バルミューダから6月26日に発売になった、ワイヤレススピーカー「BALMUDA The Speaker(バルミューダ ザ・スピーカー)」。音楽の生演奏の"体験"をサウンドだけでなく、視覚的にも再現・表現するという前代未聞の製品だ。

その誕生秘話や音作りへのこだわりについて訊いた前回の前編に続いて、今回の後編では"ライティング"機能にまつわる開発エピソードと、"バルミューダらしさ"を象徴する意匠デザインとギミックについて、開発担当の3人の中心メンバーに語ってもらう。

  • 6月26日発売の「BALMUDA The Speaker」。意外にも、バルミューダが手掛ける初のオーディオ製品だ

    6月26日発売の「BALMUDA The Speaker」。意外にも、バルミューダが手掛ける初のオーディオ製品だ

まるでステージ、LEDが生み出すライブ感の秘密

"ライティング"機能の中核となっているのは、内部にある3連のLEDユニットだ。柱状で、上下の2カ所に備えたLEDがそれぞれの音楽に連動して光る仕組み。また、3つのLEDユニットを外側から照らし出すステージライトも備わっている。

  • 真ん中の3本の柱状のユニットがライティング機能の中心。それぞれ上下に音と連動して光る小さなLEDを備え、外周にも3つのLEDユニットがあり、組み合わせで多彩な光を表現する

光り方は3通り用意され、"Beat"、"Ambient"、"Candle"の3つのモードに切り替えられる。同じ楽曲でも、光の色のわずかな差や光量、明滅速度の緩急などの組み合わせを変えることで、緻密で複雑な輝きを表現し分ける。

最もダイナミックに輝く"Beat"モードは、ロックをテーマに寺尾社長も加わり1年ぐらいかけて調整が行われた。バルミューダ 研究開発室の浦純也氏は、3本のユニットを3人のボーカルグループのように見立てて、次のように説明した。

「良く見ると3人違う輝き方をしているんです。センターはリーダーとして後ろの2人よりキレよく、つまり明滅が速く、そして強く光ります。左右は音のLとRに連動しているので、楽曲によっては複雑に輝きます。3本のユニットとも上下で反応する周波数帯を変えてあるので、上下で異なる光り方をするように設定しています」

ジャズがモチーフだという"Ambient"モードは、下のステージライトをメインに光らせているという。「反応する音の周波数の設定はBeatモードと同じなのですが、光らせるLEDや明滅具合がBeatモードとは異なります。ジャズのステージでは、あまり動かない演奏者をスポットライトで照らしているイメージなので、ステージライトの中心に3本の柱が浮き出るような輝きを意識しています」

"Candle"モードは音に関係なく常にゆらぎのある光を灯す。「キャンドルのような寛ぎ感あるライティングは、楽曲以外にもラジオを聴くときにもおすすめです。ずっと見ていられる穏やかなゆらぎ方にもこだわりを込めています」

  • "Beat"、"Ambient"、"Candle"の各モードのイメージ(上から)

独自のアルゴリズムを開発するにあたって苦労したのは、「音量によらない光量をどのように実現するか」だったという。「周波数を何Hzで切り分けるのか、光と音の時間差と解像度について考察し、0.004秒の速さで音を光の輝きへと変換する独自のアルゴリズムを開発しました」と浦氏。さらに「音に対する光の反応の鋭さの調整も大切でした。元ミュージシャンの社長は厳しいんです。見せるたびに『まだ遅い』と言われて、システムの見直しや調整作業に半年ぐらいかかりましたね」と、笑いを交えて明かした。

一方、ライティング部分でも微妙な調整が続いたという。「試作機を作り込んでいくと当初の輝きが再現できないことが続きました。感覚的ではなく、技術的に何か違うと感じていて、突き詰めたところ、LEDの照射角が違っていたんです」とクリエイティブ部の髙野潤氏。「実はLED管に配置した光の色温度も上と下を変えています。下についている光のほうが配置的に目に入りやすいので、これを補正するためです。楽曲が持っているエネルギーを、耳だけでなく、視覚からも表現するということにとにかくこだわっているので、部品の選定もとことん追求しました」

  • 3本のLEDユニットは、"トリオ"バンドやグループのイメージ。外周のライトはステージライトがモチーフとなっている。それぞれに微妙に輝き方や色温度まで繊細に光り分け、ライブステージにおける高揚感や躍動感を巧妙に再現している

コンセプトがそのままカタチになったデザイン

外観のデザインについては、「初期の段階からほぼ今のかたちに近いものになっていました」と語る髙野氏。「"デザインファースト"ではなく、"体験ファースト"で、最初から最後まで体験をきちんと提供するために渾身の力を注ぎました」と続ける。

