バルミューダから2021年10月に発売された「BALMUDA The Brew」。これまでの製品と同様、高いデザイン性と独自性で存在感を示し、発表直後から現在も入荷待ちの状態が続いているコーヒーメーカーだ。

  • バルミューダ、コーヒーメーカー、BALMUDA The Brew

    「BALMUDA The Brew」。幅14×奥行29.7×高さ37.9センチという、スリムでコンパクトなサイズ感も評判だ

そんな新製品の開発裏話や知られざるこだわり、デザイン思想について、3人の担当者に話を聞いた。

見せる設計の難しさと、心地よさを意識した「音」

技術部門からデザイン部門へオーダーしたオープンドリップ式だったが、思わぬところで設計のハードルを高くする要素にもなった。

「水が勢いによって跳ねたりもしますので、5本のお湯が乱れずに出て、ピタッと止まるようにするのは非常に苦労しましたね。(注湯口が本体の中に)隠れていればあまり気にする必要はなかったと思いますが、見えるからにはちゃんと見せられるように気を遣いました。加えて、お湯の飛び跳ねを防ぐなど、安全性も担保しなければならず大変でしたね」と、笑いながら明かすのは、バルミューダ 商品設計部プロジェクトマネージメントチームの岡山篤氏。

  • オープンドリップ式を採用したがために、お湯の出方も「見せる」要素のひとつに。設計の岡山氏が「思いがけず最も苦労した」と語った部分だ

    オープンドリップ式を採用したがために、お湯の出方も「見せる」要素のひとつに。設計の岡山氏が「思いがけず最も苦労した」と語った部分だ

バルミューダ 商品設計部 ソフトウェア設計チームの太田剛平氏も、「水道と同じで、勢いを強くすればキレイに出るのですが、コーヒーに対して最適な勢いがあるので、その制約の中でキレイな水流に見せるというのが難しかったと思います」と補足した。

「お湯の出るところは最初は1つでしたが、途中で穴の数や直径も変わっていきました。そして、決まったと思ったら今度はドリッパーの高さを変えるとなって、その都度やり直しです。杯数によっても違いがありますし。『キレイなお湯の出方』はオーダーがあったわけではなかったのですが、技術部門でこだわりました。バイパス注湯に関しても、どこから入れようかというところから始まって、一時はドリッパーの止水弁の横から入れるという案もあったのですが、周りに飛び散ってしまったり……。紆余曲折があって、安全性なども考慮した上で現在の形になりました」(岡山氏)

もう1つ、他のコーヒーメーカーでは考えられない、バルミューダならではの「お家芸」とも言える要素が、音と光による演出だ。「BALMUDA The Brew」では、スイッチを入れると起動音とともにオレンジ色のライトがほのかに灯り、その後は古い柱時計のような「チクタク」という効果音が続き、コーヒーができあがっていく過程を楽しめる。

「ランプはケトル(に採用した電源ランプ)とはまた違って、どうしたらキレイに見えるかと、表面の加工を検討しました」(岡山氏)

「デザイナーと突き詰めたのは、『いかに心地いいか』。ついたり消えたりのスピード感などを何パターンも検討して、ふわっとした、心地いいような感じに調整しています。加えて、運転中に流れる振り子時計のような音は、実はわざと一定ではないリズムで、ジャズのスイングのように2拍目をワンテンポ遅らせて再生しています。LEDの光と音がリンクした心地よさを演出しています」(太田氏)

  • シンプルかつ機能的にまとめられた操作部。電源を入れると、オレンジ色のLEDランプが灯り、サウンドともにコーヒーの抽出過程を盛り上げる

    シンプルかつ機能的にまとめられた操作部。電源を入れると、オレンジ色のLEDランプが灯り、サウンドともにコーヒーの抽出過程を盛り上げる

高価格帯のコーヒーメーカーといえば、これまでは全自動式や、ユーザーが細かな設定を行えるカスタム指向の製品が多かった。対して「BALMUDA The Brew」では、コーヒー豆を挽くミルや保温のためのヒーターを搭載せず、ドリップ機能に注力したシンプルな製品となった。

岡山氏によると、ドリップ機能のみに絞ったのは「(ユーザーに)余計なストレスをかけたくない」というのが一番の理由だった。

「まずはお手入れのしやすさが大事です。構造に関して、初期段階ではオープンドリップ部分にヒンジがあり、上下に開閉する仕様でした。しかし、コスト面と複雑すぎるという理由から採用が見送られました。給水タンクは後方に備えているのですが、タンクを前からも取り出しやすくするというのが理由です。ドリッパーをはめこむU字状のスタンド部分には、サーバーが定位置からズレないように、デザイン側で壁を作ってもらいました」と説明する。

