美顔器や化粧品など、美容にかかわる製品を幅広く手がけるヤーマンから2021年10月に発売された「リフトドライヤー」。ヘアドライヤーに美顔器機能を搭載した、ヤーマン史上初となる異例の製品だ。
製品の開発経緯や発売に至るまでのエピソード、そして製品のこだわりポイントを、ヤーマン ブランド戦略本部マーケティンググループで主任を務める吉田誠氏に伺った。
美顔器とユーザーの距離、縮めるための一手
ヤーマンと言えば、ハンズフリーで使えるマスクタイプのEMS美顔器「メディリフト」(2018年3月発売)が話題を呼んだ。顔の表情筋に電気刺激を与えることで、リフトアップの効果が期待できるというものだ。2020年9月には上位モデルの「メディリフト プラス」をラインナップに追加した。
しかし、吉田氏は「美顔器は一般消費者にとってまだまだ距離感があり、生活の中になじめていないと感じていました」と当時を振り返る。
実際のところ、ヤーマンが約2,400人の女性に対して行ったWebアンケート調査では、「美顔器を購入したことがない」と答えた人は約75%に及んだ。また、購入したことがある人の2人に1人が、継続して使用していない実態が明らかになった。
このような実態から、「新しい美容習慣として、日常的に続けてもらうにはどうしたらいいだろうか?」と検討。たどり着いたのが、日常的に使用しているアイテムに美顔器機能を搭載するという発想だった。そこから、消費者の間に日常的な製品として浸透している、ヘアドライヤーに目が留まった。
吉田氏によると、リフトドライヤーの開発が始まったのはおよそ1年半前(2019年)。まずはヘアドライヤーとしての機能・性能が優れたものであることを前提に、基本性能を詰めていくプロセスから着手した。
頭皮のマッサージ機能を持った「スカルプドライヤー」や、サロン仕様の「ヴェーダブライト BS for Salon」など、ヤーマンではヘアドライヤーを以前から展開している。今回はその開発知見を活かしながら、美顔器機能を持った製品として最適化を図った。
基本的なドライヤーの性能として、こだわったのは「重量」。「重いと日常的に使ってもらえない」と考え、ドライヤーの心臓部ともいえるモーター部品を独自に開発し、小型の高速ブラシレスモーターを採用した結果、約414gまで軽量化に成功。そして風量や熱の出し方、風の進み方、音などを最適化していった。
こうしてヘアドライヤーの仕様・設計がある程度固まった段階で、美顔器機能の搭載に向けて取り組みが始まった。
リフトドライヤーでは、ドライヤー機能の「HAIR」モードと、表情筋リフトケアと美容液の導入ケアを行う「FACE」モード、頭筋リフトケアと美容液の導入ケアを行う「SCALP」モードという3つのモードを搭載する。
このうち、美顔器機能にあたる「FACE」モードと頭皮ケアの「SCALP」モードでは、吹き出し口の先端にアタッチメントの「リフトヘッド」を取り付けて使用する。表情筋や頭筋を刺激する振動モーターと、導入ケアを行うイオン電極を搭載したパーツだが、吉田氏が「設計には特に苦労した」と語る部分だ。
「髪のまとまり感を出すため、風の吹き出し口の口径は、プロ向けのドライヤー並みにしたかったんです。しかし、モーターを小型化したので、それに合う吹き出し口の穴のサイズや形状が必要となり、風量や風圧、風の勢いとのバランスを調整するのがとても難しかったです」(吉田氏)
リフトドライヤーでは、構造上「FACE」モードと「SCALP」モードでも温風が出る。しかし、髪を乾かすのではなく、顔や頭皮に当てる用途なので、「HAIR」モードとは設定を変えなくてはならない。特に「FACE」モードでの温度制御に苦労したそうだ。
「髪や頭皮と違って、顔の皮膚は乾燥に対してとても敏感なので、より一層制御に注力しました。そのため、『FACE』モードで運転時に発生する温風は、顔に当てても不快感のない温度と風量となるように絶妙なバランスの調整が必要で、非常に難儀しました」と明かす。
また、ヘアドライヤーと美顔器を一体化するにあたり、それぞれの機能および性能がトレードオフの関係になることもある。特に、「形状をドライヤー側に寄せるか、美顔器側に寄せるか」が悩みの種だったそうだ。
「ヘアドライヤーは横向きに使用しますが、従来の美顔器はスティック状で、縦に持って使います。根本的に異なるこの2つをどのようにして一体化し、成り立たせるかに悩みました。基本はヘアドライヤーの形状でありながらも、美顔器としても使いやすいように、ハンドル部分の重心、径、長さ、握りやすさなどを念入りに検討しました」(吉田氏)
一般的なヘアドライヤーと同様、ハンドル部分にボタンを設置した。だが、ドライヤーと美顔器という2つの機能を備えているため、わかりやすくかつ使いやすいよう、インターフェースには試行錯誤が重ねられた。
「まずはリフトヘッドの装着の有無によって、本体側で機能を自動選択するようにしました。リフトヘッドがなければドライヤー機能の『HAIR』を、装着時には美顔器機能の『LIFT』を選びます。モードボタンを押すことで、『HAIR』の状態からは『UP』や『SHINY』、『SMOOTH』と3つのモードを、『LIFT』であれば『FACE』と『SCALP』の2つのモードをユーザーが選べるように、(ドライヤーと美顔器の)表示を左右で分けています」(吉田氏)
アタッチメントを1種類にした理由
カラーバリエーションは、ゴールド、グレー、ホワイトの3色。いずれもメタリック調だが、マットで落ち着いた質感だ。本体の中ほどにはなだらかな流線状のくぼみが設けられ、化粧水のボトルなど、上質なコスメを思わせるデザインだ。
「角度を設けることにより、立体的に見える効果を狙っています。フェイススチーマーの『フォトシャイン』も2021年の春に発売したのですが、そのデザインの発想と共通した意匠です」とその意図を語った。
ヘアドライヤー全般でいえば、ブローやスタイリングなど、用途によって付け替える複数のアタッチメントが付属することも多い。対して、リフトドライヤーのアタッチメントはリフトヘッドのみ。締めくくりとして吉田氏は、その理由を今後の可能性も踏まえて次のように語ってくれた。
「リフトドライヤーでは、ノズルの違いによって風の指向性を変えるよりも、モーターの能力を活かし、風を絞って届かせることに注力しました。ヘアドライヤーとしても汎用性と応用性のある製品に仕上げていることもあり、付け替え用のノズルはあえて用意しませんでした。ですが、リフトヘッドは本体と通電できる機構のため、これまでにない機能を持ったアタッチメントを展開する可能性は多々考えられます。今後も新しい機能を持った製品で、ヘアドライヤー市場自体の可能性をいっそう広げていきたいと思っています」(吉田氏)