  • 初期試作機。大まかな構造自体は変わっていないが、はじめのうちはLEDユニットは4本だった

一方、バルミューダとしては、初の"クロモノ"家電の参入となる本製品だが、デザイン上大事にされたのは、"クロモノが持っているいい道具としての雰囲気"だという。

「クロモノへのリスペクトを大事にデザインをしました。クロモノとしての上質感をまとわせるために、当社製品としては初めて外部部品をすべて塗装で仕上げました。光を使う製品なので、プラスチックならではのテカリをなくしたい。となると、中の部品も塗らなければなりません。表面に布を貼ってみたりもしてみたのですが、デザイン家電っぽさが強くなってしまいました。クロモノ家電の道具としての雰囲気や上質さを参考に仕上げていきました」

それ以外にも、例えば外周のパンチ穴にもデザインにおけるこだわりが込めらている。「構造的にスピーカーの直径に対して中の空間の体積が必要なので、本来はないほうがモノ作りしやすいのですが、スピーカーらしさを演出するために、デザイン上あえて設けました。文字の刻印もクロモノ家電を感じさせ、持っている人の心をくすぐる要素の1つ。フォントなど全体の雰囲気を含めてこだわって選定しています」と髙野氏。

  • 左からLEDユニットが3本になって以降の試作機の変遷。右端が最終形で、基本の型は同じだが、それぞれ微妙な違いがあり、徐々に洗練されていった

これまでのバルミューダの製品は、ダイヤル式などどこかアナログっぽさを彷彿させる操作部のインターフェースも印象的だった。ところが、今回は少々趣が異なり、シンプルなボタンが4つ並ぶのみだ。その理由を「今回、ブルートゥースにつなげて使う製品なので、メインの操作はそちら側に渡そうということで、本体のボタンは4つに絞って直観的に操作できるようにしました。バルミューダのデザイン思想としては、"足さない"というのもありますから」と説明する。

  • 操作部のデザインラフの一例

しかし、操作音にはいつもどおり遊び心を忍ばせる。「操作部がシンプルになったぶん、"音"にこだわろうと。とはいえ、今回は"ボーカル"を大事にしたオーディオ製品。音声によるガイドだとファンタジーすぎてしまう。そこで"いい音を体験できる道具"というのを表現するために、ギターや木琴の音色をベースにした操作音を採用し、バルミューダらしい遊び心を持たせています」(髙野氏)

  • "クロモノ"らしさを追求するために、あえて本体に文字を刻印した。フォントやバランスなどもオーディオ製品らしさを意識して選定されている

「絶対やらない」を翻した、「らしさ」満載の製品

「オーディオ製品は絶対にやらない」という社長の決意を全面的に翻したからには、やはり"タダモノ"ではない、唯一無二のスピーカーとして登場した今回の製品。初のクロモノ家電でもあるが、ハイエンドなスピーカーではなく、"音楽好き"を意識した製品であるというのがなんともバルミューダらしい。その反響についてマーケティング部の中尾大亮氏は次のように話した。

「ありがたいことに4月の製品発表以来、多くのご予約をいただいています。誰もが音楽に対してそれぞれの思い出があると思います。この製品が提供する音楽の輝きは、あの曲も聴きたいな、と久しぶりに再会する楽曲もあり、当時の思い出が蘇ってくるのを感じています。オーディオ好きだけのためではなく、すべての音楽リスナーに、製品をとおした新しい音楽体験をお届けできればと思います」

一方、照明器具としては、2018年にLEDデスクライト、2019年にLEDランタンを発売したのに続き、第3弾の製品とも言える。しかし、これまでは"集中するため"や"寛ぐため"という目的を究極的に追及した機能的・実用的な製品あったのに対して、今回は"楽しむため"というエンタメ的なまったく毛色の違う製品だ。同じ"光"を追求した製品でも三者三様で消費者にまったく違う"価値"を提案しているところにバルミューダらしさを感じる。

  • 髙野氏によるCGデザイン画の一例

それ以外の製品でも、例えば空調製品であったり、調理家電であったり、"生活をよくするため"の実用的な道具であったが、BALMUDA The Speakerはどのカテゴリーにも属さない異色の製品だろう。また、従来のバルミューダの製品では、どちらかと言うと実用的な製品に遊び心や色を添えるための脇役として用いられていた音と光という要素が、主役として躍り出ているのだ。バルミューダというブランドが持つ歴史と個性が詰まった、実は"集大成"とも言える製品なのではないだろうか。

  • お話を伺った、バルミューダ 研究開発室の浦純也氏、クリエイティブ部の髙野潤氏、マーケティング部プロダクトマネージャー 中尾大亮氏の3人