
丹羽 正/PwCコンサルティング合同会社/Industrial Products & Services/Partner
20年以上の経営コンサルティングを通じ一貫して、『日本企業のグローバル経営力・競争力を高める』をテーマに、日本企業の成長戦略作り→投資実行支援→統合支援も含めた組織・業務構築→事業再生・再編を一気通貫で支援している。
相磯 浩史/PwCコンサルティング合同会社/Industrial Products & Services/Senior Manager
大手セラミックメーカーを経て、当チームに参画。重工業メーカー、自動車部品メーカー、石油化学メーカー、セラミックメーカー、容器メーカー、等といった製造業を中心に、販売管理・調達管理・生産管理・在庫管理・品質管理、等の領域における業務改革・業務改善や、ERPパッケージ又はスクラッチ開発によるシステム構築の案件へ約19年従事。
能登 大輔/PwCコンサルティング合同会社/Industrial Products & Services/Senior Manager
外資系コンサルティングファーム数社を経て、当チームに参画。自動車OEM、エンジニアリング会社、等の製造業を中心に、15年に渡るコンサルティング経験を有する。直近では、プロセスプラントのO&M業務に関するデータ活用・分析プロジェクトのリーダー、プロセスプラントDXソリューション(PDX)開発のリーダーとして従事。
鈴木 一真/PwCコンサルティング合同会社/Transformation Strategy/Senior Manager
日系コンサルティングファーム、総合系コンサルティングファームを経て、当チームに参画。製造業を中心に、15年に渡るコンサルティング経験を有する。DXを中心とした戦略立案やDX組織の立ち上げに多数従事。また、中期経営計画の策定や長期ビジョニング、シナリオプランニングを活用した未来予測等に関するプロジェクトのリードを経験。