パナソニックから2021年10月に発売された、「セパレート型コードレススティック掃除機 MC-NS10K」(以下、MC-NS10K)。充電ドックを兼ねた集じんボックス「クリーンドック」で、スティック掃除機本体内のゴミを充電時に回収し、ユーザーのゴミ捨ての手間を減らしてくれる製品だ。

  • パナソニック セパレート型コードレススティック掃除機 MC-NS10K

    パナソニックの「セパレート型コードレススティック掃除機 MC-NS10K」。集じん部を充電ドック側にも設けた、新しいスタイルが特徴だ

スティック掃除機のダストボックスは、一般的に本体に搭載する。そのため、本体側のダストボックスを小型化した上で、充電ドック側にも集じん部を用意したMC-NS10Kの仕組みは珍しい。この仕組みを採用した経緯を、パナソニック くらしアプライアンス社の担当者に尋ねた。

「一本の棒」を目指した、パナソニックの新たな提案

MC-NS10Kの企画が始まったのは、2019年ごろ。デザイン部門からの提案が発端だった。デザインセンターAD1部の藤田和浩氏は、その経緯を次のように明かした。

「今回は、デザイン部門からの提案で開発が始まりました。毎年、通常の製品企画と並行して、製品のちょっと先の姿を示した提案をデザイン部門から行う『先行提案』のアイデアのひとつでした。

現在、掃除機は充電式のスティックタイプが中心になっています。しかし、『掃除をしている場面』だけで使い勝手を考えていては、新たな提案ができないという課題がありました。

その一方で、究極的に軽く、ストレスなく使えることを重視して、その他の条件を一切除外した場合、ほうきのような一本の棒状の掃除機が理想ではありました。ですが、モーターやダストボックスといった、掃除機に不可欠な要素が加わることで、結局見た目にも同じようなものになっていたんです」(藤田氏)

そんな中、若手社員の1人が「充電器側にダストボックスを移動すると、本体は一本の棒状にできるのでは」と発案。ダストボックスを充電台側に分離した棒状の提案モデルを試作し、これが今回のMC-NS10Kの原型となった。

「その提案モデルが社内の各所で評価されて、事業部の正式なプロジェクトとして開発がスタートしました」(藤田氏)

商品企画を担当した、ランドリー・クリーナー事業部 クリーナー商品企画課の重藤元暢氏は、その後「まったく新しいかたちなので、そもそも量産化が可能なのかも含め、技術部門に加わってもらい、まずは試作品の開発に着手しました」と開発経緯を振り返る。

  • 商品企画担当のランドリー・クリーナー事業部 クリーナー商品企画課 重藤元暢氏

    商品企画担当のランドリー・クリーナー事業部 クリーナー商品企画課 重藤元暢氏

技術設計を担当した、ランドリー・クリーナー事業部 クリーナー技術部 設計課の水野陽章氏は、「ゴミを外側に移送させる、その着眼点がおもしろいなと思いました。でもよく考えてみたら、技術部門でも、通常の掃除機を評価するとき、ダストボックスの中を空にするために、別の掃除機で吸っていました。技術とデザインの着眼点が一致していて、(開発が)面白そうだなと思いました」と当時の心境を語った。

掃除という行為「全体」をストレスフリーに

パナソニックでは、掃除機全体のフィロソフィーとして「ラクに使えてしっかりキレイ」を掲げている。改めてその原点に立ったとき、製品コンセプトの根幹に変化があったという。

「これまで、掃除機の開発では『掃除中のこと』を中心に改良・改善してきました。ですが、『掃除という行為全体』を考えてみた場合、掃除機を手にするところから、掃除中、後片付け、メンテナンスまで、一連の流れが掃除であって、それぞれに面倒くさいところがあります。そこで、準備から後片付けまで含めて徹底的に負担を軽減し、掃除の全体をストレスフリーにすることを、製品が目指すべき大きな軸となるコンセプトに設定しました」(重藤氏)

  • 集じん部を本体から切り離し、紙パック式を採用したMC-NS10K。このスタイルは、掃除機を取り出してゴミを吸い取るだけでなく、充電台に戻したりゴミを捨てたりと、一連の掃除にまつわる行為をスムーズにすることを追求した結果でもある

