1979年に初代が発売されて以来、今年で40周年を迎えた、パナソニックの温水洗浄便座「ビューティ・トワレ」。およそ四半世紀の間、使い勝手は毎年のように改善されてきた。中でも技術的なブレークスルーとなったのは、業界で初めて"瞬間湯沸かしシャワー"方式を採用し、節電性を大いに高めた1997年の「DL-GXシリーズ」だったが、実は同時期に開発を始めていたもう1つの技術があった。
"瞬間式"の暖房機能が大きなブレイクスルーに
その技術がようやく実用化された、2005年に発売されたのが業界初の瞬間暖房便座を搭載した「DL-GWシリーズ」だ。温水洗浄機能と同様に、便座の暖房機能にも"瞬間式"を採用することに成功した。パナソニック アプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部 トワレ・電気暖房商品企画課主務の三木達也氏によると、瞬間湯沸かしから8年の歳月を要したほど、かなりハードルが高い技術だといい、「今でも純粋に瞬間的に便座を温める技術が確立できているのは弊社だけだと思います。それくらい、なかなか真似ができない技術です」と語る。
仕組みそのものは、センサーで人がトイレに入ったのを感知すると通電を開始するというもので、「現在の製品は3秒ですが、開発当初は、トイレに入り、衣服を脱いで座るまでの6秒間に一気に温めることを実現しました」という技術だ。
そのモノづくりで応用されたのが、電気カーペットなどで使われている電熱線の配備技術。「便座の内部にグルグルと配線された電熱線が入っているのですが、ずっと温めておくタイプの便座では太くて短かったものを、細くて長いものに変える必要があるのですが、ねじれたり曲がったり応力をかけずに配線するというのは実はとても難しい技術なのです」と三木氏。
瞬間給湯の仕組みと合わせた省エネ効果は75%にものぼった。その後も改良が続けられ、2012年以降のモデルからは待機電力もほぼゼロという仕様設計が達成されている。
また、便座の素材も従来のモデルでは、出力を上げて一気に温めるために、電熱性の高いアルミの便座が用いられていたという。「ヒーターをアルミの便座の裏側につけて熱伝導を高めていましたが、底側の樹脂のパーツを組み合わせるため、その構造だと継ぎ目がどうしてもできてしまって、すき間に汚れが溜まりやすいなどの問題がありました。そこで現在は便座も樹脂の素材になっているのですが、樹脂はアルミほど熱伝導が高くないため、表面は極限まで薄くしています。しかし、それだけだと脆いため、堅牢性を高めるために裏から樹脂で補強し、さらに底側の樹脂でサンドイッチする3枚構成にして溶着させて、最後にバリの部分を完全に削って仕上げています」と三木氏。
新しいトレンドとなった「手入れのしやすさ」
ここまでは温水便座としての進化が主流だったが、2016年にはトイレの新たな快適性を訴求しようと、"泡コート機能"を搭載した「DL-AWKシリーズ」が発売されている。現在の「ビューティ・トワレ」において、もっとも個性を打ち出すための目玉とも言える機能の1つだが、共働き世帯が増加した昨今、「トイレ掃除を少しでも楽にしたい」という消費者のニーズに対して、「便座を取り替えることで便器をキレイに使ってもらうという機能で応えたかたち」だという。
タンクに台所用中性洗剤を入れることで、毎回、"泡"を発生させて便器面をコーティングできる。清掃の手間を省くだけでなく、便器の内側の表面を泡で覆うことにより、便器に汚れをつきにくくし、付いた汚れも落ちやすくする効果もあり、泡がクッションとなることで尿の飛び跳ねも防ぐことができるため、トイレ掃除が月に1回程度で済ませられるという。
しかし、設置される便器の形状や大きさは多種多様。そこでどのような便器であっても内側を全面的に泡でコーティングできるようにするために、さまざまな種類の便器を用いて泡の噴出方法が検証されたそうだ。
2018年に発売された後継の「DL-AWMシリーズ」では、泡噴射用のノズルが2方向になり、より広範囲にコーティングできるように改良された。また、最新モデルは25通りの「おしり洗浄」が選べる。その仕組みは「まっすぐに噴き出す水流と渦を巻いて噴出する水流の2つの水路を組み合わせています。洗浄幅と強さをそれぞれ5パターンに切り替えられるので、その掛け合わせでトータルで25パターンということです」とのことだ。
40年でこれだけの仕組みを持つデバイスに進化した「ビューティ・トワレ」だけに、中の構造を見せてもらうと、驚くほどに複雑だ。しかも、かなり特殊な形状かつ限られた大きさの中に、よくもこれだけいろいろな部品が組み込んだものだと感心してしまうほどだが、中でも難しかったのは泡の機能だったようだ。
「泡を出す仕組みとしては簡単で、水に洗剤を混ぜた溶液にポンプで空気を送り込むことで泡を作ります。しゃぼん玉を作るのと同じようなイメージですね。ただ、その際、洗剤を1滴ずつ注入する仕組みというのが難しい。人工透析のポンプと同じ原理をそのまま応用し、実現しています」
将来の温水洗浄便座はどう進化する?
このように1979年の初代から進化を続けてきたパナソニックの「ビューティ・トワレ」だが、"トイレを快適空間にする"というコンセプトは一貫してブレずに開発が行われてきた。「今後もその方向性は決して変わることはありません」と語る三木氏だが、今後の方向性については次のように語った。
「快適性や清潔性、お手入れのしやすさといった、温水便座としての本質的かつ実用的な部分での進化にもまだまだ先があると考えています。また、パーソナルな密室空間であり、比較的安定した時間に必ず行くトイレは、昔から日々の健康管理をするのに向いていると言われてきました。ここはIoTの活用も含めて当然検討していきたいと考えています」
温水洗浄便座の普及率は国内で既に8割を超えているというが、一方で量販店などに出向いて自発的に購入しているというユーザーはわずか2割程度に留まるという。
三木氏は、「新築やリフォーム時に設備として最初から設置されていたケースがほとんどです。"水回り"って聞いただけで、どうしてもハードルが高くなっているところがあるようですが、温水洗浄便座はかなり規格が統一されていて、実は自分でも簡単に設置ができます。消費者の人にそういったことを知っていただき、これからは他の家電と同様にもっと気軽に購入していただいて、使えるような製品にしていきたいと思っています」と、「ビューティ・トワレ」のもう1つの将来像を語ってくれた。