また、「サーバーにはマグネットが仕込まれていて、それを検知することで、マグカップなど他のものを置いても動作しないようにしている」(太田氏)と、外観からは伺い知れない仕掛けが多数ある。

  • 「余計なストレスをかけたくない」という思いで、お手入れ性など使いやすさにも徹底的にこだわった。パッと見ではわからない仕掛けや工夫が多数仕込まれている

    「余計なストレスをかけたくない」という思いで、お手入れ性など使いやすさにも徹底的にこだわった。パッと見ではわからない仕掛けや工夫が多数仕込まれている

バルミューダの家電は、基本的にホワイトとブラックの2色を展開しているものがほとんど。マーケティング部 プロダクトマーケティングチームの佐藤史織氏は、BALMUDA The Brewがブラック1色のみになった理由をこう語る。

「弊社の製品を複数ご購入いただく場合、ホワイトかブラック、どちらかのカラーで統一されている方が多く、今回も本体カラーに関して白を検討しました。ただ、単純に白にするだけではデザインとして成立せず、汚れが目立ちやすいなどのネガティブな要素も生まれてしまうため、今回はひとまずブラックの1色になりました。とはいえ、シルバーの部分が多いこともあり、他のホワイトの製品と並べてみてもマッチします。今後の売れ行きを見つつ、他の色の展開等も検討していければと思っています」(佐藤氏)

  • 汚れやすさなどから白は採用されなかったが、シルバーの配色効果もあり、白色の他の製品とも相性がいい

    汚れやすさなどから白は採用されなかったが、シルバーの配色効果もあり、白色の他の製品とも相性がいい

  • コーヒーチェーンのスターバックスとのコラボモデルも限定で発売。一部のカラーリングや杯数の容量などが、スターバックス仕様にカスタマイズされている

    コーヒーチェーンのスターバックスとのコラボモデルも限定で発売。一部のカラーリングや杯数の容量などが、スターバックス仕様にカスタマイズされている

一般的なコーヒー豆で実現できる「美味しさ」を追求

調理家電である以上、味に対する評価は重要なポイントだ。特に、豆の種類も多く、飲む人の趣味嗜好も多様なコーヒーの世界において、難しいのが「誰もがおいしい」と思える「標準」を決めることだ。

トースターの開発時には、検証用の食パンやチーズなど食材の「指定銘柄」があったそうだが、今回の開発の様子を次のように明かしてくれた。

「最初のうちは、トースターと同じように、ごく一般的なものでもおいしく淹れられるようにと、どこのスーパーでも手に入る、日本メーカーのコーヒー豆を使用して検証しました。追求するうちに、どんな豆でも目標にしていた近い味に仕上がるようになり、『ストロングクリアな味』という共通した特徴にたどり着きました。次に、その特徴がよりわかりやすく出せる豆ということで、入手性も高くてなじみのあるスターバックスの定番商品『TOKYO ロースト』をメインとしつつ、スペシャリティコーヒーなども多数検証しました」(佐藤氏)

バルミューダらしい個性に加えて、有名専門店や評論家など業界のプロたちからも認められた実力から、BALMUDA The Brewは想定の2倍以上という予約注文で、大ヒット路線を歩み始めている。

コーヒーマニアとして、社内では一度断念されかけた製品に熱意を持って開発に取り組んだ太田氏。インタビューの終わりには、「コーヒー豆はそれぞれが持つ潜在性もあり、(機械で引き出せる)美味しさには限界があります。しかし、それぞれの豆が持つポテンシャルを最大限に引き出すための抽出方法の自動化を徹底的に追求し、実現したのがこの製品だと思っています」と自ら評した。BALMUDA The Brewの今後の展開にも期待したい。

  • (左から)バルミューダ 商品設計部 プロジェクトマネージメントチームの岡山篤氏、商品設計部 ソフトウェア設計チームの太田剛平氏、マーケティング部 プロダクトマーケティングチームの佐藤史織氏

    (左から)バルミューダ 商品設計部 プロジェクトマネージメントチームの岡山篤氏、商品設計部 ソフトウェア設計チームの太田剛平氏、マーケティング部 プロダクトマーケティングチームの佐藤史織氏