    集じん部を本体から切り離し、紙パック式を採用したMC-NS10K。このスタイルは、掃除機を取り出してゴミを吸い取るだけでなく、充電台に戻したりゴミを捨てたりと、一連の掃除にまつわる行為をスムーズにすることを追求した結果でもある

まずは、充電台側にダストボックスを移行するコンセプトが機器として成立するのか、その実現性をプロトタイプで確認。ある程度メドが立った段階で、細部を詰めていくという流れで進められた。

  • 技術設計担当のランドリー・クリーナー事業部 クリーナー技術部 設計課の水野陽章氏

    技術設計担当のランドリー・クリーナー事業部 クリーナー技術部 設計課の水野陽章氏

水野氏によると、ダストボックスを内蔵した充電台「クリーンドック」の設計・開発で特に苦労したのは、掃除機本体からゴミを移送させる吸引力の調整だった。

「当初、本体内のゴミをクリーンドック側に吸い込むにあたり、単にクリーンドック側に強いモーターを入れればよいものだと思っていました。しかし、強い力で吸引し続けても、フィルターに引っかかって取り切れないゴミが残ってしまいました。

そこで解決策として思いついたのが、一度吸引力を下げて、引っ掛かったゴミを1回緩めるという緩急をつける方法です。とはいえ、吸引力を落とし過ぎると、次にモーターが回転し始めるまでに時間がかかってスムーズでなくなりますし、ゴミも緩まなくなるので、モーターの出力をあまり落とすことなく緩急をつける、絶妙なバランスを何パターンも作って評価しました」(水野氏)

  • スティッククリーナー本体を「クリーンドック」に戻すと、ジョイント部分を通じて、本体側で集めたゴミがドック側に吸い込まれ、紙パックに移動する仕組み。単にドック側の吸引力を高めただけではうまくいかず、一度吸引力を弱くしてから再び強め、緩急をつけることで解決した

    スティッククリーナー本体を「クリーンドック」に戻すと、ジョイント部分を通じて、本体側で集めたゴミがドック側に吸い込まれ、紙パックに移動する仕組み。単にドック側の吸引力を高めただけではうまくいかず、一度吸引力を弱くしてから再び強め、緩急をつけることで解決した

本体用のモーターは、MC-NS10Kのために一から開発されている。ヘッドには先発の掃除機で採用して好評の円すい形「からまないブラシ」を配置。これは髪の毛や糸くずが絡みにくい機構だが、本体のサイズに合わせて小型化を図った。

「からまないブラシの機構は既存モデルと同じですが、MC-NS10Kはヘッドが小さくなったことでゴミ取り能力も変わるので、検証も一から行いました。棒状のスリムな形状を実現しながら、モーターをはじめとするすべての部品を小型化、配置の最適化を行い、かつゴミをしっかり吸えるというすべての条件を満たすのが難しかったです」(水野氏)

  • 他のモデルで採用済みの「からまないブラシ」をMC-NS10K向けに開発。基本的な構造は共通しているが、本体のサイズに合わせてコンパクトにしたことで、性能評価を再び一から行わなければならなかったそうだ

    他のモデルで採用済みの「からまないブラシ」をMC-NS10K向けに開発。基本的な構造は共通しているが、本体のサイズに合わせてコンパクトにしたことで、性能評価を再び一から行わなければならなかったそうだ

加えて、同時に考える必要があったのは「手元にかかる負担」。従来のスティック掃除機のような本体側のダストボックスを排したことにより、当然ながら全体の重心バランスは大きく変わる。

「手元に負担がかからないよう、重心を下のほうに移動させるのは開発初期から意識していました」と水野氏。重藤氏も、「一般的に、下に重心があると取り回しが悪くなりますが、今回のセパレートコードレスは下部にダストボックスがないので、家具の下を掃除するときなども操作しやすくなっていると思います。手元の操作部に関しても、パッと取り出してすぐに掃除できるような形状にこだわりました」とする。

「集じん部とスティック掃除機の本体をセパレートにした、新しいタイプのクリーナー」。言うのは簡単だが、コンセプト段階から実用レベルの設計への詰め、そこから性能・機能を研ぎ澄ましていく過程では、多くのハードルを乗り越えなければならなかったようだ。

そんな中でも、ユーザーの掃除にまつわるストレス、負担を減らすという目標を忠実に突き詰めていった製品だと感じた。