自動車ライターの原アキラさんに名車・メルセデス「S124」と暮らす日々の悲喜こもごもを聞かせてもらう本連載。2回目となる今回は、名車に乗っていることによるメリットと、少し古いクルマゆえに手のかかるS124のメンテナンス事情についてだ。
「S124」はネタになるクルマだった
メルセデス・ベンツの「S124」を所有していて、どんなメリットがあったか。特に、クルマの業界に身を置くものとしては、例えばこんなことがあった。
ちょうど1年前の2019年6月、マツダのコンパクトモデル「MAZDA3」の発表会にて、この美しいクルマのフォルムを担当した同社の土田康剛チーフデザイナーにインタビューした時のこと。一通りの話を聞き終わった時、「マツダが今も研究用に持っていると聞いているメルセデスの124に今も私は乗っているのですが、それからヒントを得た部分はありますか?」と聞いてみたのだ。
すると、土田氏の眼鏡の奥の表情が一気に緩んで「あ、あれカッコいいなー! さすがに、デザイン面でMAZDA3との親和性はありませんが、長い時間を経ても残るタイムレスなものはすばらしいと思っています。“タイムレス”という言葉をキーワードにすれば、MAZDA3と124の共通点が見えてきます」と応じてくれた。
このやり取りを横で聞いていたMAZDA3開発主査の別府耕太氏も、「124のようなオールドスタイルの欧州車の挙動は、人間にとって自然で、楽な動きが実現できていました。MAZDA3はそうした性能を、最新技術を使って実現したのです」と解説してくれた。こんなふうにインタビューや話のきっかけを作る上で、「124」という共通ワードは業界内でもきちんと認識されていて、「もっと話を聞きたい」と思った時の材料としては、最高のネタになるのである。
ちなみに、スバルも124を1台持っているのだそうだ。
「S124」の整備記録を振り返る
さて、ここからは前回の記事の続きなのだが、我が家に7年前にやってきた、私にとって「S124」所有1号機となった「E220 ステーションワゴン」について、もう少し話をしてみたい。このクルマは、自動車関連の発表会や試乗会に向かう際の取材の足として、また、故郷・岡山への往復(片道約650キロ)や観光、近所のお買い物、杉並に住む孫と遊びに行く際の交通手段(筆者の住まいは国立)など、実によく乗った。製造から20年以上が経過しているにもかかわらず、現役の実用車として大活躍したのだ。
欧州に取材に行くと、Eクラス ステーションワゴン(まだ124も走っている。4気筒モデルが多い)のタクシーを見かけることが多い。それは、このクルマが実用性と耐久性を兼ね備えている証拠だ。オドメーター(走行距離計)は数十万キロという個体もあると聞いている。
とはいっても、やはりそこは機械なので、故障や調整はそこそこあった。わがE220を振り返ってみると、以下のとおりだ。
・納車後すぐに高速道路でステアリングがぶれる→タイヤが古いミシュランだったので、近所の「タイヤ館 国立」でブリヂストン「REGNO GR-X」(純正、195/65R15)に交換、アライメント調整を行う
・2013年9月:ラジオの自動アンテナが動作不良(今はもう見られない自動伸縮式)、調整
・2014年1月:パワステが不調→茨城県那珂市の「JUST」でステアリングギアボックスをオーバーホール(走行距離8万5,783km時、費用は7万1,260円)
・2014年3月:純正オーディオの音に納得がいかず、「ヤフオク!」でナカミチ「CD-45z」(チューニング品)を購入、装着
・2014年3月:ステアリング周りの異音調整(グリスアップ)と後付けリモコンドアロック不調修理(8万6,483km時、¥8,400)
・2014年7月:エンジン始動せず→ECU(エレクトロニック・コントロールシステム、いわゆるコンピューター)をリビルト品に交換、エアマスセンサー交換(8万8,788km時)
・2015年4月:高速道路でリアサスのフワフワ感止まらず→リアアキュムレーター、前後ブッシュ類交換(9万7,226km時)
・2015年8月:エアコン効かず→コンプレッサーとレシーバータンク交換(9万9,850km時)
・2015年9月:ラジエター、アッパー&ロワホース、サーモスタッド交換(10万2,089km時)
・2016年5月:エンジンの震えが大きく、エンジンマウント交換(10万9,321km時)
・2016年8月:マフラーから異音(カラカラ音)、純正新品に交換(11万4,256km時、¥9万7,124)
・2016年10月:水温異常のため、カップリングファンとラジエターホーズ交換(11万5,909km時)
・2016年12月:ブレーキディスクローター、パッドを四輪とも交換(11万7,360km時、¥10万9,280)
・2017年11月:雨漏りで助手席付近に水が溜まる→リアクオーターガラスからの雨漏りが判明し、脱着・修理(12万6,936km時、¥3万3,912)
・2018年4月:ガタが来ているフロント側ジョイントディスクとフロント左右ロアアームジョイント交換(13万0,794km時、¥15万5,952)
・2018年11月:オドメーター不良→メーターギアシャフトが抜けていたため脱着点検(13万7,007km時、¥8,380)
・2019年2月:フロントバンパーレール交換とフロント左右ショックアブソーバー交換(14万362km時、¥24万483)
・2020年3月:バッテリー電圧低下のため交換(15万4,202km時)
このように、大きなものだけ挙げてみても結構な数と出費になる。オイル交換や車検費用(筆者の場合、国立市の多摩自動車検査登録事務所が自宅と目と鼻の先なので、マイカー車検を実施)はまた別で、トータルすると大体、購入額と同程度の費用を整備にかけたことになる。
2020年に入ったあたりで、普段からS124を見てもらっていた後藤自動車には、「そろそろ、ATとかハーネスとか、大物が逝ってしまいそうな予感が……次も同じS124でいいので、今度は6気筒で良さそうなのがあったら、探しておいてもらっていいですか」と頼んでおいた。シンプルな4気筒モデルは、ちょうど7年間で8万キロ乗った。次はやっぱり6気筒。「電動化が進むまでのあと10年、自分の大好きなクルマと過ごそう」と考えたのだ。
しかし、お目当てのクルマはなかなか見つからない。話を聞くと、「124の上モノはもうすっかりタマ数が少なくなっていて、程度の良いモノは海外に流出してしまっているか、所有者が囲っているのかも」とのこと。同時に調べていたネットの情報では、横浜市都筑区でW124を専門にやっている「アイディング」に3台あった。そこで、試乗してみて決定したのが、本連載の主役となるS124型所有2号機の「E280 ステーションワゴン」というクルマなのである。
車検証を見ると、初年度登録は平成6年(1994年)11月。型式は「E-124088」でボディサイズは全長4,760mm、全幅1,740mm、全高1,490mm。前後重量は前860キロ、後810キロ、原動機の型式は「1044」となっていた。
総排気量2,799ccの直列6気筒DOHCエンジンは、最高出力200PS/5,500rpm、最大トルク28.2kg/3,750rpmを発生する。シルバーボディの右ハンドルで、内装はウォールナットのウッドパネルとブラックのレザーシートが奢られている。
アイディングの白濱勝秋代表取締役の話だと、納車までにかなり手を入れる必要があり、「ちょっと時間がかかります」とのこと。こちらとしても、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、自動車関連については発表会も試乗会もキャンセルが続き、取材の機会が全くないのだ。のんびりと連絡を待つことにした。