2017年以降、独自のEMS製品を次々と展開しているアテックス。2020年10月に発売された「ルルド EMSパワーロール」(以下、EMSパワーロール)は、筒状の機器に身体の部位を乗せるだけで筋肉を刺激して鍛えるEMS機能とバイブレーション機能を併せ持つ、新感覚のフィットネス製品だ。
今回は、新製品をはじめ同社が次々と発売しているEMS製品に関して、プロダクトデザインの視点から注目。開発の経緯や製品化までのプロセスについて、アテックスの企画・開発担当者の面々に話を聞いた。
最新アイテム「EMSパワーロール」の開発秘話は後編に譲り、まずは「EMSパワーロール」の前身で、“身に着けない”EMS製品としてヒットした「EMSシート」の開発秘話を聞いていく。
“身に着けない”で使える「EMSシート」を開発したワケ
EMSとは「Electrical Muscle Stimulation」の頭文字を取った言葉で、電気の刺激で筋肉を動かし、筋トレのような効果が期待できるというもの。アテックスではこれまでにも、「シェイプアップリボン」、「シェイプアップベルト」といったEMS製品を発売。2020年春には、新ブランド「ルルドスタイル」を立ち上げ、「EMSシート」を発売した。
パッドやベルトを腕や脚などに巻き付けたり貼ったりする、従来までのスタイルとは一変。わずか1ミリの薄いシートに、身体の部位を乗せて使う。新たなスタイルのEMS製品として、手軽さや収納性からも評判を呼んでいる。
商品企画を担当した、アテックス 企画マーケティング部・部長の田代晶子氏によると、新ブランド立ち上げの当初から、身に着けないEMS製品は検討されていた。
「ここ数年、広い範囲に効果が出せる足裏のEMS機器が注目を集めていました。そこで、第1弾の製品は“足裏に使えるEMS関連製品”という構想がありました」
アテックスが展開する「ルルド」ブランドといえば、愛着を感じるデザイン性と、毎日続けられる使い勝手のよさで、若い女性を中心にユーザーの心をつかんでいる。EMS製品の第1弾として発売するにあたっても、ブランドの持ち味である「他にない独自のデザイン性」、「日常生活のジャマにならずに、使い続けられること」の2点がテーマとして掲げられたそう。その結果、敷いて使える現在のシートタイプに決定した。
「樹脂製で厚さ20~30ミリの機器も検討したのですが、収納しやすさと使いやすさを考えると、できるだけ薄くて軽いことが条件でした。他の製品との差別化ができないこともあり、“厚さ1ミリのシート状”にこだわって開発を続けました」と話すのは、アテックス 商品開発本部 商品開発第2部・次長の佐藤奈津貴氏。しかし、目標が定まったとはいえ、具体化が進むまでのプロセスは容易ではなかった。
最初に難航したのは素材の選定だ。「薄くてきれいなだけではなく、通電し、かつ耐久性も耐水性も必要でしたから、その条件をクリアできる素材がなかなか見つかりませんでした」と明かす。
そんな中、ブレイクスルーとなったのは、田代氏のひらめき。たどり着いたのは、PVC(ポリ塩化ビニル)という素材だった。「アパレル業界ではバッグなどでよく用いられている素材ですが、これを使えないか? と提案しました。他のスタッフも『それだ!』と意見が一致し、そこからは開発が一気に加速していきましたね」と振り返る。
EMSツールならではの開発の悩み
EMSツールは使用するとき、身体に通電させる必要があるため、多くの製品では、ジェルまたは金属を用いた仕組みを採用している。例えば、アテックスで既に発売している「シェイプアップリボン」の場合、ジェル状のシートを採用して通電させている。
しかし、ジェルは消耗品のため、ランニングコストが必要になるのが難点。そこで次に発売された「シェイプアップベルト」では、身体に水を噴き付け、金属部品を接点にして通電する仕組みが採用された。
“使い続けられること”も重視されたEMSシートだが、その素材であるPVCは絶縁体。「通電のための何かしらの加工を、表面に施す必要がありました」と佐藤氏。
通電性と同時に、触感や硬さ、身体へのフィット感といった快適性との両立も求められる。最終的に採られたのが、銀の素材が入ったインクをPVCの表面にプリントするという手法だ。
「シルバーは金属としても色が出しやすく、見た目にもキレイに仕上がるメリットがあります。とはいえ、PVCに銀のプリント加工を施す仕様は、今まで弊社ではやったこともなく、機械もありませんでした。そこで、協力会社に一からお願いして実現しました」
オーロラ×ウェーブのデザインに隠された機能性
PVCの素材を決定し、プリント加工に至るまでは順調に開発が進んだ。次なる課題は、本体の制御・操作部分だ。
「シートが薄いので、樹脂の部分も当然薄くしたいところなのですが、中に入っている基板などの部品を既製品で賄おうとすると厚みが出てしまいました。内部の部品をすべて独自に作ったことで、最終的には操作部を含め、当初の半分の厚み(18ミリ)に収めることができました」と佐藤氏。
さらに、シートの素材として採用されたPVCは、強度が高い一方で熱に弱い。「高温多湿の環境下などで変質してしまった場合、シートがベタベタにくっついて使えなくなってしまう可能性があります。そこで、べたつきを防止するための加工も施しています」と解決策を明かした。
EMSシートは、オーロラ状に輝くデザインも特徴的だ。佐藤氏によると、このデザインにもちょっとした仕掛けがある。
「オーロラのデザイン性と強度を保つために、実はシートの内側は3層構造になっています。とはいえ、あまりに薄いと安っぽく見えてしまい、厚すぎるとゴツゴツしてしまうことから、複数のパターンを作成して、最終的にちょうどいいものを選びました」
通電のために施されているシルバーのプリントにも秘密がある。ウェーブ状のデザインは、「電極なので、プラスとマイナスに分かれて電流が流れる必要があります。そこでシートの端から端まで、どの部分に触っても十分に通電できるようにと考えたとき、このデザインが最適でした。見た目だけではなく、実は機能的にも意味があるデザインなのです」と田代氏は補足する。
独自のデザイン性と、ジャマにならずに使い続けられる設計のEMS製品を続々と展開しているアテックスの「ルルド」ブランド。「EMSシート」の魅力的な外観は、ブランド独自のテーマを尊重した末にたどり着いたものだった。
前編では、2020年秋に発売された「EMSパワーロール」の前身となる「EMSシート」の誕生秘話を中心に紹介した。次回の後編では、後続製品である「EMSパワーロール」につながる開発裏話と、2019年秋に発売されたEMS美顔器についてもスポットを当てて、アテックスのEMS製品全般に通ずるプロダクトデザインの真髄に迫りたい。